Episode014 魔女フルーラ


 驚くべきことに、ユナミルは剣術だけでなく冰術の扱いにも長けていた。あれやこれやというまえにセシリアと自分自身にも冰術をかけ、姿を大人のソレにしてくれる。

 セシリアは身長を伸ばし、やや幼さが残る可愛らしい女性に。

 ユナミルも身長を伸ばし、女性的なラインを成長させた美しい女性に変身している。


「だいたいプラス五歳ってところかしら。私はいま13歳だから……18歳ってところね」


「……これ、バレないかな?」


「ちょっとやそっとじゃバレやしないわ。私、こういうの得意だから」


 移動を開始する二人。

 第一の関門は身分証明書を提示する入り口付近だったが、ここはユナミルの話術と冰術が見事な活躍を見せ、「身分証を見せろ」と言われることなく中へ侵入できた。

 本当にユナミルはすごい。

 セシリアは感動してしまう。

 

「さっさとエルマリア家の当主を見つけて、浮気現場をおさえなくっちゃ」


「浮気じゃないよ!?」

 

 ともあれ。

 セシリアは、ベルティスがなんとなくどこにいるのか察知できる。これは冰剣を持つことにより《祝福》と呼ばれるスキルを会得したことにあるらしい。

 セシリアはその気配に促されるまま巨大な建物の中をさまよい、しばらくしてから立ち止まった。


 行きついた場所は、とても怪しげなネオン輝く場所だった。

 セシリアの顔がどんどん青ざめていき、となりにいたユナミルの腕をぎゅうっと掴む。


「ゆ、ゆ、ユナミルちゃん!! ど、ど、どうしよう、お兄ちゃんきっとこのなかだよ!?」


「ふふ……とうとう本性を現したわね、エルマリア家の当主……いいえ、お兄様! こんな可愛いセシリアちゃんを捨て置いて、こんな不埒なところで浮気をするなんて! さあ、お兄様の浮気現場をおさえるわよ!」


「どうしてそんなノリノリなの!?」


 怪しいお店は、さきほどユナミルが言っていた「ちょっとえっちなお店」で間違いあるまい。

 

「ふふふ、楽しみ」


 ユナミルはずいずいと店のなかへ入っていってしまうので、セシリアは慌てて追いかけた。

 すれ違う男女の親密さがセシリアの恐怖を誘う。

 しばらく歩き続けると、とても大きな部屋の前に到達。エルフの耳を使って中を探れば、ベルティスの声と知らない女性の声がしている。

 しかも親密そう……。

 

「お兄様の浮気現場はここね? どうする? 修羅場に突入してみる?」


「リア、お兄ちゃんにお説教する」


「決まりね」





 そうやって、ベルティスの浮気現場(?)にセシリアが突入してたあとのことである。

 話を整理してみると、ベルティスは他の女にうつつを抜かしていたわけではなかった。

 ベルティスと話していた女性はフルーラ。

 さきほどセシリア達が館で戦った霊体の持ち主である。


 ベルティスは彼女に会うためにこの店に入ってきたようだ。

 フルーラという女性は性格に少々の難があるらしい。ベルティスがこの場所に来たのも、彼女がこの場所を指定したからだという。

 

 ちなみに、セシリアの大人びた姿は、その姿をみたベルティスが一瞬でその術を解いてしまった。曰く「大人になったときの楽しみが減る」かららしい。


 そんなこんなで、結局もとの姿になったセシリアとユナミル。

 ベルティスへのユナミルの紹介も終わり、そろそろお開きの雰囲気が流れはじめたころで。


「お兄ちゃんはどうしてフルーラさんに会いたかったの?」


「ちょっと知人の情報が知りたくてね、耳聡い彼女なら何か知っているんじゃないかって思ったのさ。でも彼女、教えてくれないんだよ」


 超高齢と言われた割には、フルーラはかなり若い。

 あの霊体と同じスタイルのよさで、ローレンティアと並んでも遜色ないほどだ。


「アタシがただで情報を教えると思う? それにさ、さっき館にある霊体の一体が吹っ飛んだせいで、館に帰って一から作り直しだよ」


「ご、ごめんなさい。それやったのは……」


「私たちです……」


 館にいた霊体フルーラを勝手に倒したのはセシリア達だ。魔女の霊体だから倒しても文句は言われないと思っていたので、まさかベルティスの知り合いだとは予想していなかったのである。

