第10話 カオス上等!ヤンキー1年生の日々(10)
(とはいえ、この差し出し方は、対応に困るといいますか~)
照れる思いで声を出す。
「あの、瑞希お兄ちゃん、これ、このトマトは~」
「コラ、好き嫌いするな!」
私の言葉で、瑞希お兄ちゃんの口調が変わる。
今度は、怒った声。
同時に、唇に冷たい球体が強く触れる。
(怒られた!?嫌われる!?)
それで思わず、反射的に口を開けたらプチトマトが飛び込んできた。
「んんっ!?」
「やっと食べたな?何でも食べるんだぞ?」
そう言って笑うと、プチトマトを持っていた手で、おでこをつつかれた。
そして、何事もなかったように食べ始める瑞希お兄ちゃん。
「・・・!?」
これに赤い顔で固まる私と
「・・・!!」
みけんにしわを寄せた円城寺君と、
「・・・。」
あきれ顔のカンナさんが、瑞希お兄ちゃんを見つめる。
(い、今のって、今のって~~~~~!!)
「あーん♪じゃないっ!?」
「モ、モニカちゃん!?」
答えを言ったのは、美味しいご飯を作ってくれたシェフ。
その顔も、あぁ~ん!?だった。
〔★別名、メンチを切る、だ★〕
ぬくもる私とは違った意味で、きい~!と赤く叫びながら、モニカちゃんが言う。
「なにしてんのよ、みーちゃん!?あたしだって、凛ちゃんに食べさせてあげてないのにっ!!」
「何を言う、モニカ?瑞希は、お前が作った飯を凛道に喰わせてやってただけだろう?」
「わははははは!人間同士のあーん♪というより、ご主人様がペットにエサ食わせるよなもんだったぞー!?」
「瑞希~俺にもあーんしてみるか~?」
「誰がすっか、ボケ!野菜も食わさなきゃダメなんだよ!」
からかう烈司さんに、真顔で言う瑞希お兄ちゃん。
その表情で、彼は真面目に野菜を与えてくれたのだと思ったが・・・・
(・・・・・・・瑞希お兄ちゃんのばか・・・・・・)
いきなりこんなこと・・・!
心の準備もまだだったのに・・・・!
(天然すぎるにもほどがあるよっ♪)
むしろ、小悪魔でしょう!?
〔★どちらとも言えた★〕
口に入ったプチトマトを転がす。
(突然だったとはいえ、どうしよう・・・)
飴をなめるみたいに、プチトマトをコロコロする。
(瑞希お兄ちゃんからのプチトマト・・・・食べずらい。)
むしろ、食べるのがもったいなーい!!
なかなか、噛めなくて口の中に入れていたら・・・
「こら、行儀悪いぞ、凛?」
プニっ!
プチトマトでふくらましていた方を、瑞希お兄ちゃんの指でプッシュされる。
〔★瑞希からのこうげき★〕
「っ!?す、すみません!」
「早く食っちまえ。そんなにプチトマト好きなのか?」
「は、はい!」
「なんだ、そうならそうと言えよ~?ほら、まだあるから惜しまず食べろ~なくならねぇーからよ。」
「わ、わかり―――――!」
プ二ップ二ッ!
そう言いながら、プチトマトでふくれた頬を突っつく。
連打してくる。
プニップニップニッ!
「ちょ、瑞希お兄ちゃん!?」
「ほれ、ほれ♪早く食べねぇーと、外からつぶすぞ?」
プニっプニっ!
ケラケラ笑いながら言ってるけど、本気でつぶす力ではない。
完全にからかっている力のゆるさだ。
「ちょ・・・お兄ちゃんダメだって!」
慌てて、右へ左へプチトマトを移動させるけど。
プニっプニっ♪
「ほれほれ、早く噛んじまえ♪」
追いかけまわすように、プッシュしてくる。
(あああ~!遊ばれてるとわかってるけど――――――――――楽しいっ!!)
食べ物で遊んではいけないけど!
この時間が楽しい!
構われてる幸せ!
