【急募】親友が俺の好きな女の子にフラッシュモブを使って告白している場面に出くわした時の対処法

亜逸

【急募】親友が俺の好きな女の子にフラッシュモブを使って告白している場面に出くわした時の対処法

 田村たむら信二しんじには、好きな女の子がいる。

 同じクラスにいる、小柄で可愛い女の子――小池こいけ美優みゆだ。


 美優とは友達以上、彼氏彼女未満の関係が長らく続いており、信二はいい加減告白しようしようと思いつつも肝心なところでヘタれてしまい、いつまで経っても美優との関係が中途半端なままになっていた。


 今日こそは学校の帰りに美優に告白しよう――通算四〇度目となる決意を固め、終礼のホームルームが終わると同時に彼女を誘おうと席から立ち上がった時に、は起きた。

 突然、信二と美優を除いたクラスメイトが一斉に立ち上がり、全ての机と椅子を教室の端に追いやってから、二人を囲うようにして一糸乱れぬダンスを披露し始めたのだ。


 ……いや。ダンスの輪の中にいるのは信二と美優だけではない。

 信二の親友である白崎しろさき靜也しずやも、輪の中にいた。

 何が起きたのかわからず困惑している信二と美優とは対照的に、落ち着き払った物腰で。


 クラスメイトたちによる、無駄に完成度の高いキレッキレなダンスが終わったところで、靜也は突然美優の前で跪く。


「小池美優さん。信二の手前ずっと隠していたけど、あなたのことが好きでした。良ければ、僕と付き合ってくれませんか?」

「え? ……えぇ!?」


 フラッシュモブを使った上での芝居がかった告白に、ますます困惑する美優。

 一方信二は、目の前で起きている状況がまるで理解できず、困惑の極みに陥っていた。


 靜也が美優ちゃんに告白?


 クラスメイトをフラッシュモブに使ってまで?


 俺が美優ちゃんのことが好きなことを知ってるくせに?


 俺と美優ちゃんのことを応援してくれてたのに?


 なのになんで、こんなことになってんだよ?


「まままままま待てよ靜也ッ!!」


 兎にも角にもこのままではまずいと思った信二は、情けないほどに動揺した声音で、美優と靜也の間に割って入る。


「じょ、冗談だよな? だってお前……ほら……知ってるだろ?」


 この期に及んで美優が好きだと明言できない自分を情けなく思いながらも、迂遠な物言いで靜也に訊ねる。


「勿論、知ってるよ。その上で待ったが、君は動かなかった。だから僕は〝そういうこと〟だと解釈した」


 靜也も迂遠な物言いで返してくる。

〝そういうこと〟という言葉には、「いつまで経っても告白しないということは、君は彼女のことをそこまで想っていない」という意味が込められていることは、親友であるがゆえに、信二は即座に理解することができた。


「そ、そんなことはねえよ! お、俺は誰よりも――」


 言いかけて、つい口ごもってしまう。

 なぜなら今ここで、誰よりも美優ちゃんのことが好きだ!」と言い返すことは、彼女に告白することと同義。

 そのことに気づいてしまったからこそ、続く言葉を吐き出すことができなかった。


「そんなザマで『誰よりも』とは笑わせてくれるよ。僕ならはっきりと言えるよ。『僕はこの場にいる誰よりも、小池美優さんが好きだ』……とね」


 一度目は困惑が勝ったが、二度目ともなると多少なりとも冷静に受け止める余裕ができてしまったのか。

 靜也の直球すぎる告白に、美優の顔がいよいよ赤くなっていく。


 だが、赤くなっている理由は、あくまでも人前で告白されたことに対する羞恥からくるもののようで、


「し、信二くん……」


 美優は信二に向かって、助けるを求めるような、縋るような向けていた。


 好きな女の子にそんな目で見られてなお、ウダウダしているのは男のやることじゃない。

 事ここに至ってようやく覚悟を決めた信二は、顔を真っ赤にしながらも親友に向かって怒鳴った。


「お、俺だってはっきり言えるっつうのッ!! この場にいる誰よりもッ!! 親友おまえよりもッ!! 美優ちゃんが大大大好きだってことがなッ!!」


 叫ぶだけ叫んだ後、「返事はこれでッ!!」と言わんばかりに、美優に向かって手を差し伸べる。

 美優は靜也に向かってペコリと頭を下げると、感極まった顔をしながらも信二の手を取り、二人してその場から脱兎の如く逃げ去っていった。

 相思相愛だからこそ、互いが互いに羞恥の限界にきていることを察することができた。

 それゆえの迷いなき逃亡だった。


 二人が教室から出て行ったところで、靜也は息をつく。


「悪かったね、みんな。こんなことに付き合わせてしまって」


 労いの言葉に、クラスメイトたちが次々と応えていく。


「まあ、いいってことよ」

「いつまでもウダウダされるのも面倒だったしね」

「見てるオレらの方がヤキモキさせられたっつうか」

「さすがに、いい加減くっついてよって感じだったもんね~」


 う。

 靜也がクラスメイトをフラッシュモブに使ってまで美優に告白したのは、いつまで経っても彼女に告白しようとしない親友を焚きつけるためだった。

 仕掛け人である靜也自身も、信二の告白を演出するためのモブにすぎなかったのだ。


「でもよぉ、万が一お前の告白がオーケーされたらどうするつもりだったんだ?」


 傍にいた男子の質問に対し、靜也は「ないない」と片手を振る。


「あの二人の相思相愛ラブラブっぷりは、誰よりも僕が一番よく知ってるからね」


 などと笑って応じながらも、靜也は一人知れず、心の中でため息をつく。


(けどまあ、告白自体は本気だったんだけどね……)


 親友の想いを知っているから表に出さないというだけで、実のところ、靜也も美優のことが好きだった。

 だから告白自体は本気でやったが……もし仮に、美優がオーケーしていた場合、自分は彼女に失望していただろうと靜也は思う。

 なぜなら靜也は、親友のことを一途に想っている彼女を好きになってしまったのだから。


(我ながらほんと、面倒くさい性格をしてるよ)


 その自覚があったからこそ、フラッシュモブを使った告白で信二を焚きつけることを画策した。

 これ以上二人がウダウダしていたら、自分も前に進めないと思ったから。

 親友にも、好きな女の子にも、さっさと幸せになってほしいと思ったから。

 さっさと、踏ん切りをつかせてほしいと思ったから。


「別れたりなんかしたら、本気で怒るからな。信二。小池さん」


 そう言って二人が逃げていった方角を見つめる靜也は、失恋の苦みをかき消すほどに晴れやかな顔をしていた。

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