レギュラスの真実

「ケホッ、ケホッ。……ステラ、生きてる?」

「うーん、なんとか。カナデが無事でよかったよ。……でも重いからそろそろ私の上からどいて欲しいかな……」

「なっ」

 

 パラパラと細かい破片が崩れる音を聞きながら、ステラは体を起こして回りを確認する。最早樽に体をぶつけた時よりも、上から落ちてきたカナデをその身で受け止めた時の方が痛かったが、どうやら二人とも無事なようだ。しばらくして砂煙が晴れると、段々と状況が分かってくる。一つ、彼女たちは先ほどまでの空間から一つ下の階層に落ちてきたらしいこと。二つ、思ったより爆発の威力が低かったためか、部屋の床全部が崩落したわけではないということ。上を見るとそこまで大きくない穴から光が覗いている。三つ、落ちてきたのはステラとカナデの二人だけで、ならず者の人たちはここにはいないということだ。


「それにしても、まさか地下空間のさらに下があるとはね」

「これ帰れるのかしら……」


 空間は天井に空いた穴以外の光源がないため、広さを把握することもままならない。どこまでも続いているような暗闇に身震いしたカナデは、ステラに磁石のようにくっついて離れない。


「動きにくいんだけど、カナデ」

「ごめん、怖いから離れないで……」

「暗いのが怖いならさっき出してた光の球出せばいいじゃん。あの浮いてたやつ。てかあれ何なの?」


 その手があったと顔を輝かせたカナデはすかさず小瓶を取り出すと、そこに呼びかける。


「出ておいで、『音の妖精たちフェアリーズ』」


 すると、呼びかけに応じたのか小瓶の中から光球が次々と飛び出してくる。それ自体が光を放つ光球たちは空間を数が増すごとに空間を明るくしていく。


「あー、もしかしてこれ、カナデがシラベさんから貰ってたやつ?」

「そうよ。『音の妖精たちフェアリーズ』って言うの。音楽を好む精霊で、定期的に音楽を与えることで私を助けてくれるんだって。ママの事も昔から助けてあげてたらしいわ」

「それにしては随分直接的に助けてくれるんだね、それ……」


 ステラはならず者たちに物理的に突っ込んでは吹っ飛ばしていた光球の様子を思い出しながら答える。正直あんなのがあの速度で衝突してきたら、死にはしなくても骨の一本や二本は持ってかれるんじゃないかとも思いつつ。


「私の音楽の腕が上がれば、この子たちも出来ることが増えていくってママは言ってたけど、なかなか難しいわね」

「まぁなんでもそう簡単にはいかないって事だね」


 そう締めくくるステラ。実際にそんな一足飛びで強くなれるのなら、彼女たちも村から出るのに七年もかかっていないのだ。ステラは辺りを見回しながら続ける。


「ところでこの空間、カナデが明るくしてくれたから段々全体像が見えてきたんだけど、やっぱり隠されてた部屋だよねぇ」


 まずこの空間がやたらに広い空間である事も不思議な話ではあるが、そもそもステラたちが戦った上層の部屋には、それより下に降りる為の道もどこかに繋がる通路も無かった。だからこそクロウたちはあの空間を無理やり掘り進める事で『力』を探していたのだろうが、まさかそれより下があるとは考えていなかったに違いない。

 なんにしても何かしらの方法を用いないとこの空間には入れなかった訳であるが、ステラたちはその過程をすっ飛ばして隠し部屋に着いてしまった。

 しかし過程はともかくとして、ステラたちには考えなければならない事が一つある。

 隠し部屋は、理由なく隠されることは無い。そこには隠すに値する理由が存在するのだ。

 そこには宝があるかもしれないし、秘密があるかもしれないし、またはそれ以外の物があるかもしれない。

 では、この部屋には何が?


「カナデ、見てよこれ。外にあった壁画と同じ絵だ」

「本当ね。けど外のよりもかなりサイズが大きいわね」


 二人は巨大な壁画を眺める為に壁に沿って歩き出す。光球は追従するように壁を照らしていく。


「まず平和な人々の画、次に都市を襲う獅子の画と獅子と戦う人の画、最後に王と獅子の画……ってあれ、まだ続いてる?」


 外の祭壇にあったのは四枚目まで。祭壇には無かった五枚目が、四枚目の隣に続いていた。ステラとカナデはその壁画を確認するために移動する。


「これって……」


 その画は二枚目とよく似ていた。しかし異なる部分もある。都市を破壊しているのは獅子だけでなく、王もまた破壊者側であった事だ。獅子と王は破壊の限りを尽くし、国を壊している。


「ステラ、この絵はどういう事なの? なんで王様まで都市を襲ってるのよ」

「まだ分からない……。待ってカナデ、六枚目がある」


 ステラが指す先には、確かに壁画の続きがあった。それは一国の終焉を示した画だった。

 そこには討たれる王と封印される獅子が描かれていた。命と国が失われた事を物語るその画は、二人になんとも言えない寂しさを感じさせた。


「段々分かってきたよ。国の滅亡の真実は恐らくここにしかない。獅子が旧きレギュラスのシンボルとしての存在として今もなお扱われているって事は、獅子と王が滅亡の原因だということは現代に伝わってないんだ。滅びたレギュラスの人々はその力が悪用される事のないように真実を隠したんだ」

「ちょっと待ってステラ。それって私たちがここに落ちてきたのってマズイ事なんじゃないの!?」

「もう手遅れかも……」


 二人が気づくのを待っていたかのように、地面が鳴動し始める。慌てて壁際に寄って体を支えていると、突然部屋の反対側から強い光が発生する。それはいつの間にか出現していた球体から発せられており、見ている間に球体はみるみるうちに形を変えていく。

 一際強く光が輝いた後、揺れも収まりようやく目を開けることが出来たステラとカナデが目にしたのは。


 それは巨大な獅子の姿だった。


「我ノ封印ヲ解キ放ッタノハ貴様ラカ、小サキ者共ヨ。我ガ名ハレグルス。世ニ混沌ヲ齎ス者也!」


「あの、私たちの旅、ここで終わった?」

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