銃と剣
カァン、キィンと金属が打ち合う音が空間に鳴り響く。打ち合っている一方はとても金がかかっていそうな豪華な装飾が付いている宝剣。もう一方は銃から伸びた黒く薄い刃。手下の男たちの武器は軽く切断した黒刃だったが、リーダー風の男が持つ宝剣はそうも簡単にいかないようだった。
ステラは『
ステラは剣の扱いについては素人同然であり、秀でた身体機能と感覚で『
ともに攻めあぐねている二人は一度剣戟を止めると距離をとって息をつく。
「チッ、マギクス使いは技術だけじゃ押し切れないのが厄介だな」
「そう言うならず者のリーダーっぽいお兄さんは剣の扱いが上手いね。私もなかなかその武器が折れないよ」
「やっぱ武器を狙ってやがったか。そう簡単には折れねぇよこの剣は。なんたってアリデッド王国の宝物庫から盗み出してきた宝剣だからな。それに俺だって腕に自信もないのに剣を振るったりしない」
「ふぅん、アリデッド……って国は知らないけど(というかどんな国の名前を出されても分からないけど)、ならず者のリーダーっぽいお兄さんはさっきカナデが倒した人たちとは違うんだね」
「あいつらと一緒にするな。そもそも俺は単独行動の方が向いてる。仕方なくあいつらを率いてここにいるんだからな。昼間もちょっと脅せば逃げると思ったのにこのザマだ。あとそのならず者のリーダーっぽいお兄さんってのはやめろ。俺にはクロウって名前がある」
ならず者のリーダーっぽいお兄さん改めクロウは、そう言いながら剣を構え直す。ステラとクロウの間合いは二十歩ほど。二人が再び激突すれば数秒で埋まる距離であるためか、お互いに警戒を解くことなく向かい合っている。
「クロウね、覚えた。あー、私はステラ。であっちにいるのがカナデね。で、一つ教えてくれないかな。クロウはここで何を探しているの?」
後ろの方からなんでわざわざ名乗るのよ!しかも私の名前まで!なんて声が聞こえているが、それは一旦無視しつつステラは本題を問いかける。ステラは彼らの正体がなんなのかはよく分からないしあんまり興味もないのだが、この地に何か面白いものがあるなら是非とも知りたいと思っている。とはいえそんなステラの内心など知る由もないクロウは何を勘違いしているのか律儀にも答えてくれる。
「ケッ、正義の味方気取りか。まぁ俺自身あまりここにあるものには興味ないからな。せっかくだから教えてやる。この遺跡には『力』が眠ってるんだとよ」
「力?」
「あぁ、失われた王国の強大な力。それが武力なのか財力なのかはたまた違う何かなのかは知らねぇがそういう力がここにはあるんだとよ」
「なるほどねぇ。私もそういうのにはあんまり興味が湧かないけど、お兄さんたちみたいな悪そうな人たちに渡すのは良くなさそうだし、アルテルフさんにもお願いされてるから、止めさせてもらうよ」
ステラは『
「クロウ、一つ勝負をしようよ。このままやりあってもお互いにあまり利益がないでしょ?」
「チッ。……話を聞いてやる。分かってるんだ、最初から手加減されてるようなもんだってな。お前一人なら何とかなるだろうが、後ろの女まで入ってきたら流石に無事じゃいられねえ。ガキ二人にいい様にされてるのは不服だが、引き際は見誤るべきじゃないからな」
「話が早くて助かるよ。ルールは……そうだね、私は今からあなたの剣を壊しに行く。三分で壊せなかったらあなたの勝ち。私たちは大人しくここから去ることにするよ」
「ちょっと、本気!?」
「大丈夫だってカナデ。勝てばいいんだからさ。……で、三分以内に私がその剣を折ることが出来たら、大人しく全員連れてここから撤退してほしい。アルテルフさんから頼まれたのはならず者を追っ払うことだからね。自分たちから去ってくれるならそれに越したことはないし、それでどうかな」
「良いぜ、乗ってやるよ。俺としてもそっちの方が都合が良い。来いよ」
ステラとクロウは向かい合って武器を構える。広い空間は静謐を保ちながら、その時を刻一刻と待っている。
「じゃあ、行くよっ!」
ステラが駆け出す。照準をクロウへと向け、『
クロウは宝剣を巧みに操って銃弾を弾くと、返す刀でステラへと斬りかかる。刀の軌道を見て紙一重で避けると、『
「そんな弾じゃ当たんねぇ、よっと!」
再び黒弾は防がれる。クロウがそこそこ剣を操ることができるというのはどうやら嘘ではなく、的確にステラの攻撃を防いでいく。
「そんなんじゃすぐ時間になっちまうぞ」
クロウは銃弾を弾くだけに留まらず適宜反撃も狙ってくるため、ステラは攻撃だけでなく、回避も要求されている。ルール上クロウは剣を破壊されなければ勝ちであるため、そもそもステラに攻撃させないのが一番勝ちに近づく方法であると言える。
「だったらこれはどうかなっ! 『
二重の弾丸が放たれる。それらは二点同時に宝剣へと当たるラインを描いて飛翔する。刃に吸い込まれるように飛んでいくそれはガキンッ、と一際大きな金属音を響かせる。着弾の衝撃で発生した砂煙が晴れると、傷一つ付いていない宝剣が姿を現すのみだった。
「全然足りねえなぁっ!」
薙ぐように振られる剣を、瞬時に姿勢を下げることで躱すステラ。若干タイミングが遅かったのか、黒髪が数本宙に舞う。
「危なっ!」
間一髪で危機を脱したステラは一度クロウから距離を取る。タイムリミットはどんどん近づいてくる。ステラは考える。どうすればあの剣を折ることが出来るのか。剣を折るのに必要なのは何か。何が足りない。足りないのは、
「重さだ」
ステラは『
「『
銃口から飛び出したそれは、今までのものとサイズも速度も大差ないように見えた。クロウは今まで通りに剣を構え、黒い弾丸を防ごうとする。
それが刃へと直撃した時、クロウは異音を耳にする。ミシッ、という音はやがてビキビキと刃へ亀裂の走る音へと変わっていく。黒の弾丸は弾かれることなく刃の表面に留まり、破壊を進行させている。
「マジかよ……」
亀裂はやがて全体へと広がっていき、甲高い破砕音と共に、宝剣の刃は砕け散る。
その衝撃でクロウとステラは吹き飛ばされ、クロウは壁まで飛ばされた挙句に頭を打って動かなくなる。
吹っ飛んだステラは樽のようなものに体をぶつけ、そこにカナデが駆け寄る。
「ステラ! 大丈夫!?」
「大丈夫……。背中は痛いけど」
勝負はステラの作戦勝ち。だが事態はそれでは終わらない。
「てか私が当たった樽って……」
ぶつかったのは赤い樽。道中でこれを見たステラが苦い顔をしていたがそれもそのはず、これは爆薬の入った樽だった。しかも衝撃に弱い代物である。それにステラは激突した。つまり、
「マズイマズイマズイ!! 急いで樽から離れて! 爆発する!!」
数秒おいて、空間は音と光で満たされた。
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