一夜明けて
ステラが目覚めた時、既に激闘から丸一日が経過していた。
「あら、ようやく起きたのね。随分ねぼすけさんだこと」
「んー、おはよう……。ここは……?」
「レギュラスよ。アルテルフさんや村の人が運んでくれたの」
目線だけを動かして周りを見ると、確かにここはベッドの上、寝室だった。窓からは星空が覗いているが、カナデの言う事を信じるならば本当に丸一日寝ていたのだろう。隣では椅子に座ったカナデがナイフを使ってリンゴの皮を剥いている……がその手つきはかなり危なっかしく、皿に置いてある剥かれたリンゴもなんだか不格好に潰れている。
「カナデ、料理下手だとは思ってたけどリンゴの皮剥くのも下手なんだね……」
「私だって料理出来ないのは自覚してるわよ……」
カナデは決して不器用な訳ではない。彼女は戦場でこそ
ある意味不器用さのスキルとでも言うべきその能力は、切って焼くだけの工程で爆発を起こしたり、どう見てもその色は作れないだろうという食材から青色の料理を生成したりなど枚挙に暇がない。その不器用さはリンゴの皮剥きでも遺憾無く発揮されているようだ。
「まぁせっかくカナデが剥いてくれたんだ。有難く頂くよ――って痛っ!」
リンゴを食べるために体を起こそうとしたステラが悲鳴を上げる。ビリビリと雷が走ったような痛みに顔を歪める。
「私の見立てじゃアンタはあと半日は動けないわよ。『
「そんなぁ」
「力はタダじゃないのよ。口開けなさい。食べさせてあげるわ。ほら、あーん」
「……」
カナデは爪楊枝でリンゴを刺すと、それをステラの口元に運ぶ。しかし、恥ずかしくなったのかステラは口を開けようとしない。お互いがお互いの出方を窺って動かない。先に動いたのはカナデだった。
「えい」
「ひょわっ!」
カナデはリンゴをステラの唇に押し付けたのだ。まさか無理やり食べさせてくることは無いだろうと踏んでいたステラは、突然唇に現れた感触に情けない声を出してしまう。カナデはその隙を逃さず、開いた口にリンゴを突っ込む。
「んむっ」
「私の勝ちね。どう? 美味しいでしょ?」
「うん、美味しいよ」
「当然ね。私が剥いたんだから」
「その自身はどこから湧いてくるんだよ……」
見事ステラにリンゴを食べさせることに成功したカナデは、上機嫌な様子で微笑んでいる。いくら料理を破壊することが得意なカナデとはいえ、皮を剥いただけのリンゴではその特性が発揮されなかったようだ。食べさせて貰うのを受け入れたステラは、食べることに集中するのだった。
◇
そんなこんなでステラとカナデがイチャイチャとしていると、部屋のドアがコンコンとノックされる。
「アルテルフだ。入っても?」
「どうぞー」
扉を開けてアルテルフが入室する。彼は目覚めたステラがカナデとよろしくやっている様子を見て、安堵の表情を浮かべる。
「どうやら元気そうで安心したよ。全然起きる気配が無かったもんだからヒヤヒヤしていたんだ」
「あはは、ご心配をお掛けしました」
「いやいや、感謝の言葉なら私じゃなくカナデさんにするべきだよ。彼女はつきっきりでステラさんの傍にいたんだ。、たちがそろそろ休んだ方が良いって言っても全然聞いてくれんかったんだからな」
「ちょっと! それは秘密にしてって言ったでしょう!?」
突然の暴露に耳まで真っ赤にしたカナデが詰め寄っていく。対するアルテルフは年寄りは忘れっぽくていかんのなどと笑って動じない。
これ以上カナデが赤くなって茹で上がってしまうのを防ぐためにも、ステラが助け舟を出す。
「そうだ。私をここまで運んでくれたのって、アルテルフさんたちなんだよね。本当にありがとうございます」
「まぁその辺はちょっと複雑なんだが……」
「というと?」
「君たちがレギュラスを出発してから幾らか経ってから、地震みたいな揺れが何度もあった時間帯があってね」
「多分レグルスが暴れだした時間ね」
近くに戻ってきていたカナデが言う。レグルスの一挙一動はあの地下の空間を揺らす威力があった。その揺れは地上にも伝わっていたのだろう。
「私は君たちのことが心配で寝ても居られずに起きてしまったんだが、その時に人が訪ねてきてね。私も驚いたよ。その人はあのならず者集団のリーダーの男だったんだよ」
「えっ、クロウがここに来たの? 何もされなかった?」
「そうか、彼はクロウと言うのか。彼は何もしなかったよ。それどころか『俺は勝負に負けたから、約束通り馬鹿どもを連れて村を離れる』なんて突然言うから耳を疑ったよ。しかも『揺れが収まったら地下に落ちたガキを助けてやれ』って言うもんだから慌てて村の男手を集めて遺跡に向かったんだよ」
「じゃあこうしていられるのも半分くらいあのクロウって奴のお陰なのね。どうするステラ? 借りが出来ちゃったわね」
「はぁ。クロウとはまたどこかで会いそうな気もするし、その時にでも考えるよ。ところでアルテルフさん。私がいた所、近くにレグ――大きな獅子が倒れてなかったかな」
「大きな獅子? いや、そんなのは居なかったな。だがこれは近くに転がっていたよ」
そう言ってアルテルフが取り出したのは白く光る手のひらサイズの球。
「それって……」
その球は、レグルスが顕現する直前に見たものと酷似していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます