第二十三話 悪役

[客観視点]

ランドール・ノートンとジャズマイスター卿の対決。

そこに、女王サラ・リーマンが参戦!

「女王陛下!ここにいては危険です。どうかお隠れになってください!!」

ジャズマイスター卿としては、素人の味方が一緒にいると、逆に戦いにくいのである(彼の紳士的な身なりや口調のせいで、一見すると“か弱い少女を庇おうとしている”ように見えるが)。

しかしサラは、人の話を聞かずにツカツカと歩いてくる。


「ジョニー・デップなんてなまえはまっかなうそ。ほんみょうはランドール・ノートン」


「うぇっ!?」

目を丸くするランドール。


「それと、リーマンおうこくのかべをはかいしたのもあなた」


ジャズマイスター卿ジジイ!!いろいろとチクりやがったな!!」

「当然でしょう。私には、君を庇う義理なんてない!ハッハッハ!!」

「ええと、違うんです女王様!!これにはいろいろとわけがありまして、その…」

「ごかいしないでもらいたい。わたしはけっして、あなたをこじんてきににくんでいるわけではないし、しょうじきなんともない、しかたないとすら、おもっている。ただ…


あくまでも、、けそうとしているだけ」


幼い少女の口から、まさかのおぞましい一言が。

これにはランドールも真っ青。それでも何とか、

「え、ええい、怯むなっ!!モーター魔術師団。ジジイもろとも、あの小娘を葬ってしまえ!!」

威勢よく命令…したのだが。


「ハッハッハ、うしろを見たまえランドール君。どうやら二対一の構図になってしまったようだ」

「えっ…?」


振り向くと、ただ真っ白い曇り空が広々と。


「あいつら、逃げやがったな!!」

さしものランドール・ノートンも、たった一人で敵を二人も相手するのは危険。しかも片方は、よりによって実力者のジャズマイスター卿。


結局、ランドールも尻尾を巻いて退却せざるを得なかった。



[ランドール視点]

モーター王国に戻ってきたはいいが、さて何から報告すべきか。

リニアに伝えないといけないことは山ほどある。ジャズマイスター卿とサラ・リーマンがサーモン王国にいて味方していること。そもそもサラが実は生きていたこと。サーモン王国には兵士たちは大勢いるのに、非戦闘員らしき国民は一人もいなかったこと。そして、国王スモーク・サーモンには、とうとうお目にかかれなかったこと。



城の入り口で、リニアが待っていた。

「ご苦労、ランドール。怪我もないみたいだし、とりあえず会議室で話をするだけの元気は残っていそうね」



リニアとともに会議室へ。

ルイージはまだ来ていない。リニア曰く、ルイージは捕虜を尋問して書類を作っているらしい。

「さてと、忘れないうちにメモをとっておかないと。まず遠征の結果について。サーモン王国には、どの程度攻撃を与えたかしら?」

リニアは、一枚の紙と万年筆を取り出した。

「はい。まず大理石の外壁を破壊し、それから兵士を百人ほど始末しました。それと、周辺の建物も、五件ほどではありますが屋根を破壊。そこで、一つ気になったことが」

「気になったこと?と言うと」

「兵士はたくさんいるのに、普通の国民が見当たらないんです。それと、魔術師も。いくら攻撃しても、甲冑姿の戦闘員がぞろぞろと出てくるばかりで」

「…どこかに避難させている可能性はあるわね。こんど、思い当たる国をいくつか、調査してみようかしら」

「それと、もう一つ。…あの国には、ジャズマイスター卿がいました。どうやら招待されていたようです」

「ジャズマイスター卿?」

「ええ。それに、その…にわかに信じがたいかもしれませんが…


…サラ・リーマンが、生きていたようです」


「何ですって!?」

リニアの声が、急に裏返った。

「ですから、リーマン王国の女王は、生き延びていたようなんです!」

俺もついさっき知った、というていにしておこう。知ってて黙っていたというのは、さすがにまずいからな。

「じゃあ、私が処刑したのは…」

「おそらく、替え玉かと」

「やりやがったわね、あの女。…面識がないから、迂闊だったわ。もっとも、確認する手段がなかったのは仕方ないけど。それで、本物はどんな人物だったの?もちろん、目撃していたら、でいいんだけど」