 

「別にそれに対しては怒ってなんて……」


 そのあと「ん?」と首をひねるフルーラ。


「ベルティス、アタシと勝負しようじゃないか。アンタが勝てばこの子たちがアタシの霊体を倒したことに目を瞑り、ラミアナの居場所のヒントくらい教えてやるよ」


「ほお、僕と勝負か。いいだろう。……とはいえ、ここだとさすがに狭いな。この建物を吹き飛ばしてしまうかもしれないから、場所を移動しよう」


「待て、誰が冰術の戦いだと言った? アタシはアンタと戦う気なんてなんてないよ。アンタがまだピチピチの21歳に対して、こっちの累計年齢は五百を越えてるんだ、勝負にならない」


「年齢を盾にするとは、君も年をとったね」


「抜かせ、愚弟子風情が。冰術の知識量じゃまだまだ現役バリバリだからな、むしろ千年間の知識があるぶんアンタより賢い」


「かもね」


 何の話かセシリアにはさっぱり分からないが、どうやらベルティスとフルーラは旧知の仲らしい。ベルティスは前世の記憶を覚えているので、フルーラもそういった類の人間なのだろうか。しかしユナミルは、超高齢の女性といっていた。年齢が五百を超えているということなので、やっぱり不老長寿の薬を飲み続けてこのような姿を保っているのだろうか。

 ──でも累計って?


「ユナミルちゃん知ってる?」


「ええ、奥義を会得するために魔女フルーラについてよく調べたから知ってるわ。なんでも、フルーラは千年前に存在していた《賢者》の一人で、禁断の冰術をずっと研究していたらしいわ。その研究に人間の生き血とか採集してた関係で、魔女と呼ばれるようになったらしいのだけれど、どうやら彼女、もう三回死んでるそうよ」


 千年前に死んだ人間の魂が、千年後の別の体に転生した、というのがベルティスのからくりだ。

 しかしフルーラは、同じ体で三回も死んでいるらしい。

 累計年齢が五百を超えているというのは、三回の死体期間があるからだろう。


「最初はそういう伝説か、あるいは別人が勝手に魔女フルーラと名乗ってるんだと思ってたけど、そういう冰術も実在するのね。ほんと、冰術って奥が深いわ……」


 奥義をフルーラから会得したいと言っていたユナミルが、感じ入るようにつぶやく。

 セシリアは、尊敬してやまないベルティスと、累計五百を超える偉大な女性を見あげた。


「勝負は簡単だ。今から五時間以内に巨大賭博場ロイヤルカジノで、ロイヤルチップ一万枚を稼いでアタシに献上しろ。負けたら今回の話はチャラだ、自分でラミアナの場所を見つけな」


「なっ、ロイヤルチップ一万枚!? そんなの無理に決まってるわ、バカげてる! ロイヤルチップ一枚で、いったいどれだけの物が買えると──」


「お嬢ちゃん、これはアンタのためでもあるよ」


「なんですって?」


 咆えたユナミルに、フルーラは余裕の笑みで返す。


「この愚弟子が勝てば、アンタがほしい奥義『爆風炎』を教えてやる。ついでにそこの愚弟子の愚弟子……セシリア? とか言ったか、アンタに合った奥義も教えてやる。どうだ、負けてもアンタ達に被害はないよ、愚弟子にはあるけどね」


「お兄ちゃんが負けたら、お兄ちゃんはどうなるんですか?」


 ベルティスが負けても、自分たちに損はない。しかしベルティス自身は?


「そうだねェ……せっかくだから、アタシの美貌の糧になってもらおうじゃないか。右腕と左腕をアタシに寄越しな」


「な……ッ!?」


「ほぉ……これは大きく出たね。一応これでも《大賢者》だった僕の両腕が欲しいと抜かすか、元《賢者》フルーラ」


 おそらくベルティスは受ける気だ。

 例え両腕を失うリスクがあったとしても、それがセシリアのためになるのなら受けるはずである。

 いや、むしろあの表情かおは──


「言っておくけど、僕の得意分野は二つ。一つ目は冰術研究、二つ目は賭博(カジノ)による荒稼ぎだ。これでも昔、ある店で出禁を喰らったんだ。自分の領分で負ける気なんてさらさらない。我が麗しの師匠様が、あとで泣いて撤回するなんて無しにしてくれよ」


 ──賭博カジノができることを、とびきり愉しみにしている。


 

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