第8話 わしに言わせれば、茶番じゃよ、茶番。
わしは、な、元々、前園長の森川一郎さんに請われて、大槻が独り立ちできるまでの間、園長をやって欲しいという含みで、よつ葉園に招聘された。
学級運営や学校経営の手法はこの職場でも活かせるであろうと、最初のうちは思っておった。森川さんも、その認識で結構ですわと仰せではあった。
しかし、フタ開けてみれば、びっくりじゃ。
どうもそんなものではないことに気付くのに、さほど、時間はかからなかった。
なんせ、そこは子どもらの学びに来る場ではなくして生活していく場そのもの。
キレイゴトかもしれんが、子どもらにとっては「家」なのじゃ、あんな場所でも。
わしら、自分の住む家の中で、あの地で子どもらが送っているような生活をしておるのかと言われたら、そんなもん、しとるわけがないわ。したくも、ないわい。
子どもたちのムラだとか、くすのき学園で園長を務めた稲田健一さんが以前本を出されて、そこでそんなことを述べておられたが、はて、そんなええものか。
わしもさすがに、それはなかろうと思っておる。
建前でそういう言葉はありかもしれんが、本音としては、冗談ではないわな。
とはいえ、あそこにおる子らを何とか導いていくには、どうしても、群れさせることでなんとか若い保母らでも目が届く範囲に子どもらを置いて、それで、何とか日々を送らせていく。
そういう手法を使って、そこで児童同士、あるいは児童と職員間を触れ合わせることで家庭の味を云々するわけ、じゃな。
わしに言わせれば、茶番じゃよ、茶番。
あまりにも見え透いた、茶番じゃわい。
そんな茶番であっても、あの地を維持していくためには、必要な手法で、な。
それを子どもだましなどと指摘してきた元児童の保護者というか、親族がおられたが、それも確かに、あたっては、おる。
さすがに立場上、わしはそんなこと言えんかったけどな。
それにしてもあの地はなぁ、そこに関わった人間を不幸にする何かが構造的に含まれておるのではないかと、わしはあの地で勤めた十何年間、否応なく感じないわけにはいかなかった。
忘れもせん。
あれは、津島町から移転する寸前、4年前の5月半ばのことじゃ。
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