第三十四話 真意
[ランドール視点]
危うく使いきりそうになった魔力は、さっき魔法薬を飲み干したおかげで再びマックスに。
それだけじゃねえ、寧ろ満タンのときよりも魔力が多い気すらしてくる!!
さあ、かかってこい。リニアだけじゃない、ルイージだろうがジャズマイスター卿だろうが、まとめて相手してやるぜ!!
「はあああっ!!」
突進しながら切りかかってくるリニア。ここは冷静に回避して…
「アルティメット・バード!!」
ゴーレムの背中に七色の翼を生やし、羽ばたいて上昇!!
「あら、決着をつけるチャンスだというのに、お
こっちにはこっちの考えがあるんだよ!
「コールド・クロコダイル!!」
ゴーレムの左の掌から、猛吹雪を発射!!
「うっ!?」
顔を右腕でガードするリニア。馬鹿め、そいつは目眩ましだ!!
「ライトニング・アロー!!」
立て続けに、ゴーレムの掌から無数の光の矢をお見舞い。相手が鎧を着ているため、残念ながら貫通はしなかったものの。
「くっ…」
鎧に刺さった矢から静電気が発生。リニアを痺れさせる!
「ジョウ・スターリン!!」
こんどは宝石の群れを放ってぶつけてみる。
だが、さすがに吹雪が収まってきたせいか、目をしっかり開いて宝石たちを捉え、刀でカチカチと弾くリニア。チッ、慣れやがって。
「コールド・クロコダイル!!ジョウ・スターリン!!」
もう一度、吹雪を発生!!直後に宝石の群れも発射!!
雪は刀じゃ弾けない。防げないということは、その雪が目眩ましになるということ。つまり…
「うっ、うわあああ!!?」
宝石の群れをモロに食らって尻餅をつくリニア。やったぜ、計算どおり!!
だが一騎討ちをしてる間に、ルイージとジャズマイスター卿がけっこう頑張って月の接近を食いとめてやがる。邪魔しておこう。
「グラビティ・コントロール!!」
[客観視点]
またしても地上に引き寄せられる月。
「くそう、これじゃどれだけ引き離しても意味がないぜ。時間の問題だ!」
「ルイージ君、一つ考えがある。きみは姫様の掩護に回って、ランドール君の相手をしてくれ」
「しかし、月の接近が」
「いいかね?あれをとめられないのは、ランドール君が邪魔をしてくるのが原因だ。彼に邪魔する隙を与えなければ、時間はかかってももとに戻せるはず!」
「…わかった」
ランドールとリニアのほうへ走るルイージ。
「ハハッ、ここは私の踏ん張りどころだな…」
「ジャズマイスター卿!!この現象は一体!?」
ジャズマイスター卿の部下たちが、モーター王国の魔術師団を引き連れて一斉に駆けつけてきた。月の様子と吹き荒れる風に異変を感じてやって来たのだ。
「おお、頼もしいね!ではさっそくだが、月をもとに戻すのを手伝ってくれ」
[サラ視点]
いまわたしはばしゃにのせられており、さいわいにもこうそくはされていない。だが、むやみににげだすのはきけん。
カラブのもくてきは、いったい…?
わたしののっているばしゃをひいているうまには、カラブほんにんがのっている。
…しんいをさぐるチャンスだ。
「あ、あの…」
「何だ?」
「その…なぜわたしをむかえにきたの?ゆうかいするため?」
「何を言ってるんだ?俺はお前が誘拐されたのを知って、寧ろ助けに来たんだ」
「なぜたすけにきたの?」
「ジャズマイスター卿と約束したんだよ。ちょっとややこしいことになってな。あの腹黒じいさんのところまで、お前を無事に届けないといけない」
「そう…つまり、そういうけいやくってことね」
「契約というか…まあ、そういうもんかな」
「カラブ様、いまのところ、敵の姿は近くにはありません」
カラブのとなりに、べつのうまにのったおんながきて、ならんでうまをはしらせる。
「見回りご苦労、サソリーナ」
このおんなのなまえはサソリーナか…。
「にしても、こんなに小さい子が女王なんて」
そういいながらくるりとふりむいた、“サソリーナ”というなまえのおんな。
「ああっ!!?」
おもわず、さけんでしまった。
「どうした?」
わたしのこえに、カラブもびっくりしてふりむく。
「お、おまえ…」
「どうしたの?私の顔に、何かついてる?」
みつあみにした、きんいろのかみ。
スコーピオンズ・キングダムではめずらしい、ゆきのようにしろいはだ。
みおぼえのあるターコイズ・ブルーのひとみ。
「おまえは、ジャズマイスターきょうのむすめ!!」
「あっ…あの親父!!余計なことを!!」
かおをしかめるサソリーナ。
「ハッハッ、別にいいじゃないか。隠しておくようなことでもない」
「よくないですよ、もう…何でこの子にそんなこと知られるのよ」
「“この子”って、一応、サラは女王だぞ?」
「はいはい、わかりましたよ…」
カラブ・ドーエンにゆうかいされたはずの、ジャズマイスターきょうのむすめが、そのカラブ・ドーエンと、なかよさげにかいわしている…。いったい、どういうこと!?
