第17話

 『大迷宮』の三階層。

 リタは、男に連れられて、ここに来ていた。

 ここまでの道中、リタ達は、何度と無く魔物達に襲われた、最初の時のように、群れをなしたゴブリン達、巨大な昆虫に、はたまたオークに……

 だが男は、ほとんどを簡単に斬り伏せていた、そのまま器用にゴブリン達の身体を解体し、男はその肉を、例の『魔道機関』を小さくした物だろう、持って来た箱の中にしまっていた。

 それらの作業をてきぱきとこなし、さらには戦いも続けながらも、男は息一つ切らしていない。

 それだけ優秀な『剣士』という事だろう。

 そして……

 リタは、あのスープの味を思い出す。

 料理人としても、あの男は優秀なのだろう、あの味はとても良かった、街に出て普通に店をやれば、恐らくは大きく繁盛するだろう、貴族、或いは王族のお抱え料理人になる事も出来るに違いない。

 それなのに……

 何故、彼は……

 彼は、あんな場所で店をやっているのだろう?

 そうだ。

 ここに来るまでの道すがらで、ようやくリタは、自分が何処にいるのかを知った。

 リタが運ばれたあの店は……

 『大迷宮』の入口がある森。

 その、入口にあった。


 そして……

 リタと男は、今、『大迷宮』の三階層にいた。

 ここには、比較的魔物達は少ないらしい、一つ、二つと部屋を調べて、そこには何もいなかった。

 そして三つ目の部屋で、リタの前に現れたのは……


 馬の嘶きが、広い部屋の中に響く。

「こ これって……」

 リタは呟いた。

 金色に輝く鬣。

 雪の様に真っ白い身体。

 そして……

 その額には、一本の角が生えていた。

「ユニコーンだ」

 男は、平然と言う。

「比較的浅い階層から、見たって話をよく聞かされていたが、こんなに早く会えるとはな」

 ふふ、と。

 男が笑う。

 リタは、男を見る。

 まさか……

 まさか……

「ユニコーン、を……?」

 リタは問いかける。

「そうだ」

 男は頷いた。

「こいつが、次の『追加メニュー』の『食材』だ」


「そ そんな……」

 男の言葉に、リタは呆然と呟く。

「だって……ユ ユニコーンは……」

 そうだ。


 ユニコーン。

 白い肌に、金の鬣を持つ、雄々しき雄馬。

 その正体は、『至高神』に仕える聖獣とも、神々が騎乗する為の騎馬とも言われる。

 その外観は、角の生えた白い馬、その姿は滅多に見られないと言われている、少なくとも地上では、その姿を見られるのは、長年神に仕え、その教えを守り続けて来た『大神官』のみだ、と言われている。

 だけど……

 それが今、目の前にいる。しかもこの男は……

 この男は、あろう事か……

「ユ ユニコーンを、料理しようって言うんですか!?」

 リタは問いかける。

「ああそうだ、だからお前に聞いたんだからな」

「……っ」

 リタは、顔が熱くなるのを感じた。


 『処女か?』

 そう聞かれてリタは真っ赤になりながらも、ぼそぼそと……

 『そ そういう経験は、無い、です』と答えたのだ。

 まさかそれが……

 それが、事もあろうにユニコーンを捕らえる為だなんて。

「……だけど、そもそもユニコーンには……」

 そうだ。

 ユニコーンは、人間には警戒して近づかない。唯一彼らが傅くのは、『清らかな乙女』のみ、それは確かだ、だからリタを囮にする、というのは確かに、ユニコーンを捕らえる方法としては理にかなっているし、実際、万病に効く薬の原料となるユニコーンの角を求めて、多くの者がその方法でユニコーンを捕らえようとした。しかし……それでもユニコーンを捕らえる事は出来なかった。

 何故ならば……

 彼らには……

「彼らには、テレポートの『魔法』があるんですよ?」

 リタは言う。

 そうだ。

 ユニコーンには『テレポート』、その名の通りに、自分の好きな場所に移動する魔法があるのだ、だからこそ彼らは、人前に滅多に姿を現さず、姿を現しても、すぐに消えてしまう、それを捕らえるなんて。

「手はあるさ」

 男は言う。顔を兜で覆っている為、表情は見えないけれど。

 それでも。

 その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。

 リタは、その事に気づいていた。

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