第20話

 男は、無言でユニコーンに近づいて行く。

 リタは黙って、男を見ていた。

 そして。

 男は、手にした剣を振り上げる、ギラリ、と輝く剣は、かなり大きな剣だった。

 そして……


 どんっ。


 と。

 大きな音をたてながら……

 ユニコーンの頭部が切断され……

 『大迷宮』の、無機質な石造りの床の上に……

 落ちる。


「ふん」

 男は、軽く鼻を鳴らすと、そのままゆっくりとした足取りで歩き出す。

 頭を失ったユニコーンの胴体が、どう、と、これまた大きな音をたてながら床の上に倒れる、微かにその身体はまだ、ぴく、ぴく、と痙攣を続けていたが、やがてその間隔も短くなっていき、そして……

 完全に、動きを止めたのは、それから……

 それから、少ししてからの事だった。


「さあ」

 男がリタを振り返る。

「……『これ』を運ぶぞ、手伝え」

 男は言いながら、がぱ、と音をさせながら、例の『魔導機関』の蓋を開けた。

「まずは『解体』する」

 男はそう言って、いつの間にか取り出した包丁をゆっくりと振り上げていた。

 リタはただ……

 ただ黙って……

 男を、見ていた。


 そうして。

 数時間後。

 リタは、さっきスープを飲んだ席に、またしてもちょこんと座っていた。

 あの後。

 男は、『解体』したユニコーンの肉を箱の中に詰め、そのまますぐに『引き返す』、と告げた。

 リタは、無言で頷くと、そのまま男に従って歩き出し、『大迷宮』を脱出し、レストランに戻っていた。

 レストランに戻るなり、男はリタに、『着替えてテーブルに着いていろ』と指示し、そのまま自分も鎧を脱ぎ始めた、リタは慌てて、店の隅に向かって走り、『魔物』達の血で汚れた法衣を脱ぎ捨てると、別な法衣に着替え、テーブルに着いていた。

 その間に、男は既に料理人としての服に着替えて厨房に入っていて、あのノートを片手に、どうやらユニコーンの肉を捌いているらしかった。

 リタは黙って……

 黙って、ぴかぴかに磨かれたテーブルを見ながら、その音だけを聞いていた。

 やがて。

「出来たぞ」

 男の声。

 それと同時に、リタの目の前に、大きな皿がそっと置かれる。

 リタは黙って……

 黙って、それを見ていた。

「新しい料理の完成だ」

 男が言う。


 テーブルの上に置かれた皿を、リタはじっと見た。

 そこには、まるで花びらのように綺麗に並べられた肉が並べられていた、煮ているものでも無ければ、焼いているものでもない、捌いた肉が、ただ並べられているだけだ、上には細かく刻まれたニンニクがまぶされている。

「……こ これって……」

 リタは思わず顔を上げて、男を見る。

「ああ」

 男は頷く。

「あのユニコーンだ、東の国では、ユニコーンでは無いが、こうして馬を捌いては生で食べるらしい」

 男は言う。

「な 生で、ですか……?」

 リタには信じられなかった、肉料理は食べた事は、数回程度あるが、その中のいずれも、生のまま食べる、などというものは無かったからだ。

 男はそれ以上余計な事を言うつもりは無い、とばかりに、一枚にフォークを突き刺して、ぱくり、と口に放り込んだ。

「ほう」

 男が言う。

「美味いじゃないか」

 男は頷く。

「……本当、ですか?」

 リタは問いかける。

「疑うのなら、まずは食べろ」

 男は、リタの顔を見て言う。

 リタは黙って。

 黙って、肉を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る