第35話 注文の品

「盛り上がってるところお邪魔だったかしら?」


 いつの間にか階段のところには家村親子がお盆を手に立っていた。


「いや良いんですよ!並べてください」


 かなめはそう言うと自分をにらみつけてくる小夏に嫌味たっぷりの笑みを浮かべる。


「はい、焼鳥盛り合わせ」


 小夏は叩きつけるようにかなめの前に皿を置いた。


「それが客に対する態度かよ」


「外道は客には入らないの!」


 小夏はふくれっ面でそう言うと見慣れない麗子には満面の笑みで接客する。


 ただ一人、この和んだ雰囲気に入り込めない人物が存在した。


「まあ……これが焼鳥ですの……どう食べれば……」


 麗子は初めて見る焼鳥を不思議そうに眺めた。茶色い肉の焼いたものの香りは麗子も気に入っているようだったが、その目は不思議なものを見るような色をたたえて皿の上に並べられた焼鳥の串を見つめていた。


「見て分かんねえかな……串もってこうだ」


 かなめはネギまを手に取るとそのまま口に運んだ。そのまま一気に口に持っていきがぶりとかみちぎる。


「手で串を持つんですの……ちょっとそれは……」


 ためらいがちに麗子はレバーに手を伸ばした。それはあまりに恐る恐ると言う調子だったので新しいビールを飲み始めた島田のツボに入ったのか彼は急に咽始めた。


「ああ、田安中佐。こういう食べ方もありますよ。まず、串を持って」


 麗子の目の前に座っていたパーラが気を利かせてまず鶏もも串を目の前の小皿に移す。


「そして一切れ一切れ串から外して……」


 パーラは器用に箸で串から肉を離していく。


「パーラ。そんな食い方して旨えか?焼鳥は串から直接食う!それが一番!麗子、やってみろ!」


 上品な食べ方を教えようとするパーラを遮ってかなめはそう叫んだ。そしてついでにネギまのネギを口に放り込む。


「串から直接……」


「田安中佐。そんな食べ方したら喉を突きますよ」


 レバーをそのまま口に突っ込もうとする麗子にカウラが思わずそう言った。


「見てろ麗子。こう食うんだ」


 かなめはそう言うと器用に焼鳥を食べる。


「ずいぶんとまた……豪快ですわね……ちょっと、この肉苦いですわよ」


「レバーは苦いもんだ。それが癖になるんだ」


 戸惑う麗子をかなめが鼻で笑う。


「甲武の庶民もこうやって焼鳥を食べるんですか?」


 誠は鶏もも串を平らげた鳥居にそう尋ねた。


「まあ……そうですね。軍に入ってからは何度か同僚と行きましたが東和と変わらないですよ」


 鳥居はそう言って誠に微笑みかけてくる。


「同じ日本語文化圏だもんね……まあ日本語が使われてるけど遼帝国はちょっと違うけど……でも、味付けとかは?」


 アメリアは笑顔で鳥居に尋ねた。


「店によってまちまちなのは東和と同じですよ。自分はここの味付け好きですよ」


「そりゃあ良かった……食え、食え」


 かなめはまるで主気取りでそう言った。


「じゃあごゆっくり」


 家村春子はそう言って麗子を肴に盛り上がっている一同を二階において出ていった。

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