018・潜入と捜査


 三日後の二十時を過ぎた夜の街に僕は訪れていた。

 その身なりはビジネススーツに身をまとわせて如何にも会社員に見える。

 実際はただの無職なのにどうしてこのような格好をしているかと言うと、相手を騙すためだ。

 ボロボロの服装だとホームレスと思われ、相手にされない。それだけではなく髪を短く切り、綺麗にセットしている。何事にも見た目というのは大事なようだ。


「なかなか似合っていますよ。保高さん。まるで出来る社会人みたいです」


「実際は何もできない無能だと言いたいのか」


「自意識過剰ですよ。誰もそんなこと言っていません。思ってはいますけど」


「思っているのかよ」


「さて。では、事前に打ち合わせした通りに頑張ってください」


 速水は誤魔化すように早足で去っていく。

 速水がいなくなったことにより、急な不安が僕を襲った。

 果たして本当に上手くいくのか。失敗したらどうしようとマイナスな思考ばかり頭に浮かぶ。


「保高さん。ファイトです」


 イヤホンから速水の声が耳に入る。

 いつでも指示が聴けるように耳にはイヤホンを取り付けている。

 この励ましが僕の不安を和らげた。

 僕は一人じゃない。いざ、戦場へ。


「お兄さん。お兄さん。ちょっと時間ある? 今なら可愛い子がいるよ」


 客引きと思われるチャラい男だ。

 あの手この手を使い、店に誘導する役目を担う。声を掛けられたら最後。気の弱い人ならそのまま店に誘導されてしまう。僕のその部類の人間だが、今回はあえて誘導される。目的の店の客引きを探し当てることから始まる。

 歩くだけで一人、二人と磁石のように客引きが寄ってくる。

 そしてついに目的地の店の客引きに声を掛けられた。


「お兄さん。時間あるならうちの店、来ない? 可愛い子いっぱいいるよ」


「暇はありますが、お金がないです」


 すぐに食いつかない。まず、一度断りを入れる。


「でしたら是非、うちに。一時間三千円、いや二千円でどうですか?」


 お金を理由に断れば必ず安さで推してくる。これも計算のうちだ。


「二千円? 本当に一時間二千円で済むんですか?」


「勿論です。私の方から店に掛け合いますから。すぐそこなんで」


「じゃ、ちょっとだけ」


「ありがとうございます。こちらです」


 客引きにまんまと引っかかった僕は店に誘導される。

 全ては作戦の内だ。

 店は『キラキラ白雪姫』という名前だ。

 店に入るとボーイが案内に来る。


「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。ご指名等はありますか?」


 速水からは特に指名の指定はない。任せると言われていた。

 どうせ接客してくれるなら僕好みを指名したい。

 店の前に掲示されている写真を見て直感で決めた。


「あの、リオンさんでお願いします」


「リオンですね。かしこまりました。どうぞ、こちらへ」


 僕は清楚そうな女の子を指名した。

 どちらかと言えば真面目そうな子がタイプだ。

 ギャルみたいな子は怖くて話せない。

 席に案内されると個別でカーテンに仕切られた空間になっており、他の客の視界に入らないようになっていた。僕としてはありがたい。

 さて、潜入は成功だ。問題はここからだった。


「集中、集中」


 僕は深呼吸をして高めた。

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