ステラを導くモノ

「え、やだ……」


 ステラの口から出たのは拒否だった。しかもえ、何でそんなことを?みたいなめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。


「アンタ今の流れで断るの!?」

「だって私の目的は世界の果てまで行くことであって、人助けをする事じゃないんだよ。その村に私を惹き付けるものがあるなら別だけどね。というか、なんでカナデはこのおじいさんと一緒いたのさ」

「アンタに追いついたのは良いけど、好き勝手暴れてるからほっといたのよ。それに流れ弾がこのおじいさんに当たったりしたら危ないじゃない」


 カナデはアストを出発する前日の狩りのことを思い出しながら答える。マギクスを使いこなせるかヒビキのような変人でもない限り、飛んでくる銃弾をどうにかすることは難しい。そして、巻き込まれた老人は明らかにそんなこと出来ない側の人間である。まぁ実際のところ、今回の戦闘ではステラは遠距離攻撃をしなかったので、無用の心配だった訳だが。


「そうそう、あの短剣みたいなの何よ。ステラの力って弾撃つか曲芸みたいな事しか出来ないと思ってたわ」

「あー、これ?」


 そう言うとステラは手にした銃に力を籠める。ブォン、と空気が震える音がしたのと同時に、黒く薄い刃が銃口の先に発生する。


「へぇ、そのサイズまで操れるようになったのね。指先に力を集めて飛ばすだけだった一週間前とは大違いね」

「多分……というか間違いなくこの銃のお陰だよ。凄いんだよこれ。私の力を上手いこと制御してくれるから、もっと色々なことができそう」


 ステラがこれまでエネルギーを銃弾として飛ばしていたのは、単にそれがかっこいいからという理由だけではない。その力を十全に扱うことが出来なかったからでもあるのだ。現在のステラの能力では、彼女の身に宿るエネルギーを大量に取り出そうとすると、暴発の危険性が強まる。エネルギーの放出故にこれまではその都度小さなエネルギーを取り出して放っていたのだが、どうやら『星跡スタートレイル』を介することである程度大きなエネルギーでも制御が可能となったようだ。


「あの……」


 そこで、完全に忘れられていたと思しき老人が声を上げる。ステラとカナデが話し込んでしまったことで、蚊帳の外となった彼は沈黙を保っていたのだった。


「あぁごめん! 忘れてたよ。でもさっき言ったように私たちには向かわなきゃいけ……」

「私たちの村は太古に滅んだ王国、レギュラスの跡地にあります。近くの遺跡には隠された宝があるとの言い伝えが……」

「話を聞かせて。私は何をすればいいかな?」

「アンタねぇ……」


 ステラの性質を理解した老人は、最も効果的な手段を用い、その結果驚くほどの早さで手のひらを返したステラは、依頼の内容を聞くことすることなく、目を輝かせながら二つ返事で承諾してしまう。古の王国に遺跡に宝。ステラの好奇心を満たすには十分過ぎる材料だった。カナデは呆れと諦観を湛えた目線をステラへと送っていたが、彼女がそれに気づくことは無かった。


    ◇


 老人はアルテルフと名乗り、立ち話もなんだからと一行は村へと向かう事になった。村の名はレギュラスと言い、亡国の名をそのまま村の名前にしているらしい。そこはのどかさを体現したような村で特筆すべきものは何もないものの、平和な生活が築かれていた。

 その村でアルテルフは商人として生活しながら村のまとめ役もやっており、商品を運んでいる際にならず者に絡まれてしまったのだという。

 聞いてみるとアルテルフの依頼はシンプルなものだった。亡国レギュラスの遺産を手に入れようとやってきたならず者たちをどうにかして欲しい、ということだった。彼らは村の近郊にある遺跡に陣取り、周辺を探しまわっているが、どうやら上手くいっていないらしい。レギュラスの人々にもかなり攻撃的に振る舞うようになってきて、村人は身の危険を感じ始めている。要するにアイツらをボコボコにしてこの地域から追い出せばいいんだね!と単純明快な結論に至ったステラは、その代わりに教えて欲しい事があるとアルテルフに持ちかける。


「ここがどの辺なのか教えて欲しいんだよね。地図はこれ……ってあれ!? 地図が白紙になってる……」

「地図間違えたとかじゃなくて?」

「いや、二十一個の印や『最果て』の表記は残ってるから間違えてはないはずなんだけど」


 ステラとカナデが七年前に見つけた未完成の地図は、時を経て未着手の地図へと様変わりしてしまっていた。何が起こったのか、何の記載もない地図は最早白紙と同義であり、これでは場所も聞きようが無かった。それを見たアルテルフが口を挟む。


「これはマギクスによって作られたものだろう。昔似たようなもの、訪れた場所を記録する地図を見た事がある。その印の場所に行く事で地図に変化があるかもしれんな」

「ふーん、なるほどねぇ。とは言っても今いる場所がどこか分からなければどこにも行きようがないわよ。……あっ、羅針盤コンパスよ! 森を抜ける前、何処かを指してたじゃない!」


 そういえばそうだったとステラが首にかけた羅針盤コンパスを確認すると、その針はまだ一定の方向を指していた。ステラはアルテルフにこの針の指す方向に何か無いかと尋ねると、彼はしばらく考えてから答える。


「その方角にあるのは、それこそならず者たちが占拠しているレギュラスの遺跡だが」


 ステラとカナデは顔を見合わせ、二人同時に笑顔になる。 羅針盤コンパスの導く先に、求めるものがある。旅の目的はともかくとして、どうやって辿り着くかも考えていなかった二人は、思いがけずしてその方法をみつけたのだった。


「ステラが好奇心に釣られた時はどうなるかと思ったけど、どうやら星の巡りは良いみたいね」

「やるべき事ははっきりしたし、気合い入れてならず者退治といこうか、カナデ」


 決行は夜。二人はアルテルフから遺跡の話を聞きながら、方針を話し合うのだった。

 

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