第2話 検証
1か月がたった。
入学試験まであと2か月。王都への移動を考えると1月半か。
この1か月で、覚醒が自身の能力に与えた影響については一定程度理解が進んだ。
結論から言うと、頭脳および人格以外に大きな変化は見られないということだ。
何となく、感覚的に理解はしていたものの、転生チートで俺TUEEEEではないらしい。
え?はい、期待していました。がっつり凹んだ。
少々意外であったが、頭脳はけっこう強化されたと思われる。
唯一の覚醒メリットだ。
単純に知識が増えたというだけではない。
元来、記憶力や思考力は自分の関心が高い分野に発揮されやすい。
そして、俺はあこがれ続けた剣と魔法のファンタジーの世界に転生したわけだ。
『アレン』の時代にはあって当然だ、そういうものだ、で片づけていた知識が、今はなんとも興味深い。
転生もの序盤のお約束といえる、深夜の魔法のコソ錬などをするにしても、知識がなければ始まらない。
魔法理論や、魔物知識、王国地理などを貪るように学んでいた。
もう一つ、これは推測だが、記憶の重ね合わせが物理的に頭脳の能力を向上させていると思われる。
『アレン』はもともと『前世の僕』と比べて地頭はかなり良かったように思う。
単純な記憶力だけではなく、思考の速度や深さも段違いだった。
それにしても、覚醒後は頭の回りはもう一段二段いいように思える。
前世でもそうだが、人の頭脳は使えば使うほど鍛えられる。
例えば読書量は、言語化能力や論理構成力、語彙量などに直結する。
本読んでないバカはすぐわかるというやつだ。
また、計算能力などでも、フラッシュ暗算などを幼少期から習っている子供を見ると、信じられない速度で暗算をしたりする。
そして、そうした頭脳能力は子供の頃ほど伸びやすい。
俺は、12歳のまだフレッシュな脳みそに、今世12年と、前世36年の経験を無理やり時間を圧縮するような形で積ませた形となっているのだ。
普通はどれだけ効率的に教育を詰め込んでも不可能だろう。
なにせ時間は平等だ。
12歳までに常人の4倍ほどの負荷がかけられたことになる俺の脳は、さぞ皺が多いことだろう。
あくまで推測の域は出ないが、考えても結論の出ることではないので、そう納得することにした。
次に運動能力だが、こちらには大きな変化は見られなかった。
まぁもやしっ子の運動神経と平均を取られて運動能力が大幅ダウンした、なんて落ちも少し心配したから、そうならなかっただけまだましだ。
魔法的な素養も同様に大きな変化は見られない。
『アレン』が使える魔法は、体内の魔力器官に溜めた魔力を操作することで、身体能力を強化する身体強化魔法のみだった。
この魔法は誰でも習得可能であり、且つ非常に使い勝手の良い魔法なので、身分の貴賤を問わず誰もが利用する一般教養のような魔法だ。
荷運びも農作業も身体強化魔法を効率よく使うと生産性が違う。
ただし、その到達レベルは個人によって大きく異なる。
身体強化魔法に重要な魔法的な素養は2つある。
体内に魔素を取り込むための器、すなわち魔力量と、取り込んだ魔素を自在に操作する魔力操作だ。
魔力量は、大体12歳ごろまでに完成すると言われる基礎容量と、魔力圧縮率に依存する。
基本的には基礎容量は才能で、魔力圧縮率は、努力の積み重ねにより少しずつ伸びていくらしい。
当然保有する魔力量が大きいほど、出力の最大値を大きくとれるし、魔法の継続時間も長くなる。
魔力操作については、はっきり言ってセンスだ。
もちろん訓練によって、ある程度は伸ばすことができるが、生まれ持ったセンスが圧倒的にものをいう領域のようだ。
『アレン』の場合は、魔力の保有量も常人に比べて優れてはいたが、この魔力操作に関するセンスがずば抜けて高いと言われていた。
自分のセンスが、この世界で相対的にどの程度のレベルなのかは計りかねるが、実技の家庭教師をしている剣術師範によると、魔力操作に関していえば王立学校でも最優秀な者たちが集うAクラスも視野に入るのでは?とのことだ。
田舎師範のおべんちゃらでないことを祈るばかりだ。
さて覚醒したことによる影響であるが、魔力量および魔力操作にも影響はなさそうだった。
魔力量は魔道具で測定可能なので、計測したら覚醒後も変化がないことはすぐに分かった。
一般人を含めた平均基礎容量が大体100程度、俺の場合は2000ほどだ。
俺は現在のところ魔力圧縮により容量の1.2倍程度の魔力を扱えるので、概ね2400程度が最大魔力量となる。
ちなみに、王立学園合格者の平均魔力量は大体2000程度、足切りの数字は1000程度、(姉の年はこれが運悪く1500と例にないほど高かった)、トップ合格者は毎年10000を超えてくるとのことだ。
千年を超える歴史のある王立学園入学試験のベストスコアは、300年ほど前に記録された57000という記録がある。のちに臨床魔法士中興の祖と呼ばれる偉大な魔法士が12歳で記録したそうだが、彼はなんと入学試験に不合格となっている。
勉強にからっきし興味が持てず、座学が足切りラインに到達していなかったそうだ。
受験の神様はどこの世界でも残酷なのだ。
この話は、王立学園が座学を大事にするというスタンスを象徴する逸話であり、いかに実技が優れていても足切りラインは厳正に運用するという証明でもある。
座学を軽んじる子弟にする説教話として有名で、勉強が大っ嫌いだった覚醒前の『アレン』はもちろん耳タコだ。
一方で、魔力操作の能力を数値化するのは難しい。
前世の体育測定のような、数値化しやすい単純運動は、素の運動能力が大きく影響するし、魔力量も重要になってくる場合が多い。
ただし、見る人が見れば魔力操作のセンスはすぐにわかるとのことだ。
魔力を利用する際の瞬発力や、体の動きとの一体性など、言語化・数値化が難しい部分を見ているらしい。
もちろん、自分の魔力操作に大きな変化があれば、自分では感覚的に把握できる。
そんなわけで、とにかく頭の出来以外に既存の能力には大した変化はない。
いや、実は能力ではないが、この1か月でもう一つ大きな変化をわが身に感じ取っていることがあった。
バイタリティだ。
言葉では説明し難いが、生きる力とでもいうか、困難を乗り越えていく原動力のようなもの、それがこの身に満ち満ちているのがはっきりわかる。
これは前世にも、『アレン』にもなかったものだ。
感覚的な話になるが、人の2倍の魂のでかさ、生命力のようなものを感じる。
ではこの1か月、あふれるバイタリティにものを言わせて、何をせっせと検証してきたのか?
それはもちろん……
「いくぞ〜ファイアーボール!!!」
ドーン!!
……などが、俺に出来ないかを検証していたのだ。
だって魔法がある世界に転生したんだよ?
やりたいじゃん、かっこいいじゃん。
俺断然賢者派だったし。
……そして改めて再確認したことは、俺が体外魔法を使用するのは極めて困難だということだ。
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