第7話 世にも世にも、世知辛い奴じゃ、のう・・・

 一息つく古村氏の横で、教え子の先輩が従業員を呼んで、各自にもう一杯ずつ珈琲を求めた。それから、水もそれぞれに持ってきてもらうよう頼んだ。


 必要な用件を済ませた岡本氏が、古村氏に尋ねる。

「フルちゃん、その「事件」とは、要は山上さんに、「定年」を理由として、完全な退職を迫るという流れでおきたわけか?」

「ええ、そうです。私はもちろんその時園長室にはおりませんでしたし、事務室で仕事をしておりましたから、その一部始終を見たわけではありません。ですが、園長室から出てこられた山上先生のお顔を見て、何とも申し上げようがなかったですわ」


 言葉が詰まった事務長の言葉を、元園長がつないだ。

「君はその時点で、山上さんが定年退職を迫られたことを知るに至ったわけだな」

「はい。自分の作った文書がこんな形で活用されたのかと思うと、ですね・・・」


 この件について、東氏は山上元保母からある程度話を聞いていただけに、それほど驚きはしなかったものの、古村氏からの情報を聞き及び、大槻和男という人物に対しての少しばかりの感心と、いささかならぬ反感を同時に抱くに至っていた。

 老教師は教え子らに対し、こう言葉にしてみせた。


「しかしなぁ、大槻ちゅう人物は、世にも世にも、世知辛い奴じゃ、のう・・・」


 ここで、珈琲と水がそれぞれに運ばれてきた。

 彼らはそれなりの飲み方で、飲みなおし始める。

「わしもある意味、大槻には、山上さんとは違った形ではあろうけど、持ち上げられた挙句に、都合よく葬られたクチになるのかも、知れんな・・・」


 珈琲を一口ばかり含んでカップをさらに置きなおした元教師が、ぽつりとこぼす。

 そして今度はグラスの水を少しばかり多めに飲み、再び、話し始めた。

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