017・作戦と実行


 風呂に入り、食事をしてフカフカのベッドをたっぷりと堪能しながら睡眠を取る。

 今まで当たり前にしてきたことだが、今の立場になってそんな当たり前も懐かしく思えてしまう。そうなってしまったのは自分の不甲斐なさから起こってしまったものである。だが、今までの生活では味わえないことが一つだけある。

 それは女子高生と共に生活しているという状況だ。

 僕の隣で無警戒に熟睡しているその姿は微笑ましくも思える。

 起きている時は可愛げがないのだが、こうして大人しくしている時だけただの少女に見えてしまう。

 本当に寝ているのか、その寝顔を近くで拝もうと近付いた矢先である。


「ん、んんー」


 速水は魘されながら目を覚ました。

 まずいと思い、僕は背を向けて平然を装った。

 勢いよく上体だけおこし、速水は呟く。


「何だ。夢か」


「嫌な夢でも見たのか?」


「はい。保高さんに裏切られて殺されそうになりました。寸前のところで交わして逆に保高さんを殺したところで目が覚めました」


「物騒な夢だな。僕、お前に殺されるのか」


「夢の話です。気にしないで下さい」


 いや、ちょっと気になるところだ。

 家を出てから今の今で動き続けてヘトヘトだ。ようやく身体が休まった気がした。


「ホテルといえばモーニングバイキングですね。食べに行きましょうか」


 軽い身支度を済ませて僕と速水は食堂へ向かう。

 バイキングとはついつい何でもかんでも皿に盛り付けてしまい、満腹の後悔を襲うのがよくあること。僕もその傾向にある。


「保高さん。盛りすぎですよ。そんなに食べられるんですか?」


「気合いで食べる。やっぱりお金を払って食べるご飯は安心して食べられるよ」


「まぁ、確かにコソコソする必要はありませんからね」


「お前ももっと食べればいいのに」


「満腹は動きを悪くしますので必要最低限食べれば充分です。それに太りたくないので」


 速水を見て僕が後先考えずに食べていると感じさせる。それでも食べられる時に僕は食べたかった。結果、僕は移動するのに支障があるほど食べてしまった。 

身体が休まったところで僕と速水に落ち着く余裕はない。

決まった寝床があるわけではないので今日のこと、これからのことを常に考えなければならないのだ。その中でも盗んだ金を取り返す算段を考えなければならない。


「ところで誰なんだよ。その金を盗んだ人物は」


「そうですね。パートナーである保高さんには知る権利があります。お話ししましょう。奴の名前は冴島雄吾。キャバクラの店長を務める人物。店からはジョーカーとよばれている危ない人です」


「ジョーカー?」


「噂では裏で闇業者と繋がりがあると言われている。人身売買や違法薬物の取引とか。実際に店で働いているキャバ嬢も人身売買の人が何人かいるって聞いたことがある」


「お前はどうしてそういう危ない奴と関わりを持つんだよ。怖いもの知らずというか、ただのバカというか」


 僕は頭を抱えながら溜息を吐く。自分から危ない橋を渡る根性が分からなかった。


「保高さん。少々の危険を犯さないと得るものも得られませんよ?」


「お前の場合はただの無謀だ。巻き込まれる僕の身にもなってくれ」


「後の祭りです。過ぎたことをグチグチ言わないで下さい」


「お前なぁ」


「それより、お金を取り返す計画を思いつきました」


「どうするんだ? まさか店に乗り込むのか?」


「珍しく察しがいいですね。保高さん。だが、私は顔が知られているから直接乗り込めないけど、保高さんなら」


「僕に何をさせるつもりだ?」


「大丈夫。私が指示を出すから保高さんはそれに従えばいいよ」


 速水の発言に怪しさしか感じない。

 しかし、どのみち僕が動かなければお金が戻ってこない。腹を括り、やるしかない。

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