「で、でも、おまえは、カラブ・ドーエンにゆうかいされたって」
「誘拐されたらしいぞ、お前」
「はあ…親父ったら、まだそんなこと言ってるの?あのねえ、そんなのは真っ赤な嘘。いい機会だから訂正しておくわ。私はカラブ様の思想に憧れて、自分でついてきたの。親父は、つまり、ジャズマイスター卿は、そのことを根にもってカラブ様を憎んでるだけ。わかった?」
なん…だと?
「まあ、あれだ。ジャズマイスター卿にとっては、俺がこいつを誘拐したことになるのも無理はないってところだ。手塩にかけた娘が、
ゆうかいって、そういういみだったのか…。なんとおおげさな…。
いや、うのみにしてはいけない。カラブ・ドーエンはきけんじんぶつ!ジャズマイスターきょうもそういってた!
「だ、だまされないわ!おまえたちこそうそをついてるにきまってる!」
「騙すも何も、私がそう言ってるんだから本当のことよ?」
「だって、スコーピオンズ・キングダムは、ほかのくにをあおって、せんそうにかりたてているって」
「ハッハッハ、ジャズマイスター卿はそんなことも言ってたのか」
「とんでもないわ。親父のデタラメよ!」
「そうでもしないと、せいけいをたてられないんじゃ…だって、スコーピオンズ・キングダムはいどうこくだから、とちがないし、たたかいをおこさないと、もうからないって」
「俺の父親の代まではそうだった。いや、俺の代でも実質は変わっていないかもしれん。ただ、目指しているところはまったく違う。俺が目指しているのは、もっと新しいやり方だ」
「あたらしいやりかた?」
「俺たち移動国の利点は、あらゆる世界について知っていること。実際に見て、土地を歩き、人々と関わっていることだ。情報だよ。俺は、それを新しい資源にしようと思っている」
「じょうほうが…しげん?」
「例えば、ある一つの国が襲われるとか、異常気象か何かで困ったとき、私たちがそのことをほかの国に伝え、ピンチを解決する。そして助ける側だったその国が困ったとき、またほかの国に助けを求めに向かう。そうして国どうしが助け合えば、世界平和に近づくってこと。これがカラブ様の理想よ」
「そんなことが、できるとおもうの?」
「現状は難しいよな。モーター王国のような軍事国家が多くては、助け合いは現実的ではない。弱味に漬け込んで、困ってる国を襲う可能性すらある。ジャズマイスター卿が危惧しているのは、そういう問題点だろう。俺が世界平和に向けて起こす行動が、結果としてより多くの争いを引き起こすんじゃないか、ってな」
「それに、戦いで生計を立てている人たちもいるから、その人たちをどうするか、も課題になっているわ。私たちのせいで飢え死になんてされたら、世界平和とは言えないもの」
「そう…でも、あなたたちはどうするの?じょうほうだけでは、とうかこうかんしても、たいしたりえきにならないはず…」
「その点はもう考えてあるさ。伝達屋だけじゃなく、実際に俺たちも手伝う。具体的には、武力を使って国を守ったり、資材を長距離にわたって運んだり。ほかにも、正しい知識があれば、できることは山ほどある。…まあ、地に足がついてるとは言いがたいが」
「けど、実際に結果を出してはいるのよ?少しずつだけど…。数ヶ月前だったと思うけど、ある村を敵襲から守った見返りに、作物をもらうことに成功したわ。別の村では鉱石や木材をもらった」
「村は小さいが、だからこそ救いやすい。村人ってのは、平和を望んでいることが多いからな」
「そう…」
「…カラブ様、なぜ月があんなに肥大化したのでしょうか?それに、風が段々と強くなってきている気が」
「調べる必要があるな。だが、サラを送り届けるのが先だ。俺がジャズマイスター卿を呼んでくるから、お前たちはサラを守って待っていろ」
「承知しました。…カラブ様、どうかお気をつけて」
うまにのってはしりさるカラブのせなかをみて、ふいにわたしがせんりょくがいあつかいされているときづく。
「わたしもかせいする」
「駄目よ。あなたは待つように、カラブ様に言われたでしょ?」
「けど、ひとりよりふたりのほうが」
「それなら私たちの誰かが行くわ。スコーピオンズ・キングダムの誰かがね。あなたは、カラブ様の部下ではないでしょ?それに、あいにくだけどあなたは強くないわ、戦闘員としてはね」
「…わたしだって、まじゅつのれんしゅうぐらいしてる」
「じゃあ、あなたの血液型は?」