「そうですね、まず、サラは少女でした。それも、かなり幼い。俺より背が低いし、口調も舌足らずで。ただそのわりには、どことなく知性みたいなものがありました。たぶん、学があるのかと」

「確かに、先代のリーマン王なら、早いうちから教育していたとしてもおかしくないわね。ただ、まだ子どもだったというのはびっくりだわ。魔術で反撃せずに替え玉を使うってことは、特化体質ではなさそうだし。…それはそうと、容姿についてもう少し情報があるといいわね、本人かどうか見分けるのに必要だから。例えばこう、髪型とか、髪や目の色とか、服装とか」

「髪は赤紫のツインテールで、瞳は水色でした。白いふわふわしたドレスをきており、魔法の杖を持っていました」

「ということは、魔術を使えるってことかし

ら」

「さあ、わかりません。戦えるほどかどうか…」


メモを取るリニアの手が、ピタリととまった。


「魔法の杖を持っているのに?」

リニアの、きょとんとした顔。


…しまった!!墓穴を掘った!!

俺がだいぶ前に、サラと会っていたことがバレてしまう!!

何とか誤魔化さないと。


「いえ、その…魔術を使ってこなかったんです。本人は乱入するつもりだったんでしょうけど、ジャズマイスター卿がとめていました。まだ素人で戦力にならないから、そうしたのでは?と、俺は勝手にそう思っただけで」

「だとすると、サラはジャズマイスター卿がサーモン王国に招いた可能性が高いわね。大方、スモークとの交渉にでも使うつもりだったんだわ。まったく、厄介なことになっているわね…こっちとしてはサーモン軍だけを相手にするはずが、ジャズマイスター卿がいるなんて。…さすがに我が軍だけでは手に負えないわ。味方をつけないと」

ちょうどそのとき、

トントントン

きちんと三回、ノックの音。

「入りますよ」

ドアが開いて、手足の長いハンサムな執事が入ってきた。

緑色のメンズミディアムヘアと、銀ぶち眼鏡がトレードマーク。

ルイージ・グリーンだ。

「あら、ご苦労だったわルイージ。尋問はもう終わったかしら?」

「今日のところは、この程度で十分でしょう。いろいろと白状させてやりましたよ。まあ、信用はできかねますが」

ルイージは、抱えていた書類をドサッと机に置いた。

ひええ、こんなに枚数あるのか。リニアも読むのが大変だろ、こりゃあ…。

「あとで裏をとってみないとね」

「ハア、また俺の潜入捜査ですか。こっちは内政だけで忙しいのに」

「そんなこと言って、本当はスリリングで楽しいんでしょ?」

「フッ、いい気分転換になりますからな」

リニアとルイージ、二人の会話が続く。俺はなんとなくだが、蚊帳の外。

この二人、仲がいいのか悪いのかわからねえ。

「内政なら、できる分は私がやっておくわ。本来なら私の担当だし」

「頼みますよ、姫様。お言葉には甘えておきますが、くれぐれもそこの金髪コウモリには手伝わせないようにだけ」

「え、俺!?」

びっくりしたぁ!!急に巻き添えかよ。勘弁してくれ。

「大丈夫よ。ランドールには引き続き、軍事と外交、あとは戦力育成のことで協力してもらうから。とりあえず、ランドールは今日は部屋に戻っていいわよ。もう日も沈みかけてるし、戦いで疲れた体を休めておかないと。一足先に帰ってきた魔術師たちにもそう言っておいたわ。彼ら、勇敢さと経験が足りないわね」

「あ、そうだ!!あいつら、俺を置いて逃げやがったんですよ!!とんだチキンどもだ」

「ハッハッハッハッハ!!なっさけねえ!!ハーッハッハッハ!!」

意外なことに、ルイージが大笑いしだした。こんなクールで神経質なやつでも、ツボって爆笑することぐらいはあるんだな。



で、とりあえず部屋に戻っては来たが…さてどうする。ベッドに仰向けになって両足を伸ばし、天井を見ながら考える。


確か、ルイージは捕虜を尋問してたんだよな。捕虜…


メリッサ・ローゼンベルグ。


“悪役令嬢”。やっぱり、あの肩書きはどうも現実くさい。いやまあ、こっちの世界も現実で、マジの異世界なんだけどな。だから正確には、“俺がもといた世界”くさいってことになるか。

あんな肩書きを思いつくってことは、俺がいた世界と何か関係があるかもしれねえ。例えば…


俺と同じく、メリッサも転生してきた


…とか?



