第118話 王宮(1)
新星杯の後。
「お主に会いたいと言う人がいてのう。
デューにはわしから使いを送っておくから、ちと付き合ってくれんかのう」
そう言って連れて行かれたのが、王都の南東にある王宮だった。
また師匠が怒ってそうだな……
俺のせいじゃ無いけど。
流石に訓練施設が多数ある王立学園ほどでは無いが、例によって馬鹿でかい王宮には、いくつか門がある。
南側にある正門は、王や王への正式な使者、正式なイベントなどで謁見する貴族が利用し、明陽門と呼ばれる。
その他には、王族が使用する東門や、業者の類が出入りする西門などがあるが、先生は、王に直に仕える人間、例えば貴族家当主や王国騎士団員、高級国家官僚などの位階を持つ者が利用する
◆
迫力のある麒麟や龍、あるいはユニコーンなどの彫刻が稠密に施された、とても裏門とは思えないほど豪奢な門に、近衛の騎士団員と思しき門番が2人。
先生に体を正対させ、右手を胸に敬礼をする。
先生と俺は答礼して門をくぐった。
先生は騎士団を引退しているが、今も顔パスのようだ。
そう言えば確か王の相談役とか言う身分を与えられているとか聞いたな。
因みに王国騎士団員である俺も、王宮敷地内へは手続きなく入れる。
ちなみに、この国でいう『王宮』とは、塀と門により囲まれた1番1条から2番2条までの5キロメートル四方の敷地の内部を指す。
その中にある王の居および行政施設である『宮殿』と『王宮』とは、便宜的に使い分けられている。
そして宮殿に手続きなく参内できるのは、いかに王国騎士団員とはいえ非常事態を除き近衛軍団員及び位階第三位(副軍団長クラス)以上の騎士に限られる。
近衛軍団が超エリート集団である王国騎士団員にあって、エリート中のエリートと呼ばれる所以だ。
王宮敷地内には、位階持ちの高級官僚が勤める様々な行政設備があるが、先生はその内の1つ、近衛軍団が詰める近衛駐屯所へと足を向けた。
蛇足だが、当然ながらこの広いユグリア王国を、王に直接仕える高級官僚だけで回せるわけがないので、王宮の周辺には日本で言う官庁に当たる施設がぐるりと取り囲み、王国に雇用されている位階を持たない職員はそちらで業務に当たっている。
……確か近衛軍団長は、母上の実家が関係あるらしい、ドスペリオル家の現当主が務めているんだよな。
なぜ母上が生家と縁を切っているのか知らないし、もし訪問先が近衛軍団長で、妙な展開に発展したら嫌だな……
俺は嫌な予感を感じ始めながら、先生に恐る恐る尋ねた。
「あの、私に会いたいと言っているのはどなたなのでしょう?」
するとゴドルフェンは、あっさりとこんな事を言った。
「ん?
ああ言うておらなんだな、国王陛下じゃ」
「あ、そっちですか、よかった〜。
……良くない!!!!
こここ、国王陛下ですって?!
何故いきなり見習い騎士団員が国王陛下の呼出しを受けるんですか!?
私は謁見の作法も何も知らない田舎貧乏子爵の三男坊ですよ!!」
旅人が王宮にノーアポで訪ねても誰も止めないばかりか、いきなり王家の重大な悩み相談をされる某有名RPGじゃあるまいし!
なんでいきなり陛下に会う事になるんだ……
「ふむ?
初対面のわしに叩き潰すと啖呵をきったお主が、非公式の謁見程度の事で狼狽えるとは、逆に意外じゃのう。
陛下は『人間好き』で有名じゃ。
あらゆるタイプの人間を受け入れる器量がある。
お主が多少無作法を働いたところで毛程にも気にせんから、騎士式でも、ゾルド式でも好きにせよ。
並の人間観察力では無いので、むしろ下手な誤魔化しや取り繕いは逆効果じゃろうしの。
どうせ今日は非公式……陛下が近衛軍団の慰撫に立ち寄ったところ、たまたまお主が居合わせる形をとる」
何を言っているんだこのじーさんは……
何やら偉そうな肩書きがあるとはいえ、担任のじーさんに啖呵を切るのと、王への謁見を比較してどうする!
