第49話 探索者協会王都東支所


 装備を購入した翌日の放課後。


 俺は1人で探索者協会王都東支所に来ていた。



 まずは軽く説明を聞いて、本格的な活動は明日からの週末に開始する予定だ。



 アルとココは、本部に探索者登録へ行った。

 俺が、登録は本部でした方がいいと勧めたからだ。



 フェイ達女子連中は、もう少し学園生活が落ち着いたら登録する予定との事だ。


 無理して探索者なんてする必要ないのに…



 東支所は、協会本部とは違い、真っ黒で光沢のある木で組まれた木造の平家の建物だった。



 隣には訓練施設と思しき建物や、魔物素材の解体場や倉庫と思えるものが見える。



 時刻が夕方だからだろう。

 大きなリアカーに乗せられた魔物や動物の素材がひっきりなしに運び込まれている。



 俺は開け放たれた入り口から、建物に入り、その喧騒に胸を高鳴らせた。



 ◆



 今日も俺は、王立学園生ではなく、任意のG級探索者の1人として話を聞くために、わざわざ私服で来ている。



「入り口でボケっと突っ立ってんじゃねぇ!

 邪魔だ!」



 こんな事を言われて、俺は先輩探索者と思しき男に肩をぶつけられた。


「すみません、気をつけます!」



 俺が慌てて横によけて謝ると、その男は『ふんっ』といって中に入っていった。



 ふふふ。


 まぁ探索者なんだから、これくらいの荒くれ者は普通だよね。



 中にごった返している探索者達をざっと見渡してみる。


 昨日散々値札を見て回ったから、何となく装備の相場がわかるな。


 一万リアル以上はしそうな武器を手に携えている、中級以上の探索者がゴロゴロいる。


 流石は王都、と言ったところか。


 奥の方に見える食事処からは、酔っ払いのものと思しき『ぎゃははは!』と品のない笑い声が漏れ聞こえる。



 俺は、ずらりと並んだカウンターに目を走らせ、「13〜15番 相談受付」と案内板に書かれた列に並んだ。



 ◆



「こんにちは!

 今日はどの様なご用件でしょうか?」


 カウンターを挟んで席に着くと、ざわざわと騒がしい室内に負けないハリのある声で、受付の女性職員さんに聞かれたので、俺は用件を伝えた。


 本部受付のお姉様方が着用していたカチッとした制服の様なものは着ていない。


 私服に『探索者協会王都東支所』と書かれた作業服風のジャケットを羽織っているか、同じ文言の腕章を付けているのが職員さんの様だ。


 目の前の担当職員さんは、真っ白なブラウスにパンツを合わせ、腕に腕章をつけている。



「実は先日、探索者登録だけを済ませたのですが、具体的にどの様に活動をすればいいか分からないので、基本的な事を聞きたくて来ました」



「かしこまりました。

 本日はライセンスをお持ちですか?」


 俺がピカピカのG級ライセンスを、誇らしげに机上に置くと、職員さんは微笑んだ。



「この度は、探索者としてご登録いただきありがとうございます。私は協会職員のアーニャと申します。アレン君は、探索者になりたてのGランクなので、まずはGランクの依頼を中心にこなしていくことになるわ。

 一応、ルール上は自分のランクの上下一つ差の依頼までは受注できるわ。例えばEランクまで上がるとDランクの依頼を受けられるようになる、といった具合ね。

 とは言え、くれぐれも無理は禁物よ?」


 なるほど、実力の伴わない者が高難度の依頼を受けるリスクを抑えると同時に、実力上位の者が下級探索者の仕事を取らないようにするための措置かな?


「はい!

 無理をするつもりはゼンゼンありません!