[サラ視点]

けっきょく、わたしがまじゅつのうでをみせるまでもなく、ランドールはかってににげていった。

もったいない。


わたしの、さつじんのうでまえをみせるチャンスだったのに。



ジャズマイスターきょうにつれられ、サーモンおうこくのかいぎしつへ。

すでに、スモークはおくのソファにこしかけてたいきしていた。

「国王陛下、ご紹介します。リーマン王国の女王、サラ・リーマンです。女王陛下、どうぞこちらへ」

ジャズマイスターきょうにうながされ、スモークのむかいがわにすわる。

ジャズマイスターきょうは、いつものようにせすじをまっすぐにしてたっている。

「ジャズマイスターきょうはすわらないの?」

「私はあなたがたとは立場が違いますからね。マナーとして、国王陛下に許可をいただかない限りは立っていないと」

「うむ、さすがはジャズマイスター卿。礼儀作法がしっかりしておるな。しかし老体で立ち続けるのもつらかろう。もう座ってよいぞ」

「では、お言葉に甘えて」

ジャズマイスターきょうはぼうしをとってかるくあたまをさげると、わたしからみてみぎがわのソファにこしかけた。

「ではさっそく本題だが…モーター王国は必ず、近いうちにここへ攻め込んでくる。やつらを迎え撃つにあたって、予め作戦を立てておきたい」

「そのまえに…わたしたちが、あなたにきょうりょくしてやるぎりはあるの?」

「何だと?」

「国王陛下、ここは私にお任せを。女王陛下、ご説明いたします。我々とサーモン王国は、これから協力関係になるべきなのです。貿易のためにも、互いを敵から守るためにも」

「そういうことだ、サラ女王。よく覚えておくがいい。では本題に戻ろう。モーター王国を敵に回すと、どのような危険が考えられるかな?」

「まず単純に、兵力の大きさが考えられます。騎士団だけでも厄介なのに、向こうには魔術師団がいますからね。今回受けた被害を見ても、その威力は凄まじい。それと、もう一つ」

「何だ?」


「私がここにいると、カラブ・ドーエンをも敵に回すことになるかと」


カラブ・ドーエン。

じこくのぐんじりょくをこじしてもうけるために、たこくどうしをたきつけてせんそうにもちこむ、ごくあくにん。

わたしのみのあんぜんのためにも、やつをころさなければ。


「…ああ、あのスコーピオンズ・キングダムの国王か。確かに、やつはお前を憎んでいるからな。ここぞとばかりに、モーターに荷担するだろう。となれば、こちらも協力者を用意しておかないとな」

「それもそうですが、私としてはもう少し、モーター王国と交渉してみようかと思うのです」

「交渉だと?やつらはもう、我が国に攻撃をしかけてきたのだぞ。いまさら何を抜かすか」

「私が提案しているのは、偽りの交渉です。表向きは敵対しないようにして、カラブをサーモン王国から遠ざけておく。そうすれば、いざ戦うとなっても敵はモーターだけ。あなたとしては、そちらのほうが対処しやすいのでは?」

「それは…理にかなってはいるが」

「でしょう?私はモーター王国にヘコヘコしておき、あなたは来るべきときに備えておけばいい。そして、水面下では繋がっておく。うまいやり方だと思うんですがねえ」

「…わかった。モーター王国のことはお前に任せる」



[客観視点]

専属のメイドから、捕虜の居場所をあっさりと聞き出したランドール。

夕食を終えた彼が、向かった先は。



モーター王国の城の牢獄、その一番奥に、メリッサ・ローゼンベルグは、右足を鎖で壁に繋がれ、幽閉されている。


「よお、悪役令嬢さん」

鉄格子の向こう側から、ランドールが話しかけると。


「アタクシを尋問する気?だったら眼鏡のやつに、一通り全部喋ったとこだけど。てか、そもそもあんた誰?」




「俺はランドール・ノートン。尋問というより、個人的に質問があってここに来た。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る