星追う者の一撃

 世界が白に染まる、その直前。直後に訪れるであろう破壊の先触れなのか、空気がビリビリと震える。何が起こるか分からない恐怖に、ステラは思わず目を瞑りそうになる。


「ステラ! チャンスは一瞬だから、目なんか瞑ってる暇ないからね!」

「わ、分かってるよ!」


 ステラはカナデに行動を先読みされたことに内心ヒヤリとしながらも、妙な安心感を得ていた。それはカナデのマギクスによって得られるような数値として表せるような力ではなく、もっと感覚的な、根源的なものだった。

「(なんだか、カナデと一緒ならどんな敵も倒せる気がしてきた!)」


 そんな小さな気づきを胸に、ステラは改めて光と対峙する。カナデはアレをどうにかすると言ったが、実際どうするつもりなのだろうか。

 ふと気が付くと、二人の周りにカナデの『音の妖精たちフェアリーズ』が集まっている。見ると光球から光球へと線が伸びており、光球たちを頂点とする面が組み合わさることで半球状のドームが構築されていた。暖かい色の光の膜が二人を包み込む。そして、


「来るよ!」


 奔る。光が迸る。光の濁流がステラたちへと襲いかかる。全てを破壊し尽くさんとする光線は、ゴウゴウと唸り声を上げながら二人を守るドームへ突き刺さる。

 ギャリギャリギャリッッ!!!

 『音の妖精たちフェアリーズ』が構成する光の膜のドームが、光線と接する事で激しい音を立てる。ドームの耐久性は見た目以上の様で、光線の直撃を受けても崩壊することなくステラとカナデを守っている。もしかしたらレグルスの光線が切れるまで耐えれば良いのでは、と思うステラだったが現実はそうもいかないようだ。


「この破壊光線ほんとに滅茶苦茶! こんな質量の攻撃、私の『音の妖精たちフェアリーズ』じゃあいつまでも受け止めてはいられないわね」

「でもこの光の奔流の中を突破するのはいくら私でも厳しいよ。ズタズタにされちゃう」


 大声を出して叫ぶカナデを見て逆に冷静になるステラ。とはいえ、このまま持久戦を行うには明らかにこちら側のスタミナ不足であるのは間違いない。また、ドームに守られている現状、無策で外に出るのは紛れもない自殺行為である。


「言ったでしょ。私がなんとかするって。アンタの『だんだん強くcrescendo』の強化時間はあと一分ちょっと。あと三十秒でこの光線を消してみせるから、残りの三十秒であの獣をぶっ飛ばしなさいよ!」


 カナデの言葉を聞いて、ステラは自分の中を流れる力に目を向ける。自分でも分かる。この力は既にパンク寸前だ。恐らく次に大きな攻撃を放ったら本当に動けなくなるだろう。だからこそ、次の一撃で全てを終わらせなければならない。ステラは感じていた。今の状態ならこれまで以上の力を操れるはずだと。その力なら、レグルスを倒せると。


「そろそろ終わらせるわよ! 準備は良い!?」

「勿論! いつでも良いよ」


 莫大な量の光の洪水は威力を落とすことなくドームにぶつかり続けている。

 彼女はどうやってこの光線を打ち消すつもりなのか。


「勝利へのカウントダウンよ。3!」


 ステラは見た。カナデがドームの維持に力を使う為に前に伸ばしていた腕を振り上げるのを。


「2!」


 その手には指揮棒タクトが握られており、その指揮棒タクトもまた、光を纏っていた。


「1!」


 その瞬間、二人を覆っていたドームがフッと消滅する。極度の集中のせいか、はたまた高まった力のせいか、全てがスローモーションの様に見えるステラの視界はそれを捉えた。この局面では危機的な現象だが、それはカナデの力が及ばなかった事を意味しない。


「『bequadro』!!!」


 カナデのよく通る声が空間に響き渡る。先程まで空間を埋めつくしていた光も、音も、跡形もなく消えていた。


「莫迦ナッ……!」


 消えた瞬間に駆け出していたステラは、レグルスに近づきながら、昔にカナデが言っていた事を思い出していた。なんでも音とは波であり、その波とは真逆の波がぶつかると音は消えてしまうらしい。位相と逆位相だかってカナデは自慢げに話していた。きっとレグルスの全てを破壊する光線が掻き消えたのも、それに近い原理によるものなのだろう。準備ができるまで時間がかかったのも、カナデが音を聞いていたからだったのだ。

 どういう原理にしても、カナデは約束を守ってレグルスの攻撃をなんとかした。だったら今度はステラが約束を果たす番だ。

 ステラは『星跡スタートレイル』へと力を込めていく。いや、力だけではない。夢への一歩としての想いや交わした約束もまとめて込めていく。『だんだん強くcrescendo』の残り時間もあとわずか、全ての力を注ぐ為により一層の力を込めた時だった。

 ガチャガチャガチャガチャッッ!!!と『星跡スタートレイル』が変形を始めたのだ。銃身は二つに割れ、より攻撃的なフォルムへと変化していく。白を基調としていた本体の色は黒へと染まっていき、二つに割れた銃身の間にはエネルギーが溜まっていく。

 レグルスの目の前まで来たステラは両手で『星跡スタートレイル』を構え、告げる。


「これで終わらせよう、レグルス」

「マダダ……! マダ終ワラン! 『獅子王の心撃コル・レオニス』!!」


 ドッッッ!!!!

 レグルスは再び白き光線を放つ。今度は守ってくれるドームもなく、ステラはその身一つだ。目前に迫る死に最早動じる事無く、ステラは引き金を引く。


「『星追う者の一撃スターゲイザー』」


 カッ!!と黒い光が銃口から溢れ出る。レグルスのそれと異なり太いとも言えない黒き一閃が『獅子王の心撃コル・レオニス』と激突する。質量の差は歴然、白が黒を駆逐するかのように思われた。だが結果は間逆だった。黒は奇妙にも枝分かれすると、段々と白を喰らっていく。拮抗していた白と黒はやがて黒が優勢となり、そのままレグルスの方へ向かっていった。


「貴様ソノ力……! マサカ只ノ戦士デハナク、星喰……」


 『星追う者の一撃スターゲイザー』はレグルスを心臓を貫き、その背後にあった壁画に直撃して消滅した。


 ズゥゥンと大きな音を立てながら、巨体が崩れ落ちる。レグルスは動かない。


「おーい! 大丈夫か、君たち!」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる中、ステラの意識は強化の反動と疲労によって闇の中へ落ちていった。

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