第13話

 ややあって。

「……下らんな」

 男が言う。

 リタは、何も言わない。

「……死ねば罪が償えるのか? 随分と簡単な話だ」

 男は、言う。

 リタは、その言葉に男の方を振り返る。

「……なら、どうしろって言うんですか?」

 リタは言う。


 そうだ。

 どうすれば良い?

 自分の未熟さと、短絡的な思考、それによって二人の人間が死んだ。

 どう償えば良い? 死んで、至高神の御前で罪を告白する以外にどうすれば……


「自分の未熟さで、人が死んだのに、その罪滅ぼしさえ神頼みか?」


 男が、リタの思考を読んだみたいに言う。

 リタは押し黙る。


「随分と楽な話だな? 死んだ者達を『大迷宮』に誘ったのはお前だろう? なのに、彼らの死に関する罰も、死ぬ事も、お前自身では何もしない」

 男は冷たく言う。

 リタは、項垂れた。

「……なら……」

 俯いたまま、リタは言う。

「……なら、どうしたら良いんですか? 兄を探す事も、もう出来ない……」

 そうだ。

 既に、兄を探す事は不可能だ。

 今は、リタ一人しかいない。

 このままあそこに……

 『大迷宮』に戻っても……


「少しは……」

 男が言う。

「自分の為に、生きたらどうだ?」

「……っ」

 リタは……

 男の言葉に……

 息を……

 呑んだ。


「私の、為に……?」

 リタは男に問いかける。

「お前が何を考えて、あの『大迷宮』に挑んだのか知らないし、興味も無いが、お前が探している物は、もうあそこには欠片も無いぞ」

 男が言う。

「……っ」

 リタは息を呑んだ。そうだ。きっと……

 きっと兄は、もう……

「……でも」

 リタは、ぎゅっ、と膝の上に乗せた拳を握りしめた。

 兄は、もう死んでいるだろう。

 死んでいるのだとしたら、先ほど見た『タグ』とやらだけでも見つけたい、とは思うけれど、あんな小さい物を、あの広大な『大迷宮』で見つけるのは、遺体を探すより困難だろう。

「だからこそ」

 男が言う。

「お前の人生を、歩んだらどうだ?」

 男は、もう一度言う。

「……私のも、人生」

 兄の事を忘れて……

 リタ自身の人生。

 それを、歩む。だが……自分の人生とは、一体……

 一体、どんな人生を歩めば良いのだろう?

 何をすれば良い?

 解らない。

 リタには、何も……

 何も、解らない。

 リタは、黙って項垂れていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る