第9話 「おまえら」の片割れと目されて・・・

 尾沢康男君という若い男の指導員がおるが、これがな、職員会議の後の打合せかなんかの折に、そのきっかけを作ってしもた。

 米河清治という、当時小6の児童、今年で高校生になっとるわ。

 確か、私立の中高一貫の津島高校に行っておるわい。

 その子がうちにおった小学5年生の秋口に、O大学の大学祭に通って、そこで勧誘を受けて通うようになったのよ、大学のクラブ活動に。

 確か、鉄道研究会とか言っておったな。

 あの少年、鉄道が好きでなぁ・・・。


 で、尾沢君の話。職員会議の後じゃったな。

「何もそんな、大学なんかに行かなくても、子どもは子どもらしく・・・」

とか何とか、言い出したのよ。

 その時わしは、よせばいいところではあったが、彼の弁に同調してしまった。

 そこに来て、大槻が、烈火のごとく怒ってのう、尾沢とわしを「おまえら」呼ばわりして、目の前にあったガラス製の灰皿を床にたたきつけて怒鳴りつけてきた。

 その弁が、何と言っても、ふるっておったな。


 尾沢に園長!

 おまえらは、米河清治の将来に資する何かを与えられるだけのものを持ち合わせておるのか?

 それもなしに、何が子どもは子どもらしく、だ? 笑わせるな!


 わしと大槻が怒鳴り合いをしたことは、この十数年来に何度かはあった。

 森川さんが園長の頃は、さすがにそんなことは一度もなかった。

 その後わしが園長職を継いで後に、数えるほどではあったが、確かにあった。

 しかし、「おまえら」の片割れとして扱われたのは、あれが最初で最後じゃ。


 まず彼は、後輩の児童指導員である尾沢君を怒鳴りつけた。

 それだけなら、厳しい先輩が後輩を指導しておる光景かも知らん。

 現に尾沢は、大槻の罵声を黙って耐えておった。

 ただその後、わしにも、彼の矛先が向けられた。

「大昔の街外れの片田舎の小学校の純朴少年少女らにはそれでも通用しただろうが、米河清治やわしの息子らの時代には、おまえらの子どもだましなど通用せん!」

 大槻の息子は、上が米河少年より1歳下で、それよりさらに5歳ほど下の弟もおるのじゃが、彼らにも米河少年にも、わしや山上さんのような人間がやってきたものなど一切通用しないと、そこまで言ってきた。


 そりゃあ、わしが完璧な教師であったとは言わん。

 よつ葉園の職員としても、それは同じ。

 じゃがなぁ、これでは、大槻の息子や米河少年相手には、おまえなど何の役にも立たんのだと、そう言われたも同然ではないか。

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