第16話 野盗
<オゼンセ>を出発して6日目。
何事も起こらなければ、本日ついに王都ハンスブルックに到着することを出発前にパイヴィに告げられていた。
「この調子なら日暮れまでにはハンスブルックに着きそうね。さっきの盗賊との一戦でお腹すいたでしょ、この辺で昼食をとろうか」
昨日一晩過ごした町<ノートローフ>から王都に至る街道の森を抜けたところでパイヴィのその声で馬車は止められた。
街道沿いの木陰に馬車を止め、昼食の準備に取り掛かる。森で薪を集め、石で小さなかまどを作り、食事の用意を始める。
アリーサが腕を振るい、旅の初日に夕食で食べたクァリーを作ってくれるということだ。
今抜けてきた森の中で僕たちは野盗に襲われた。まあ、何事も起こったのであるが、僕のスキルで野盗を捕捉したことを事前にみんなに報せておいたので、準備万端で応戦できた。
これはこの旅の途中で僕が考案した作戦の1つで、まず、狙われていることに気づかないふりをして馬車を進め、野盗全員が姿を現し馬車を囲み、「おい! 命が惜しかったら積み荷と有り金全部置いて行きな」とお決まりの台詞を言わせた後に、僕の《パラライズ》で全員を麻痺させ、麻痺に耐えた者に狙いを定めてタコ殴りにするというもの。「うぐっ」だの「ぐうっ」だの「おうふ」だの様々な声を漏らし、バタバタと倒れていく盗賊たちの中で耐えてみせたのは、さすがの盗賊の頭領だった。
しかし、アリーサのヘイトスキルにあっさり釣られたところをパイヴィ&護衛の皆さんにボコボコにされて毎回のごとく戦闘はあっさり終了した。
魔物とは違い、人間、特に野盗相手だとなまじ知能がある分、統率をとってくるので多数いても一網打尽にしやすいから助かる。
ただ、依頼主なのになぜか戦闘に混じって雄叫びをあげるパイヴィさん。野盗には容赦のないその拳に恨みが上乗せされていることに僕は気づいてますよ。
昼食中の僕たちの傍らにある馬車の荷台には今、目隠しと口枷をされ、両手両足を縛られて何もできないでいる野盗たちが転がっている。最初のうちはウーウー唸っていた。おそらくこちらに罵詈雑言を浴びせていたんだろうが、口枷をされているので何を言っているのかわからない。そのうち諦めたのか疲れてきたのか、だんだんとおとなしくなっていき今は荷台にふさわしいお荷物と化している。
パイヴィさんの話では、捉えた野盗の頭目がお尋ね者のなかなかの大物だったらしく、突き出せばかなりの賞金が手に入るということ。今回の行商に失敗した分を少しでも取り戻してやるとパイヴィの鼻息は荒い。さすがは商人、野盗たちを縛り上げる荷造りのようなその手際は荒々しかったが見事だったことをここに付け加えておく。
野盗に奪われた積荷や金品を、お尋ね者の賞金で補填する、行商人も大変なんだなとつくづく思った。
そんなことより、なんだこのクァリー! さすが『神の舌』を持つ『一ツ星料理人』のアリーサである。店で食べたクァリーより遥かにおいしい仕上がりになっている! マイルドさと辛さを加えられてさらにおいしくアレンジされたアリーサの手作りクァリーをひと仕事終えたあとに大自然の中で食べるのはなんて格別なんだ!
ガッつく僕らはらペコどもと、口いっぱいにほおばり足をばたつかせるニィズ。大きな鍋と小さな鍋いっぱいに作られたクァリーは全員の胃袋へと吸い込まれるようにあっという間に消えてなくなった。
あたり一面漂ういい匂いに、馬車に積まれた荷物たちの腹の虫が輪唱するように鳴っているが気にはとめない。
アリーサ、ごちそうさまでした!
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