〔★瑞希からの連続プッシュ、凛はかむ気が出ない★〕
ずっとそうしていたかったけど、やっぱり恥ずかしさがあった。
みんながニヤニヤ、キー!と、しながら見てる。
だから、舌の上でプチトマト噛み潰した。
プチン♪
「お!?あーあ!やっと食べたか~凛?」
「・・・・食べますよ・・・・」
モグモグと、口を動かせば、その振動で瑞希お兄ちゃんが頬から指を離した。
「よしよし、ちゃんと野菜食べたな。ほら、凛の好きなプチトマト。どんどん食べろ~」
満足げに言うと、私の空の皿にプチトマトを数個置いてくれた。
「あ、ありがとうございます・・・」
「いいって。」
「よーくーないわよっ、みーちゃん!?凛ちゃん、モニカちゃんとも愛のピンポンをしましょ~!!」
「やめてやれ、モニカ。凛たんまだ食べてる。」
「同感だ。ただでさえ食が細いのに、お前に構えば口に入る飯の量が減る。」
「なによもぉ~!みんな意地悪ぅ!」
「わははははは!」
そんなやり取りを聞きながら、うつむき加減で食べる。
赤い顔を隠すように下を向きながら、口の中のトマトをかみくだく。
何度も何度も、30回を超えても噛む。
かみしめる。
瑞希お兄ちゃんを思いながら。
(ああ・・・いつもより、プチトマトが甘く感じる。)
別に好きでも嫌いでもなかったけど、今日から好物になりそう♪
(これから先、プチトマトを食べる時は、思い出すのね~瑞希お兄ちゃんからの愛とトキメ――――――――――♪)
ガシッ!
「へ?」
幸せ気分でいたら、突然、腕をつかまれた。
「いい御身分だな、凛道・・・・!?」
「な・・・・ぎゃああああ!?」
見れば、怖い顔の少年がいた。
「円城寺君!?顔が近い!あと怖いよ!?」
ギリギリと歯ぎしりしながら、メンチを切ってくる円城寺君が迫る。
〔★大河はジェラシーを出している★〕
怒っているのも、怒っている理由もわかったけど・・・
「「オイ。」」
ガシッ!ガシッ!
「あ!?誰だ!?」
「わはははは!俺様と~!」
「俺だ。なんだ円城寺?その口の利き方は?」
「う!?」
メンチを切って振り返った円城寺君が、その視線の先を見て固まる。
「食事中にケンカはやめろ。行儀が悪い。」
「わははははは!喧嘩したいなら付き合うぞ~!?」
「し、獅子島さん、百鬼さん!?」
「げげ!?伊織さんに、皇助さん!?」
私を掴んだ円城寺君を、眼鏡と野獣が掴む。
「うわ!?ちょ、離してください、皇助さんっ・・・・!」
「わはははははは!オメーに寝技を教えてやろう~!」
「ぎゅああああああああ!」
(ああ・・・・)
助けてあげたいけど、相手が悪い。
(さようなら、円城寺君・・・)
〔★大河の強制退去、凛は静かに見守った★〕
抵抗もむなしく、円城寺君は野獣によって部屋の端に連れていかれた。
獅子島さんはそれを目だけで見送ってから、テリーヌを口に運んでいた。
(私は助かったけど、円城寺君・・・・・・・・お気の毒に。)
ちらっと目だけで瑞希お兄ちゃんを見れば、その光景に呆れていた。
「あの、瑞希お兄ちゃんは・・・・助けてあげたりは・・・?」
「しねぇーよ。飯の最中に、ケンカ吹っ掛けた大河が悪い。」
「そうですか・・・」
(放置するんだ・・・・)
〔★まさに放任教育だった★〕
「瑞希先輩の言う通りだぜ。ほっとけよ、凛。」
「カンナさん。」
放置宣言したのは瑞希お兄ちゃんだけじゃなかった。
円城寺君と一緒に来ていた爆裂弾のヤンキーガールも呆れながら、私の側へとやって来た。
「よっ!愛されてんな、凛?」
「っ!?ストレートすぎるよ、カンナさん!」
「良いじゃんか?正直、オメーには心配させられっぱなしだったからよ~まだ無傷でよかったぜ?」
「まだ・・・?」
「そうだよ。もう作戦は決めてんのか?」
「え?なにの?」
「え?なにって・・・・おいおい!?まさか『また』、話してないってオチっすか、瑞希先輩!?」
聞き返せば、険しい顔でカンナさんが瑞希お兄ちゃんに聞く。
これに瑞希お兄ちゃんは、リゾットを皿に盛りながら困り顔で言った。
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