第五十一話 政策

[客観視点]

過去の資料をもとに、内政を整えることにしたランドール・ノートン。

まず最初に取りかかったのは、戸籍の作成である。


リニア政権時代のこの王国には…というより、この異世界のほとんどの国はそうなのだが、基本的に“戸籍”という概念がない。

似たようなものとして“国民名簿”というものが存在するのだが、国民名簿はあくまでも“その国に現在誰がいて、どの役職につき、どれだけの業績を上げたか”しか記載されておらず、家系や出生地などについては記されていない。敵国の侵攻による影響(国外逃亡や死亡、捕らえられて連れ去られるなど)に加えて、相続のルールが単純化されている(基本的に長男が受け継ぎ、ほかの者は同居して手伝うか、兵士や使用人として城で雇われることが多い)こともあり、血筋や出身が意味をなさない、というのが、この世界の常識なのだ。


…しかしランドールが“戸籍”にこだわるのには、理由がある。

国民たちに“自分たちがこの国の一部である”という意識をもたせ、統率しようというのだ。


それまで扱われることがなかった以上、国民たちのルーツまでもを完璧に探ることは不可能。

だからランドールは、現時点での国民たちを“ノートン王国民”と定義し、それより先の子孫を“ノートン王国出身”とすることにした。つまり“お前らはこの国の住民であり、そのことに反する行動は許さない”と宣言しているようなもの。余計な要素を削ぎ落とし、あくまでも統一感を優先する、それがランドールの目論見なのである。


戸籍を作るには、国民たちを一人ずつ調査しなければならない。

ランドールは兵士どもに命じ、国民たちを城の前に集めさせた。



“戸籍”について説明を受けた国民たちは大激怒!!

「何だと!?俺たちをこの国に縛りつけようってか!?」

「冗談じゃねえ」

「ふざけんな!!」

口々に文句を吐き出す。

「まあ待て。リニアのときとどう違うんだ?あいつだってお前らを、力で支配していただろうが」

などと説得しようとするランドール。

が、

「それをやるには、あまりに卑怯だと言っとるんだよ、ランドールお前さんは!」

「姫様は確かに強引ではあったが、自ら道標みちしるべとなって前を歩ける存在であった」

「そうよ、そうよ!姫様は、みんなのお手本だったわ!」

「それに比べてランドール・ノートン、貴様は卑怯者だ!!」

「「「「「卑怯者!!卑怯者!!」」」」」

声を揃えて、ランドールを批判する国民たち。


ボシュッ


ランドールは、無言で火球を発射!


ズドオォォ


国民たちの足場の地面が爆発!


一斉に怯え、狼狽える国民たち。


「…これでもまだ、俺様を卑怯者呼ばわりする気はあるか?」



国民たちを実力で黙らせたランドールは、彼ら一人一人に書類を配った。

書類には、名前と職業、家族関係を書き込むことになっている。

「その空欄を埋めて、明日の朝ここに持って来い」

だが一方で、ランドールは裏切りを防ぐことも考えていた。


法律の制定。


そして、それを守らせるための憲兵の設立。


ランドールが次に取りかかる業務は、その二つだ。



[ランドール視点]

最初に俺が作った法律は、以下の三つ。

一つ、俺に忠誠を誓い、絶対服従すること。

一つ、国の防衛に役立つ仕事をすること。

一つ、怪しい動きを見たら、すぐ俺に報告すること。

この三原則を柱に、細かいルールを決めていけばいい。

まずはこの三つを国民どもに知らしめる。

が、やつらが反発する可能性があるから、憲兵に見回りをさせないとな。

その憲兵だが、公平を期すために交代制にしよう。兵士と魔術師を毎日三人ずつ選出し、その日は丸一日の巡回を任せる。で、裏切りや怠慢が発覚すれば、この俺自ら出向いて処罰してやればいい。



戸籍登録書の回収を兼ね、俺は城の前に国民たちを再び集めた。

「聞けぃ!愚かな国民ども!いまからお前らに、法律ってものを発表する」

「ホウリツ?」

「何だそれ」

「聞いたことねえな」

馬鹿どもが。法律の概念も知らねえとは。

「ルールだよ。お前らが国民として守らなければならない、ルール。違反したら罰が与えられる。わかったか?」

「ふざけんな!」

「暴君め!」

「俺たちの自由を奪う気か!?」

「ガチャガチャやかましいぞ!!これでも食らえっ!!」

国民どもに稲妻を放ち、二つの意味で震え上がらせてやると、とたんに静まり返った。

チョロいもんだぜ。



[客観視点]

