インタールード
『あの人が僕を愛してくれたから、自分が価値あるものだと初めて気がついた』
誰の言葉かもう忘れてしまったけど、これは僕が中学生の頃、一番気に入っていたフレーズ。
実は、涼果すももさんとはご近所の幼馴染で、どういうわけか小中高とずっと同じクラス――
幾度か隣同士の席になったこともあるし、教科書を忘れたときなんか机をくっつけて、すももさんの吐息を間近に感じたことだってあった。
それなのに、情けないぐらい、きちんと話しかけることが出来なくて、ちらちらと横顔を盗み見てはため息ばかりついていた。
そんな日常が何とはなしにずっと続いて、いつの間にか、すももさんへの想いがあまりに大きく、東京ドーム四個分ぐらいは満杯になった頃、人生の転機ってやつはしごく平然とやって来た。
二人とも同じ高校に入って、初めての期末テストを終え、僕がスマホ片手にソシャゲをやりながら帰っていたら、なぜか唐突に実装された期間限定無料の占いコーナー、十二星座ごとにコメントされたごくごくありきたりなやつの中で、まあ、いつもだったらさっと目を通して「ふーん」ぐらいで終わってしまうはずだったのに……たった一行だけ、こんなことが書いてあった――
【恋愛運】
恋はいつでもマッハパンチ!
今すぐその想いを叩きつけなきゃ、絶対に後悔するゾっ♪
瞠目。
そして、僕はグロッキー状態になった。
笑ってくれたって構わない。でも、そのとき僕はやっと気がついたんだ。
人生は何がどう転ぶか分かったもんじゃない。ニュートンが木から落ちるリンゴを見て万有引力を発見したように。アムロ・レイがたまたま寝転がっていたガンダムに乗ってしまったように。
ならば、
僕は咄嗟にソシャゲを終わらせて、一目散にダッシュした。
鉄は熱いうちに打て!
で。
結局のところ、話は最初に戻るわけだ。
そう。結果はもうご存知の通り――たしかに恋はマッハパンチだったさ。僕のが不発に終わっただけで、すももさんのカウンターは目が覚めるほど強烈だった。しかも、余計なおまけ付きときたもんだ。
でもさ。ここで僕の人生の物語が終わってしまうならば、単なるシャイボーイの失恋話にしかならない上に、まだマッハパンチの話しかしていないしね。
だから、もう少しだけ、この青臭い話に付き合ってほしい。
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