第3話
「たったったったたっ大変です!」
お茶汲みの部下は事務所の応接間へとスマートフォン片手に飛び込んできた。青ざめた顔をしている。芹山は次にギャオーの予想進路について語ろうとしていたのに、話の腰を折られて「どうしたのかね」とむくれた。が、スマートフォンにて『巨大生物がその口からビームを発射している』動画を見せられて、由々しき事態に気付く。光線に伴う衝撃波で撮影者がスマートフォンを落としてしまったらしく、道路の側溝がどアップになっている映像で途切れた。
「行きましょう。こんなところで悠長に話している場合ではなくなりました」
忠信は立ち上がり、忠治が「そぉだねぇ、生で見たかったり撮りたかったりしちゃうねぇ☆」と続く。芹山の『ギャオーが目的意識を持って進行している』という仮定は、直線上の物体を破壊し尽くしたビームを目の当たりにしてしまったいまとなっては改めなければならない。
「そういう野次馬根性ではありません」
「えぇー!」
彼らは能力者だ。見た目こそ人間であっても、人ならざる力を持つ。忠信と忠治の二人組は、今日ここまでその片鱗を見せていないものの、その力はガイアエネルギーと同種としてしまっても過言ではないような、非科学的な――現代科学では論理的に証明できないが、しかしこうして実在している力を行使する。要は、『
体内に恵美子とガイアエネルギーを貯蔵して行進しているギャオーは、風船にも喩えられる。その硬い鱗に対して有効そうな武器を所持している自衛隊はこの期に及んで出動していないのだが、万が一通用してしまったとしたら、その体内のガイアエネルギーが地上に溢れ出ることになるだろう。ギャオーのここまでの破壊活動に比較すれば些細なものではあるが、地中のガイアエネルギーが周辺環境に与える影響を考慮しなくてはならない。あとは、巨大生物のあとしまつ問題。死骸をどうするのか。
兎にも角にも、このまま放っておいては恵美子は囚われたままだ。ギャオーを討伐するにせよ捕獲するにせよ、内部の恵美子は助け出さなければならない。芹山は神にも縋る気持ちで組織の扉を叩いた。
「何か策が」
あるのだとすれば、共有してほしい。芹山もノートパソコンを閉じて席を立つ。芹山は日比谷たちとは違い、ごく普通の人間ではある。が、本件においてはこの世界の誰よりも責任を感じている。
「ギャオーの口の中に入って、内部に爆弾をセットして、脱出してから起爆します。鱗で覆われている生き物でも、体内で爆発を起こされたらひとたまりもありませんから」
そう言って忠信が応接間を早足で出ていこうとするのを、忠治は「そんなことしたらはとぽっぽが巻き込まれて死んじゃうじゃあん!」と引き留めた。芹山としてもその作戦は阻止したい。恵美子の命の保証がない。
「なら、ハルくんに爆弾をお渡ししますからハルくんが入って恵美子さんを助け出せばいいのでは」
「ノブくんが爆弾セットしてノブくんがはとぽ連れて戻ってくればよくなぁい?」
「僕はその子が死んでも構いませんから」
「じゃあ、二人で行って三人で戻ってきちゃおっか! どぉ?」
二人でとんとん拍子に話が進み、最終的な決定権の部分だけ芹山に確認があった。もとより能力者頼みではあったが、芹山は疑念を抱いてしまう。忠信も忠治も(着こなしに差はあるが)グレーのスーツを着用しており、武装しているようには見えない。
「君たち双子の能力で恵美子が救出されるのであれば、その作戦で頼む」
「双子だってぇ!」
「……そういうことにしておきましょうよ、今のところは。そこに突っかかってたら話が進みませんし」
事は急を要する。忠治はケラケラ笑っているが、忠信の言う通り、悠長に話している場合ではない。これからギャオーを破裂させるような爆弾を調達するのであれば、きっとツテがあるのだろうが――
「相手はゴジラみたいなもんですし、対ゴジラ兵器といえばオキシジェンデストロイヤーですよね」
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