第18話 王都入り
堀の水が流れる石造りの橋を渡ったところに検問所があったが、無事に通過。
きつく縛ってある生きている荷物たちとニィズが怪しまれたが、『こっちは道中に襲ってきたお尋ね者の野盗で、こっちはある方の依頼です』とパイヴィが言って差し出した依頼書と<隷属の首輪>をはめられた少女を指差すと、野盗を引きずり出したあとにあっさりと通過の許可が下りた。誘拐犯からニィズを保護した時に奪ったアルガーポ・ガラシスの依頼書ってだけで、厳しい検問であるはずの王都の門を簡単にくぐることができた……。
『うへぇ、さすが王国公認の大悪党アルガーポ・ガラシスね。なんの質問も検査もなく紙きれ一枚で通してくれたよ』
何やってんだ王国……。ルナの言葉にこめかみを押さえる。
門をくぐると王宮まで真っすぐ続く大通りに出る。都市の中心を真っ二つに割る並木通りで、植えられた木を中心に石造りの円形ベンチが設置されている。色々な店が立ち並ぶだけに人の往来も多く賑やかだ。
そのまま馬車は真っ直ぐ王宮の方へ進み、幅のある川に架かる石造りの橋の前まで来た。
「この橋を渡った向こう側が、貴族たちの居住エリアよ」
今僕らがいる橋のこちら側が庶民エリアで、向こう側のなだらかな小高い丘に余裕を持って点々と綺麗で立派な屋敷が建てられているのが貴族エリアか。なるほど、あの屋敷のどれかにアーポ・ガラシスがいるんだね。
馬車は橋を尻目にエリアを分ける川の堤防に沿って右へと曲がる。しばらく行くと馬車は看板が掛かかる大きな建物の前で止まった。
看板には【ナーラン商会】の文字。確かパイヴィのフルネームって、パイヴィ=ナーランだったよね。
「お帰りなさい、
「おう! みんなただいま」
建物の前で作業していた五、六人の男たちが、馬車の到着とともに駆け寄り頭を下げる。
「さあ、みんな馬車から降りてくれ!」
馬車の中でポカンとしていた僕らはパイヴィの声に促され、馬車を降りた。
「馬車を片付けておいてくれ!」
「へい!」
姉さんと呼ばれたパイヴィに促され扉をくぐり建物の中へ入ると、そこは巨大な倉庫だった。倉庫特有の木々の香りが漂う空気感が懐かしい気持ちにさせる。
慣れた感じで歩いて行くパイヴィの後ろをついていく僕たち。倉庫内には日用品や園芸品、家具に旅道具が店内いっぱいに整理整頓されて並んでいる。
「ここで少し待っていてくれ」
そう言うと、パイヴィは階段を登った部屋へと姿を消した。しばらくして、パイヴィがトレーに何かいろいろなものを乗せてやってきた。
「これは、道中の護衛に対する報酬だ」
ジャラッとおそらくお金が入った袋を王都から同行していた護衛の三人に手渡ししていく。
「行きに犠牲は出てしまったが、帰りは本当に助かった。また機会があればよろしく頼むよ」
護衛の三人はパイヴィの労いの言葉とともに報酬を受け取ると、軽くこちらにも会釈して去っていった。
「アリーサとハルトにはこれを。出発前に約束した追加報酬だ」
明らかに先程の護衛たちとは違う袋の大きさなのだが、受け取った瞬間にずっしりとした重さを感じた。
「中に銀貨が100枚入っている」
「「えっ!?」」
「いやいやっ、これはどう考えたってもらい過ぎですよ!」
「そうです! いい経験といい旅をさせてもらっただけで、むしろ私たちが感謝を示したいくらいなんですよ」
依頼内容と報酬が一致してないことに2人で慌てて受け取りを拒否する。
いくらなんでもこれは貰い過ぎだ。
王都まで行くついでに受けた護衛任務、’王都まで護衛します。報酬は最低限で構いません’ とランクが低いのを理由に駄目元で募集したところに運良くパイヴィに拾ってもらったのだ。野盗に襲われ金品強奪されたパイヴィの懐事情もあっただろうけど、相場から考えて、これは報酬として受け取れるような額ではない。
「そんなことを言わず受け取って欲しい。君たちが、これからやろうとしている無茶にきっとその金は必要になる。その軍資金だと思ってくれ」
なるほど。アルガーポ・ガラシスの件への支援金か。
「あたしだって商人さ、君たちならやってくれると信じているからこその投資なんだ。それに、お金ないんだろ? 危険な護衛任務を最低限の報酬額でもいいからと言うんだから。それに、ニィズにいつまでそんなボロを着させてるつもりだい? 王都に入るため仕方なく奴隷扱いしてたけど、故郷がわかるまではアリーサ様のプラエトリアニなんだろ? ふさわしい格好をさせなきゃ」
勘違いされてる……。
正直、お金は有り余るほどにある。フィッツローズ家再興とクラン運営、これから増えるだろうプラエトリアニのために使っても余るほどに。
パイヴィの言う通り、これは僕らへの投資で、それが商人のやり方なんだろう。
しかし、王都で【ナーラン商会】の看板を掲げ、多くの使用人に姉さんと慕われ、これだけのお金をポンっと出せるパイヴィって実はかなりの有力者だったりして……。
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