俺が言うのは本当に何だが、無礼だぞ!
「知っての通り、わしは陛下の勅命で学園におる。
当然ながら、学園について様々な内容を報告しておる。
その過程でお主に興味を持った様で、一度会ってみたいとは前々から言われておったのじゃ。
まぁわし以外からも、様々な筋からお主の話は耳に入っておるようじゃったがな。
じゃが流石に国王陛下に、大した理由もなく一学生だけ特別に引き合わす訳にはいかん。
そう言って『時期が来たら』と引き伸ばしておったのじゃが……
今日の模範試合を見た陛下の人間好きに火がついて、『5分でいい、直接顔を見て話す!』と厳命されてしもうてのう。
流石に人の目のある闘技場で場を設ける訳にもいかず、と言ってお主は非公式に参内する資格が無いからの。
この様な形となった」
へぇ〜。
いやいや、みんなして俺をおもちゃにするのはやめて欲しい……
◆
「こちらにお部屋を用意しています、ゴドルフェン翁。
人払いも済ませております」
そう言ってゴドルフェン先生を屯所で出迎えたのは、近衛軍団の軍団長、ランディ・フォン・ドスペリオルさんだ。
俺は初めて会ったが、いかにも謹厳実直と言った風体の人で、笑えないほど目元が母上とそっくりだった。
「昨年のバルディの法要以来かの、ランディ。
すまんの、建国祭の忙しい最中に時間と場所を使わせてしもうて」
用意されていた貴賓室に入り先生が詫びると、ランディさんは苦笑して首を振った。
「陛下のご下命であれば致し方ありますまい。
おそらく陛下の人好きのお癖が出たのでしょう。
目に浮かぶ様です。
翁も大変ですな……」
「ふぉっふぉっふぉっ。
まぁ大方お主の予想通りじゃ。
そう言えば先程、わし宛に面談申し込みの言伝があったが、この場で話せる事かのう?
必要なら陛下が来るまで
するとランディさんはチラリと俺を見て言った。
「その前に、彼に1つだけ質問しても宜しいか?」
案の定の展開に、俺は思わず身構えた。
「ふっ。
そのように嫌そうに身構えては、探られたく無い腹があると白状しているようなものだぞ。
聞きたい事は1つ。
そのダークブラウンの髪は、母君譲りか?」
……え、1つの質問そんなのでいいの?
調べればすぐにわかる事だし、それほど珍しい色という訳でもない。
「ええ。
家族には俺の髪は母上とそっくりだとよく言われました」
俺がそう答えると、ランディさんは俺の目をじっと見て言った。
「……そうか。
全てわかった」
そんな!?
今ので『謎は全て解けた!』なんて言われたら、どんな名探偵ファンでもいくら何でも説得力が無いと怒り出すぞ!
俺が狼狽していると、ランディさんは苦笑して解説を始めた。
「……少しは腹芸を覚えねば、この先苦しいぞ?
正直ドスペリオルとしては、他の勢力ほど君に注目していた訳ではなかったが、情報部が君とその周辺の事はある程度調べてある。
母君の名は以前より把握していたが、それほど珍しい名ではないし、まるで目立ったエピソードの無い平凡な人物だという事から、疑問を覚える事はなかった。
だが今日の試合を見てある疑念が湧いた。
そして実際間近で見てみると、まるで息をするかの如く自然に瞬間魔力圧縮をする。
ドスペリオル宗家の血が色濃く入っているとしか考えられないほどに、な。
そして、その疑念を確信に変えた最後の一押しが、その髪だった、という事よ。
色も質感も、生え方の癖も本当にそっくりだ」
ランディ軍団長はそう言ってゴドルフェンに向き直った。
「実は翁へ面談を申し込んだのは、彼と話がしたかったからでして。
面会希望は本人が全て断っていると伺っておりましたので、翁を通じて場を設けていただけないかと思った次第です。
……翁は気づいていたでしょう。
彼が私の妹、セシリアの子であるという事に……」
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