戸籍と法律を作ったランドールは、気分転換を兼ねてティラノ軍団の巣穴を見に行った。

「クー」

主君が訪れたのを察して、洞窟から顔を出したホワイトピューマ。

「クルルゥ」

そして、その下から走り出てきたグリーンチーター。

「よしよし、その様子だと無事みたいだな。…ほかの三体は?」

「クー」

ホワイトピューマが、指差しの代わりに口先を、ランドールから見て左のほうに突き出した。

「あっちにいるんだな。見てくる」



ランドールが様子を見に行った先では、パープルタイガー、ブルーパンサー、レッドサーバルの三体が、既に仕留めたパラサウロロフスの肉を頬張っていた。

「おお、見事な食べっぷりだ」

ランドールの声に気づき、くるりと振り向く三体。

「そのまま食ってていいぞ。俺はその辺を散歩してくる。何かいいアイデアが降りてくるかもしれないからな」



国立公園を散策しながら、ランドールは政策のあれこれについて熟考。

まず、内政について。

戸籍と法律は、簡易的なものとはいえ既に作った。憲兵も設立こそまだしていないが、そのシステムは決定済み。

とすれば手をつけていないのは税と、大臣の選出ぐらい。

税。…何を納めさせるべきか、そこからスタート。金貨?それとも農作物?あるいは布?

…土地が土地であるから、少なくとも作物には期待できない。布に関しても、国民の得手不得手がある以上、公平性が損なわれる。

ランドールは、まず最初はシンプルに金貨を徴収してみて、様子を見ることにしようと決めた。

大臣。…誰を、どの役に任命しようか。専属メイドは現状維持に徹しているから、依頼されても断ってしまうに違いない。ほかの使用人たちも同じ。兵士や魔術師は、権力を与えすぎると調子に乗って裏切る可能性が。

結局、とりあえずモナカとティラノ軍団にその肩書きを与えることに。まずは彼らで試してみて、ほかの者たちが欲しがれば、その忠誠と実力のバランスに応じて配慮してやってもいいか…とランドールは方針を固めた。


次に、外交。

国内で賄える食料と物資には限りがある。ということは、貿易ルートの確保は必須。

幸いにも、ランドールはモーター王国を乗っ取る前に、二つの土地を他所の国から強奪している。そのうち一つはよく肥えた土地なので、国民を派遣すれば作物を作れる。

おまけに、以前リーマン王国を潰して手に入れた塩田もある。


そして、戦略。

これまではランドールが提案することはあっても、最終決定権はリニアにあった。だが、これからはランドール一人で作戦を立てなければならない。

リニアの傍には側近のルイージが、そして参謀役のランドール本人がいた。

しかしいまのランドールには、側近も参謀も務まりそうな者がいそうでいない。ティラノサウルスたちは知恵も実力もあるほうだが、さすがに大人数の軍隊を動かすほどの作戦は立てられないし、立てたとしても人の言葉を話せないから、細かい説明は至難の技。モナカは獣人ゆえか思考が本能的であるから、作戦立案には不向き。そこそこの知恵とまともな言語を兼ね備えているのは、よりによって無欲な専属メイドだけ。となれば、じっくり人材を育てるしかあるまい。それまでは、ランドールが自分で策を練るしかないのだ。



[サラ視点]

まじゅつけんぽうはたしょうつかえるようになってはきたが、まだリニア・モーターをかえりうちにできるほどではない。

ゆくゆくは、あのほんのちょしゃ…アイ・ケイビーとやらにあってみなくては。ジャズマイスターきょうなら、ケイビーがなにものでどこにいるかしっているだろう。


だが、いつまでもジャズマイスターきょうにたよりつづけるわけにはいかない。


けんりょくしゃとしてのちえをみにつけておかなければ。


せいじのほんをさがすために、としょかんにむかった。

あいかわらず、わたしをけいごするためにメイドがついてくる。いつまでひつようになるかはわからないが…。


ひとくちにせいじといっても、ないせいやらがいこうやらさまざま。どれをてにとればいいのやら…。

できれば、ひろくあさくさまざまなぶんやについてかかれたものがいいのだが。


“ぜったいおうせいのひけつ 〜ちからでくにをしはいするどくさいせいじのすすめ〜”…?


これだ!!

これこそわたしがもとめる、みらいのわたしのすがた!!