 具体的に、どの様に依頼を受ければいいのでしょうか?」



 俺の言葉を聞いて、アーニャさんは意外そうな顔をした。


「…君くらいの若い子が探索者登録をすると、いかにも背伸びして無理をしそうな子が多いんだけど…

 変わった子ね。


 この辺りのGランク依頼の中心は、王都内での配達や清掃なんかの常設依頼ね。

 常設依頼には特に受注手続きは必要ないわ。

 後ろの掲示板に張り出されている依頼書に書かれている場所に行って、依頼主である専門の業者のお手伝いをして依頼完了書にサインをもらったら、1番から12番までの依頼専用窓口で報酬が貰えるわ。

 素材採取系の依頼の場合、この建物の左手の納入所に素材を納めて、そこで完了書にサインを貰えるから覚えておいて。


 探索者協会信用金庫に口座を作っておけば、お金が預けられて便利よ。

 王都以外の支部で引き出すときは、事前に申請が必要だから注意してね。

 今日口座開設する?」


「はい!お願いします!

 その辺りの基本的なルールが書かれた本などは、どこかで読めたりしますか?」


「うふふ。

 勉強熱心ね。

 この支所にある図書室に、探索者としてのノウハウが書かれている入門書があるわ。

 図書室の資料は持ち出し出来ないけど、王都周辺の地図や魔物、素材植物の分布域なんかの、探索者として基本的に押さえておくべき情報が色々あるから、興味あったらぜひ利用してね?


 この、東支所には図書室の他に、売店、訓練施設、食事処なんかがあるわ。

 探索者登録していたら誰でも利用できるわよ」


「はい!ありがとうございます!

 では後ろがつかえていますので、今日はこれから図書室に行って本を読んできたいと思います。

 わからないことがありましたら、また質問に伺いますね!

 アーニャさん、本日はありがとうございました!」



 俺は座ったままの姿勢で頭をきっかり30°下げた。


「うふふ、お役に立てた様で何よりよ。

 じゃあ、活動がんばってね!

 …アレン君は礼儀正しいわね…

 地方から王都に来たばかりの、世襲予定のない子爵か男爵のご子息って所かしら?」



「え、はい、まさにその通りですが…

 よくわかりますね」



「うふふ。

 同じ様な年頃で登録に来る子を、何人も見ているもの。

 …君みたいな新人の若い探索者は、きっとどこかの互助会の勧誘を受けると思うわ。

 非公式の組織だけど、加入するメリットも確かにあると思う。

 でも少しやんちゃな子が多いところもあるから、どこかに加入するなら慎重に判断してね」



「…それは、違法行為なんかに巻き込まれる可能性がある、という事でしょうか?」


 アーニャさんは慌てて手を振った。


「この王都の互助会は、どこもそれなりに歴史のある組織よ。

 流石にそんな事になる事はないと思うけど、君みたいな礼儀正しい子が、合わないところに入っては苦労すると思ったから、老婆心で言っただけよ」



 なるほど、違法行為に巻き込まれたりするのであれば考えものだが、多少気が荒いくらいなら何も問題はないな。



 俺はアーニャさんに改めて礼をいい、その場を辞した。



 ◆



 東支所の図書室にあった『最新版!探索者入門』という本は、探索者の基本ルールやパーティの組み方、ランクごとのメリット、無料講習などの福利厚生などについて書かれており非常に役に立った。


 必要な情報を頭に叩き込んだ後、売店に立ち寄って10リアル払って使い捨ての着火魔道具を買った。



 その後、常設依頼の掲示板の内容を確認して、放課後にできる依頼と、週末に時間をかけてやりたい依頼をチェックした俺は、王都東支所を出た。


 時刻は夜18時ごろ。あたりは薄暗くなりつつある。


 さて、昨夜から新たなルーティーンとしてスタートを切った、弓の訓練を王立学園の施設でするか。


 なんて考えながら、走りだそうとしたところで、俺は呼び止められた。



「おい。そこのお前、ちょっとつらぁかせや」


「俺らはこの王都東支所を拠点にしている互助会、『リンゴ・ファミリー』のもんだ。

 ここらで探索者やっていくつもりなら…

 俺らにぁ歯向かわねぇ方がいいぞ!」



 …俺は足を止め、ゆっくりと振り返った。


 するとそこには、俺よりも3つ4つ年上と思われる二人の不良少年が、肩をいからせ顎を突き上げて立っていた。



「わかりました、加入します」


「うるせぇ!四の五の言わずについてこ、え?」


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