第5話 受験戦略と体外魔法
とりあえず、受験そのものを取りやめるという選択肢はないのだ。
今の俺に必要なのはとにかく情報だ。
その意味では、受験のために王都に行く、その事だけでも価値がある。
いったん将来設計については横に置いておき、まずは受験に集中して、入学してからこの世界に関する見聞を広め、場合によっては学園中退も視野に入れ改めて考えればいいだろう。
俺はそう結論付けた。
合格に向けた段取りも万全だ。
受験でもっとも重要なのは、超えるべき壁の高さがどの程度なのかを、受験生本人が正確に把握することだ。
そのためにまずやるべきことは実にシンプルで、過去問を徹底的に解くこと。これに尽きる。
正直言って、準備期間の3ヶ月は短い。
できる事が限られている中で、同型の問題がどの程度出題されるかも分からない過去問に時間を費やすのは、普通なら怖くてできないだろう。
だが、これによって、自分の実力と、ボーダーラインとの距離を測らないことには、戦略など立てようがないのだ。
自分の実力を正確に把握し、どこを埋めれば効率よくそのラインを確実に超えられるか、到達すべきレベルを明確に認識した上で、戦略をもって勉強をすることが重要なのだ。
ただ漫然と、親や教師の出してくる課題をこなすだけでは、実力はたいして伸びない。
思えば前世ではずいぶん無駄な時間を勉強に費やしたものだ。
おぼろげながらもそうしたことがわかってきたのは、前世の大学時代、そして社会人になってからも、適当な資格試験を受け続けた後だ。
自分の不器用さ、要領の悪さを突き付けられ、悪戦苦闘して、ようやくこんなシンプルな答えに辿り着いた。
こうした本質に、早いうちに気が付いていればと悔やんだが、あらゆることが必要なタイミングには間に合わないのが受験戦争というものだ。
そんなわけで、ゾルドに言って過去問を集められる限り用意してもらい、最初にかなりの時間を使って自分なりに戦略を立てた。
残りの時間と網羅すべき範囲を客観的に分析し、勉強の戦略を立てた結果、今の俺の頭脳なら余裕でボーダーには到達するという結論だ。
ちなみに、覚醒前の俺の合否判定は20%以下(可能性あり)となっていたが、覚醒しなければまず間違い無く落ちていただろう。
受験の神様の厳しさは誰よりも身にしみているのだ。
まぁ受験についてはそんな感じだ。
そんな事より、目下の関心事は魔法だ。
多少の知識は『アレン』にもあったが、改めて色々と調べてみた。
体外魔法、すなわち炎を撃ち出したり、水を生み出したり、雷を出したりということは、この世界でも可能だ。
だが、これもまた才能がものをいう世界のようだ。
体外魔法を利用するには必要な要素が2つある。
そのうちの一つ、体内に蓄えた魔力を射出させたり、体外を循環させたりする能力は俺にもある。
感覚としては、身体強化の魔力操作の応用で、俺の得意分野と言えるだろう。
これは索敵などに応用ができるので、そういう意味では体外魔法を使えると言えなくもない。
……俺が求めている魔法じゃないけど。
そう、もう一つの重要な要素、俺がやりたい炎だとか、水だとか、聖なる癒しだとかの性質に体内の魔力を変質させる才能が、俺にはからっきしなかった。
この性質変化の才能があるものは、大体10人に1人くらいだと言われている。
変化できる性質の系統にも相性があり、もっとも相性を持つものが多い火系統の才能で、大体15人に1人、レアな雷などに親和性を持つものは、万人に1人というほど希少なのだ。
さらに
何と夢のある話だろう。
この性質変化の才能は、魔力の基礎容量と同じく12歳までには発現し、以後変わる事はない。
魔物でいう魔石に当たる魔力器官が、この歳までに完成するからだと言われている。
選ばれし者だけが持つ特別な才能……実にいい!!
選ばれなかったけど……
こういうのは、大体現象を理解し、正確にイメージする事が大事……みたいな展開で、科学技術の知識のある俺が、覚醒をきっかけにいきなりその才能に目覚めた、的な流れを期待したのだが、今のところそのような兆候はまるでない。
やはり体内の魔力器官に依存する説が有力そうだ。
となると、俺が自力で魔法を使用するのは、正攻法では無理ということになる。
一応、性質変化の才能が無い俺が、体外魔法を使う方法に心当たりがない事もない。
魔道具を使用する方法だ。
杖などの、属性魔石を媒介にして性質変化の補助をする魔道具を使用すると、才能のない者でも強引に性質を変化させ体外魔法を使用することが可能は可能だ。
しかしこの方法にも欠点がある。
魔石の持つ属性と親和性のないものが、強引に性質変化をさせると、魔石が一気に劣化するのだ。
大量の魔力を込めると1発で砕け散る事もあるという。
非常に高価な魔道具を使い捨てにしていたのでは、訓練すらままならないだろう。
となると、魔道具士になって、魔道具の改良かぁ?
でも俺は魔道具士になりたいわけじゃないんだよな……
そもそも、そんな道具頼みの養殖魔法ではなく、天然物を使いたい……
誰でも使える道具を使った魔法。
道具の性能に依存する威力。
それのどこにロマンがある?
とまぁ、こんなところが今までの研究成果だ。
片田舎の1子爵家に過ぎないうちの蔵書と、唯一接点がある元探索者のオリバーのみがソースでは、正直お手上げだ。
王都までいけば、きっと研究資料を調べたりもできるし、学園には臨床魔法の専門家もいるはずなので、教えを乞える。
実技があるので合格は不可能だが、本当なら魔法士コースに進みたいぐらいだ。
いくら時間を使っても、徒労に終わる可能性も高い。
だが俺は絶対にあきらめない……
仕事の役に立たなかろうが、趣味だろうがお遊びだろうが、やりたい事をやると決めたのだ!
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