第12話
『似非冒険者』。
その言葉は、リタの中に深く染み入った。
『似非冒険者』。
その通りだ。
そんな『タグ』の事も、リタは知らなかった。
そしてもちろん……『タグ』の仕組みも。
リタは、何も知らなかった。
ただ……
ただ、兄に会いたい。
その感情だけで、神殿を飛び出した。
そして兄を探して走り回り、たまたま出会ったあの二人。
あの二人を、『兄を探している』と言って巻き込んで。
そして……
そして。
「……死なせて……」
リタは呟く。
そうだ。
死なせて、しまった。
自分のせいで、あの二人を……
「……っ」
リタは目を閉じる。
その通りだ。
兄を探すどころか、他人を自分の目的の為に殺し、自分も殺されかけ、そして一人だけ無様に生き残った。
実力も、ろくに無いのに……
こんな自分は……
こんな自分は、確かに。
確かに、『冒険者』などとはとても呼べない。
『似非冒険者』。
その呼び名が、もっとも……
もっとも、相応しいじゃないか。
リタは、背もたれに背中を預けた。
そして。
天井を見上げ、微かに。
微かに、笑った。
「……ふふ……」
何故、笑っているのかが解らない。
だけど。
リタは、無性に可笑しかった。もしかしたら、自分自身の姿が滑稽に見えたのかも知れない。
「……ふふふ……あははははは……」
だけど。
とにかくリタは、笑っていた。
「……おい」
男の声。
リタは、それに、まだひく、ひく、と引きつった笑いを浮かべていたけれど、とにかくゆっくりと……
ゆっくりと、男の顔を見た。
「……いつまでも笑ってないで、さっさとどうするのか決めろ」
「……私は……」
リタは、じっと男の顔を見る。
鋭い目が、こちらに向けられている。
「……私は……」
リタは言う。
そうだ。
どうする。
どうするかなど、もう……
もう、決まっているでは無いか。
『大迷宮』に戻るのだ。あの二人を、自分の為に死なせた、こんな酷い『似非冒険者』などに、生きている資格は無いし、権利も無い。
あそこに戻って、とにかく行けるところまで行くのだ。そしてもしも、『大迷宮』を踏破出来たり、或いは兄の行方が掴めたりすれば、それは強運と言える。
だがきっと……
きっと、そんな事にはならないだろう。
自分はきっと……
きっと、またあんな風にゴブリンに、或いは他の『魔物』に襲われて死ぬのだろう。
それで良い。
自分の様な、『似非冒険者』は、そうして死んだ方が良い、あの二人だって、その方がよほど溜飲が下がるだろう、この世への未練も消えるだろう、そうしたらきっと……
きっと、あの二人も至高神の御許に行けるのに違い無い。
「……っ」
リタは、ふらふらと椅子から立ち上がる。
「戻るのか?」
男が問いかける。
「ええ」
リタは頷いた。
「私に……」
リタは言う。
「私に出来る、『罪滅ぼし』は、もうそれしかありませんから……」
男は、軽くため息をついた。
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