どしーん。

 どしーん。


 二本の足でアスファルトを叩きながら進んでいく。その尻尾がビルの一階部分を押し、ビルは失敗しただるま落としのように崩れていった。両前足の間、ギャオーの胸部に滞在する少女――恵美子は、鱗と鱗の隙間から外の様子を見ている。前方しか見えないので、ギャオーの進行によりどれほどの死者が出ているかなんてわからない。

 ギャオーは振り向かない。脇目も振らずに進んでいく。身体の向きをちょっとでも変えるだけで、恵美子の視界にも阿鼻叫喚の風景が入ってくるだろう。人々は逃げ惑い、逃げ遅れた人間が泣き喚き、警察やら消防やらが総動員されてあちらこちらで避難区域まで誘導している。善意の救護活動も、猫の手を借りたいほどに慌ただしい。


「……暇だなあ」


 初めは高所からの眺めにキャッキャと喜んでいた恵美子も、次第に飽きてきた。なんせ桜の花が落ちるスピードでしか進んでいないのだ。一方向しか見えないぶん、さほど変わらない。一言ぼやくと、椅子は後ろに引いて、自らの足を手前のキーボードのようなものの上に投げ出す。かかとがスペースキーに触れた。

 ギャオーは胸を反らすと、鼻先を青空に向ける。尻尾をピンと立てて、体内のガイアエネルギーを口内に集めていく。赤褐色の皮膚が青白く輝いた。


 巨大生物の現在の状況を全国に伝えるべく、忙しく飛び回っている報道ヘリや空中に漂っているドローンの動きがなんだなんだと止まる。ただ進んでいるだけだった巨大生物の様子がおかしい。警戒を強める。一体何が始まるというのだ。皆一斉に巨大生物の頭部にピントを合わせた。


 恵美子はあくびをする。他に誰が見ているでもないので、その口を手で覆い隠すこともせず。


 ギャオーが再び前を向いた時、その口から光線が発射された。

 青白い光線は衝撃波を伴い、直線上に存在していた物体を――車だろうがコンクリートの塊だろうがお構いなく――木っ端微塵に吹き飛ばす。


「ビームだ!!!!!!!!!!!!!!!」


 頬を膨らませていたガイアエネルギーを発射し終えて口を閉じると誇らしげに鼻を鳴らしたギャオーの姿は、手を叩いて喜ぶ恵美子には見えていないだろうが、全国のお茶の間には届けられた。

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