013・万引きとその裏側
「お待たせ。保高さん」
僕の思いは通じたようで速水は戻ってきてくれた。
それを見たホームレスは諦めてその場を去る。
「保高さんもついにホームレスの仲間入りという訳ですか」
「違う。あいつらが勝手に話しかけてきただけだ」
「ほー。でも、実際に保高さんも似たようなものだから良いんじゃないですか」
「どういう意味だ。それより飯は?」
「任務完了であります」と速水は敬礼した。
速水が持ってきたのはハンバーガーやサラミチキンなど。肉といえば肉だが、牛丼みたいなガッツリしたものが食べたい。まぁ、文句は言えないだろう。
素直に速水が盗んだものを口に運ぶ。
「なぁ、お前って高価なものを盗まないよな。どうせ盗むなら高いものを盗めばいいのに」
「保高さん。それは欲にまみれた極悪人のすることです。これだから何も知らない人は困るんです」
「どういう意味だ?」
「欲を言えば、本当はもう少し大物を狙いたいところですが、それはナンセンスです。高価な物を食べたいと思いますが、我慢してください」
「何でもかんでも盗んでいるって訳でもないのか」
「当たり前です。盗る商品でも大きさや形で難易度は変わります。ガムのような小さいものであれば簡単ですが、丼ものや弁当などの商品は難しいです。後は場所も関係しますね」
「場所?」
「えぇ。万引きをする上で警戒すべきは防犯カメラと万引きGメンの存在です。如何に死角に入れるかが勝負所です。何でもかんでも万引きしている人は初心者。捕まるということは腕が未熟な証拠です」
「考えているとは思うけど、具体的にどうやるんだ?」
「自分の立場ではなく店側の立場に立つことです」
「店側の立場?」
「えぇ、店としては意地でも捕まえたい。ではどのようにして捕まえるかというのを考えるんです。例えば防犯カメラの死角があると犯人側は盗むチャンスです。当然、店側もそれを読んで万引きGメンを配置するはずです。監視すると必ず意識が犯人に向いてしまう。気配を殺しているようで実はバレバレです。私に掛かれば誰が万引きGメンかすぐに分かってしまいます。そしたら後は簡単。防犯カメラと万引きGメンを警戒すれば犯行もスムーズに行えます。まぁ、他にも細かいコツはありますが、そんな感じです」
発言が既にプロそのものだ。やっていることは犯罪であることに変わりないが、考えられている。犯罪をしているのが勿体無いとさえ感じてしまう。
こういう頭脳を正しいことに使えないのだろうか。
空腹を満たせたところでいよいよ僕と速水は動き出す。
「それでどこに金を隠したんだ?」
「そう慌てないで下さい。お金は逃げませんから。保高さんは大人しく私についてくればいいんですよ」
都市部から離れて僕と速水は郊外まで来ていた。
大都市から少し離れてしまえば田んぼや人通りは少なくなる。
一日中歩き続けて気付けば夕方。陽はすっかり沈みかかっていた。
「速水。どれだけ歩かせるんだ」
「文句言わないで下さい。もう少しですから」
「もう少しって五時間前にも同じことを言っていたぞ」
「黙って歩いて下さい。私だって疲れているんですから」
速水に逆ギレされてしまう。
今は速水の後ろについて歩くしかない。
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