第21話 急襲


 夕食後、リーアの部屋で僕とアリーサ、そしてニィズの4人で遊んでいた。たくさんある人形でままごとなんて始めだして、早々にリーアはお姉さん役をゲットし、妹にニィズを指名した。僕とアリーサがパパママ役で2人の娘がいる4人家族の設定が準備された。ファナはというと、リーアの熱い誘いにも、『疲れてるからまた今度』とクールに参加拒否して去った。


 その夜。

 遊び疲れて眠そうなニィズをアリーサが抱えて部屋へと向かった。まだ遊び足りなさそうなリーアをなだめて、僕も借りた部屋へ戻り、ベッドの上に寝転がり《星詠み》を発動する。

 ファナが僕の《感知》に反応しなかったことが気になって、《星詠み》ならと、試そうと思ったからだ。

 しかし、なぜ彼女は僕の《感知》に反応しなかったのだろう……。

 今度、ファナを鑑定させてもらおう。そんなことを考えながら《星詠み》を見ていると、


「ん?」


 この家にいる全員の反応が……確認できてない?

 ファナの反応だけがない。まさか、《星詠み》でさえ捉えられないのか!?


『ファナって娘なら、ずいぶん前に出掛けたわね。窓から外出なんて、お転婆ね』

(!?)

 

 ルナのその言葉に、慌てて《星詠み》を空へ飛ばし、広範囲索敵を試みる。


(いた! 貴族エリアに反応がある!?)

 

 ――アルガーポ・ガラシス……。

 頭をよぎったその名に、僕はベッドから跳ね起き部屋を飛び出る。

 とりあえず、アリーサに報告しなきゃ。

 僕の焦りが見えるノックにアリーサが扉を開ける。


「どうしたの? ハルトくん」

「いや、ファナ様が貴族エリアに」

「!?」

「一際大きな屋敷にファナ様と複数人の反応が、戦闘中のようだね」

「まさか、あの子! 母上に知らせてから、ファナのところへ急ぎます! ハルトも一緒に来て!」


 《星詠み》に映るファナの動向を確認しているが、暗殺決行日がまさかの僕たちが王都へ着いた日だったのか?

 鎧を身にまとうアリーサから出る騒がしい金属音にリーアが眠い目をこすり起きてくる。


「アリーサお姉さま、お出かけですか? リーアも一緒に……」

「それでは母上、行ってきます!」

「アリーサ、ハルトくん、ファナをお願いね!」


 アリーサは頷き、アクリナさんの腕に抱かれたリーアの頭を撫でると玄関の扉を開けて飛び出していく。アリーサの後を追うように家を出た僕は先導するために前へ出る。


「ガラシスの屋敷よね」

「僕にガラシスの屋敷の場所はわからないけど、とりあえずファナ様の反応がある場所へ行こう」

「私のことはかまいません。ハルトくんは一刻も早くファナのところへ!」

「わかった!」

「とりあえず、私はアルガーポ・ガラシスの屋敷を目指します。橋での検問で多少時間を要すると思います。ハルトくんは検問通らず行けるよね!」

「《クイック》!」


 頷いてから、<サイン・ドライブ>にセットしてある素早さ上昇スキル《クイック》を重装鎧のアリーサにもかけて、アリーサを置き去りにファナが通ったルートを辿るため、屋根へ飛び上がる。


 そう、僕の両腕にはサイン・ドライブが装着され、すでにカードが12枚、主にステータス上昇のスキルカードがセットされている。武具では多くて3つある枠、いわゆる武具強化スロットがサイン・ドライブには12箇所あることになる。さらに、本来スロットは一度付与してしまうと付け替えるということができないのだが、サイン・ドライブならスキルカードをセットし直すことで、速い敵ならスピードアップを、パワーのある相手ならパワーアップのスキルカードをセットすることで自在にステータスを強化し対応することができる。


 サイン・ドライブを装着すると、眼前に円盤状のフィールドが表示され、盤面内に敵味方の位置とステータス、盤面外にセットされたカードが表示される。味方のステータスにスキルカードをスライドさせることでスキルを付与することができ、フィールドにトラップカードをセットすることで様々な効果のスキルを多発的に発動できる。つまり、自分好みの戦闘フィールドを構築することができる。これがサイン・ドライブの使用法の一端だ。



 アルガーポ・ガラシスの屋敷かは分からないが、周辺の敷地よりさらに広大な敷地にある一際大きな屋敷を捉えた。そこにファナと複数の興奮した者の反応がある。

 と、ファナのいる屋敷の窓が騒々しく光る。

 

(あれは、魔法の光……)


 潜入がバレて戦闘になっている可能性が高い。

 ガラシスほどの大物だ。取り巻きも手練に違いない。もし、1対多数になっていれば、逃げることさえ難しいだろう。しかも、アルガーポ・ガラシス辺境伯は、オーク族との混血で身長3メートルの巨漢、その戦いぶりは非情とパイヴィに聞いている。あの細身のファナがガラシスに蹂躙される未来しか見えない……。

 僕は急いだ。《クイック》をかけ最短を行っているが、もっと速く! そう思ったとき僕の足元に魔法陣が現れた。


『これでいいかしら?』


 ルナが風魔法を使ってくれた。突風に乗って、僕はさらに加速する。

 サイン・ドライブではできないルナの機転だ。助かる。


『ふっふーん!』 


 魔法らしき光を放った屋敷の窓があるバルコニーに着地。中を覗く――。

 そこには、十数人の倒れた者と、一人の大男が拍手でファナを称賛する光景があった。


「グフフフ。いやいや、やりますねえ。最近、我が屋敷をチョロチョロ嗅ぎ回るネズミがいるのは知っていましたが、まさか私のプラエトリアニ<親衛隊>をこうも見事に倒してしまうとは、王都は安全だろうと精鋭を置いてきたことを素直に後悔していますよ」

「はぁ……はぁ……」

「でも、どうなんでしょう? すでに満身創痍のあなたと私がこれから戦うわけですが、勝敗は火を見るより明らかとは思いませんか? いや、だからといって見逃したりはしませんよ。誰の差し金か、どの組織の回し者かをきっちり吐いて貰うために、これから、地下の拷問室でゆっくり尋問しないといけませんからね」

「やっぱり地下なのね! リズリーはどこ!」

「リズリー……? ああ、あの躾がなってない熊の獣人娘のことですかね。彼女なら現在躾の真っ最中ですよ。さすが熊の獣人ですね、強めに殴っても壊れないのがいい」


 片膝を着いたファナが怒りに任せてガラシスに飛びかかる。短剣を持った右手はガラシスに掴まれ、数度振り回された挙げ句にそのまま壁へ思いっきり投げつけられる。


「ゲホゲホ……」


 床に伏したファナの口から赤い飛沫がほとばしる。


「いやいや、これは拷問の前にこの役立たず共を処分しないといけませんかね。あなたのせいで部屋の後片付けが大変ですよ」


 やれやれと床に転がるファナの頭を鷲掴みにして、転がる死傷者も気にもせず踏みつけながら、そのままファナを引き摺って部屋を出ていこうとするガラシス。


「《ウォーターブレード(水斬)》!」


 放ったスキルが、ファナを掴んだガラシスの太い右腕を付け根から切断した――。

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