003・犯罪と満腹
女子高生の名前は
歳は十七歳で現役の女子高生だ。
制服を着ているから学校帰りに違いないが、果たして金がないのにどうやって食べ物を食べさせてくれると言うのだろうか。素直に疑問を抱く。
「ちょっと待って。三十分くらいで戻るから」
そう言われて、僕は公園のベンチで待たされることに。
何かアテがあるのか。
早水がどこかに行って三十分くらいした頃だ。
このまま戻って来なかったらどうしようと考える。
その時は騙されたと受け取るしかない。とは言え、空腹が限界なのは事実。出来れば何か持って来てほしい思いが優っていた。早水がどこかへ行ってから四十分程経った時だ。
ようやく速水は戻ってきた。
まずは信じて待って良かったと心から思う。
「お待たせ。待ったよね」
「どこに行っていたんだ?」
「ちょっとね。ちゃんと約束のものを持って来たわよ」
そういう割に速水は手ぶらだ。どこに持って来たというのだろうか。
バカにしているのか? それとも僕が空腹のあまり目がおかしくなったのだろうか。
すると早水は上着を大きく捲り上げた。
次の瞬間、上着からパンや惣菜など食べ物が次々と地面に零れ落ちた。
僕は嫌な予感がした。
そう、何か買ったのであれば店の袋に入っているはずだ。
袋が有料でその分のお金をケチったことも想定できるが、速水はお金を持っていない。
ではどうやって食べ物を持って来たというのだろうか。
答えは簡単だ。
つまりあれだ。そう……。
「お前、まさかそれ! 万引きしたのか?」
僕は速水に指を差す。
「ご名答。私の手に掛かればこんなの序の口よ。どう? 恐れ入った?」
誇らしげに言う早水だが、なんてことをしてくれたんだと言う思いが頭でいっぱいだった。万引きを自慢されても何にも自慢にならない。
「馬鹿野郎。今すぐ店に戻って謝りに行くぞ」
「お腹空いたって言うから仕方がなく持ってきたのにそれはないんじゃないですか?」
「誰も盗んでまで食べたいとは思わない。万引きをすれば簡単に空腹は満たせるが、僕が今日までそうしなかった理由が分かるか? 悪いことだからだよ。これじゃただの犯罪じゃないか」
「何だ。せっかく持って来たのに要らないなら私が全部食べちゃいますよ? それでいいんですか?」
「そういう問題じゃなくてこれは立派な……」
「犯罪とでも言いたいんですか? それくらい知っていますよ。いけないことくらい。でも生きる為にはやむ追えないこともあるんです」
悪人の発言のはずなのに速水から滲み出る目は正義である。
まるで自分が正しいように。
「食べるか食べないか。それはお任せします。でも、私がやったことは世間体がどうということより、生きるためにしていることです。考えてみて下さい。世の中には贅沢な暮らしをしている人がいれば今日、どう生き延びるか頭を悩ませている人だって居ます。自分がこの世に存在したいなら生きることだけを考えるべきです」
速水はおにぎりを僕の前に差し出す。
「それはそうだが」
おかしな話だ。目の前で犯罪行為を見て僕は自分の欲望が抑えきれなかった。
生きたい。死にたくない。今、生き残るためには何か食べるしかない。
だが、差し出されたこのおにぎりを食べてしまえば僕は罪を着せられることになる。
この一口が運命の別れ道になるだろう。たかがおにぎりで僕の命運を決められるとは何とも酷な話だ。
自分の中の天使と悪魔が囁いている気がした。
体というのは正直で『食べろ』という指令に支配されていた。とてもではないが僕の意思だけではどうにもならない。
だから僕は食欲という欲望に飲まれた。
「美味い」
いつの間にか、僕は速水が盗んだおにぎりをがむしゃらに頬張っていた。
久しぶりの食事に涙を流していた。食べることがこんなにも大変なことだったなんて今まで気付かなかった。僕は今、ちゃんと生きている。満腹が生命を繋げたんだ。
ただ、満腹で冷静になったことにより罪悪感が襲う。店のモノを勝手に盗んでそれを食べた事実が頭いっぱいに広がる。やってしまったと強い思いが駆け巡る。
終わってから考え出したらキリがない。今はそっと心の中に留めて今日のところはとりあえず家に帰ろう。
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