[カラブ視点]

ドクバールの隠し子を救うことに、仲間たちは賛成してくれているが…。

相手はあのスモーク・サーモン。危険で過酷な戦いになるだろう。

我が国から犠牲者を出すわけにいかないのはもちろんだが、上手くいった暁には対価も用意しておかないとな。

その対価だが、何がいいだろうか…などと、じっくり考えてはいられない。

目前の巨大な川の向こうには、既にスモーク・サーモンの真の本拠地と思われる“マングローブ・ラビリンス”が見えているのだから…



[ランドール視点]

参謀はしばらく用意できないだろうから、下っ端の兵士をこしらえることにしよう。

既に捕虜の大半を説得済みであるし、しぶとく突っぱねるやつらには洗脳薬を投与する予定だ。

だが、使えるのは捕虜だけじゃねえ。


…死体をゴーレムに改良すれば、不死身の軍隊が出来上がる!!


リニアを追放した時点で、この国には兵士や獣人の死体がごろごろと転がっていた。

あれらをゴーレムにすれば、小規模ではあるが、ゾンビ軍団の完成ってわけだ。


俺自身が死体をゴーレムに改造してもかまわないが、さすがに量産兵をつくるとなれば、少しくたびれる。

てなわけで、作り方を書いた書類を使用人たちに渡し、その作業を任せておいた。

俺には、ほかにもやることがあるからな。


前に強奪しておいた二つの土地を、目的に合わせて活用するのだ!!



まずは、最初に占領した、痩せて使えない村。

こいつを俺好みに改造して、もっと商業的に利益を得られるようにする。

つまりこの村は、この異世界においておそらく初であろうテーマパークとなるのだ。


村人たちは、一旦は捕虜にしたから俺を見て震え上がるに違いねえ。だから、俺の言いなりになってくれるだろう。



で、実際訪れてみると。


何事もなかったみてえに農作業やってんじゃねえか!!

「何やってんだ貴様ら!!俺の姿が見えねえのか!!」

とりあえず、火球を一発放ってやると。

「何をする!?せっかくの畑を燃やす気か!」

てめえら…。

「待て、あいつはこの前の…」

「そうだ!ハトリュウを連れた魔術師!!」

「やっと思い出したか…てめえら、俺のいない間に何してくれてんだ!」

「何って…作物に水をやっているところで」

「ハッ、その必要はねえ。たったいまからこの土地は、全部更地になるんだからな!!」

「何だって!?」

「冗談じゃないわ!!」

「ああ、冗談なんかじゃねえよ。俺は本気だ」

「そんなことしたら、この国で作物を収穫できなくなる!!」

「そりゃそうだ。しかしこの土地は作物を育てるのに向いてない。収穫なんてたかが知れ、どのみち一緒だと思わないか?」

「しかし…」

「畑を失くしたら、儂らいったいどうやって」

「生活していくのかって?まあ、俺にいい考えがあるんだよ。黙って従え」

農民どもは、何やらゴソゴソと相談し合っている。

「…結論は出た。答えはノーだ」

「ノー!?ふざけてんのか!!」

炎のカーテンを発射!!

「うおっ!?」

「うわあああっ!?」

「ひいいっ!?」

一斉にパニックになる農民たち。

「いいか?俺はお前らの意見なんか求めていない。お前らは俺の言いなりになるしかないんだよ!逆らうやつは、俺の手で闇に葬るか、ティラノ軍団の餌にしちまうからな!」

「ティラノ?何だそれ…」

「ああそうか。お前らはハトリュウなんてだっせえ名前で呼んでるからなあ。本当の名前を教えてやる。あいつらはティラノサウルスってんだぜ」

「ティラノサウルス!?何だそりゃ!」

「「「「「ハッハッハッハ!!」」」」」

「笑うな!!」

もう一度、炎のカーテンをお見舞い。

再びビクつく農民たち。

「とにかく…ティラノサウルス、つまりお前らの言うハトリュウに食われたくなければ、黙って俺の言う通りにしろ」

「だが…まずは村長に相談しないと」

「だったらその村長を連れてこい!!」



村長のジジイを脅し、何とか畑の埋め立てを開始させた。

しかし農村は必要。だから二つ目に手に入れた、よく肥えた村を活用しよう。



…で、訪問したのはいいが。




見覚えのある、藍色の旗。




村の周りを囲み、外を向いて見張っている兵士たち。




モーター王国め、俺が留守にしてる間に警備を強化しやがったな!!

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異世界転生して魔術師になった俺は国王になりたいから姫騎士を何度も裏切る 岩山角三 @pipopopipo777

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