「け、けつえきがた?こんなときにうらないのはなし?」
「あのねえ、そんなデタラメな話をしてるわけないでしょ?私が言ってるのは、体質の話よ。適正のある魔術を使うための、体質」
「ランドールは、そんなこといってなかった」
「ランドール?ああ、あの胡散臭いチビ助?」
「まじゅつのうではほんものよ、ランドールは」
「うーん、確かにそうなんだろうけど、基本的なことをあなたには教えてないみたいね。きっと本気で教える気がなかったのよ」
「あいつ…なめやがって。あとでしかえししてやるわ。で、けつえきがたとまじゅつになんのかんけいが?」
「まず血液型っていうのは、そもそも血液中の成分によって決まるの。だから性格や知能には影響しないけど、体質には多少関わってくる。A成分だけを持つのがA型で、B成分だけだとB型。両方あるのがAB型、どちらの成分も乗っていないのがO型。A成分は魔力容量を大きくして、代わりに持久力を奪う。B成分は火力を高めるけど、代わりに非力になる。だから魔術師はAB型が多くて、騎士はO型が多い。まあ、そこまで大きな差があるかっていうと微妙なんだけどね。血液型だけじゃなく、家系や本人の努力も影響するから」
「わたしは、Aがた。けんさしたときそうだったと、ちちうえがいってた」
「じゃあ、カラブ様と一緒ね!羨ましいわ、私はB型だから」
「ほかのひとたちは?たとえば、ジャズマイスターきょうとか」
「親父は血液型を非公開にしてる。きっと自分のことをあまり知られたくないんだわ。でも、魔術が主な戦法だから、たぶんAB型。あとは有名どころだと、リニア・モーターがO型で、ザッコ・ヒョロリーがAB型」
「ザッコは、おおがらできんにくしつだけど?」
「本人が鍛えたらしいのよ。小さいときに虚弱体質で、コンプレックスだったんだって」
[カラブ視点]
誤解が解けてよかった。
サラの護衛をサソリーナに任せ、俺はモーター王国の敷地内へ!
モーター王国にはジャズマイスター卿とランドール・ノートンが来ているはず。…まだいるかはわからないが。
知恵袋のジャズマイスター卿なら、肥大化した月について何か知っているだろう。
城の前が、何やら騒がしい。
…乱闘か?
ランドール・ノートンが首なしゴーレムの肩にまたがり、リニア・モーターとルイージ・グリーンを、宝石の群れや吹雪を使って圧倒している。
その横で。
ジャズマイスター卿と魔術師たちが、月に向かって一斉に魔術を放っているではないか!!
奴らの仕業か!!
「どういうことだ、ジャズマイスター卿!!月に何をした!?」
「何って、月をもとに戻そうとしているところさ」
「とぼけるな。この異常事態を招いたのはお前だろ!!」
「あのねえ、私ならもっと賢く手を回すよ。犯人はランドール君だ。どうだねカラブ、因縁は置いといて、この異常事態を一緒に片づけないかい?」
[ランドール視点]
さしものリニアさんもダメージが蓄積してきているようで、ほんの少し動きが鈍い。現に最初は軽々と弾かれていた宝石が、いまはちょっとずつだが腕や足を掠めている。それに、途中から避けるか防ぐかに甘んじており、斬りかかってこない。
ルイージは…最初から俺の魔術を躱すのに精一杯。ときどき剣の先から炎や稲妻を放ってくるものの、狙いが大きくはずれている。
そろそろ、とどめを刺すか。
「コールド・クロコダイル!!」
まずは斜め上から、猛吹雪をリニアに浴びせ目眩まし。
次に、ゴーレムの翼で、リニアめがけて滑空。
そして、獲物めがけて金のアックスを振り下ろす!!
「リニア様、危ない!!」
ルイージめ、余計なことを。
おかげで間一髪気づいたリニアに、斧の一撃を刀で防がれた!!
「スコーピオンズ・クロウ!!」
ゴーレムでリニアと鍔迫り合いになったまま、その左手をルイージに向け、二本の指先から足に矢をお見舞い。
「ぐおおっ!!?」
右足に矢が刺さり、うずくまるルイージ。
「ハッハッハ、黙ってりゃいいものを!!」
「あら、あなたこそ黙っていたほうがよかったんじゃない?」
「は?」
「口では言わなくても、いろいろなことを聞かせてくれたようね。あなたの行動で。
…あなたはいま、何かに失望して
今回の謀反は八つ当たりで、そのついでに国を乗っ取るつもりでしょ?」
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