第5話 良くも悪くも、狭い職場に収まらぬ若者につき

 老教師は、恩師と慕う教え子たちの前で、さらに語る。


 もっとも、それは今のところ、自分の家庭や職場であるよつ葉園に悪影響を及ぼすまでには至っておらん。

 なんだかんだで、森川さんが暴走せぬよう、少し年長の大宮哲郎さんという、うちで昔嘱託医をされておった病院の院長さんの息子さんに頼んで、何とか導いてもらっておったのも、大きいわな。山上さんは、そんな人物などとっとと見切って行きたいところに行かせてやればとの御意見じゃったが、そうはならなかった。

 あれは若い頃、さっさと事業を興してよつ葉園を飛び出していきたいと思っておったそうじゃが、それをうまいこと止めてくれたのも、その大宮君のおかげよ。

 森川さんと延々協議して、森川さんだけでなく大宮君やその知合いあたりまでが絡んで、大槻君をかなり説得されておった。

 

 さてわしは、大槻君がよつ葉園を飛び出して事業を興すことには、あまり積極的に賛成する気にはなれなかったけどな。

 ま、大宮君ら少し年上のお兄さんらは、大槻と年も近いのでさほどでもなかったようじゃが、何分、年の離れた森川さんは、苦労しておられた。

 もっとも、わしはそのときは彼に何も申していなかったけどな。

 第一、大槻センセイともあろう御方が、わし風情に相談なんか持ちかけるはずもないわ。いずれにせよ、大槻君はよつ葉園という枠内に納まるような人間では、ない。

 それは、良くも悪くも、じゃが。


 それにしても、なぁ、武志、おまえ、この前の山上さんの話。

 ありゃあ、ちょっとわしも、いかがなものかと思ったぞ。


 そう言って、老恩師は教え子らの前で一息つき、目の前の水を飲んだ。

 大通り向い側の道路の少し北側に植えられた桜の花は、すでに散り切っている。


「先生、その、山上先生でしたっけ、私より少し年上の保母さんみたいですけど、先日定年退職されたとフルちゃんから伺いましたが・・・、何か、ひどい話でもあるのです?」

 はたで聞いていた年上の教え子が、尋ねた。

 老教師が、それに呼応して述べる。

「おお、あった、あった。それ、武志がよく知っておるどころか、大槻からいろいろ指示されてやったクチじゃ。そっちに聞いた方がええ。というわけで武志、もとい、古村君、その経緯、君の知る差し障りない範囲で、岡本君に話してやってくれんか」

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