第11話 スキルリンク

 アリーサの持つ剣はフィッツローズ家に伝わる<宝剣フラムマ>。

 火属性の剣で等級はS。魔獣特効も付与されており、イベリアボアに対してはうってつけの武器なのであるが、肝心のアリーサ本人に【攻撃スキル《剣術》】がない。

 彼女の職業は、守護騎士ガーディアン。ユニークスキル《金城鉄壁》を持ち、「守る」ことに特化したステータスだ。そして、問題なのが攻撃法。彼女が持つのは万人に共通してある【攻撃スキル《格闘<E>》】のみ。瞬発力と俊敏さに重きを置く《格闘》と重装備の彼女との相性は最悪だった。


 イベリアボアの全身は、泥土が乾燥しカチカチに固まった層で覆われていて、まるで鎧を着用しているかのように防御力が高い。

 アリーサの剣は、その天然の鎧に弾かれキーンと高音域の音を立てて跳ね返される――。


(頼むよ、ルナ!)

『やっと、このあたしの出番ね!』


 僕の呼びかけに遅いわよ! と言わんばかりにすごい圧で答える。

 

『じゃあ、アリーサとリンクするよ!』

 

 僕が歴代継承されてきたスキルを使えるのは絆を紡ぐ力を持つルナという存在があるからだ。僕を含めて全12人の能力とスキルがルナの中に蓄積されている。わかりやすく言うと、僕は歴代継承者の職業なら何にでもなれるし、攻撃スキルも剣、槍、杖、斧、槌、弓、銃……どんな武器もSランクの能力で使う事ができる。そして、僕のなかにあるスキルはルナが認めてくれれば、僕の意思で他者と共有させる事が可能なのだ。ただし、ランクまでは共有できない。

 

『リンク完了! これでアリーサはハルトの思い通りにできるわ! さあ、ハルト色に染めてあげなさい!』

(言い方!)


「アリーサ! 今から君にスキルを付与する。少し違和感を感じるかもしれないけど、身体の異常ではないから慌てないで!」

「え?」

「スキルリンク術式マテリアライズ! スキルカード【攻撃スキル《片手剣》】」


 僕は、【攻撃スキル《片手剣》】のスキルをカードで具現化すると、アリーサに向かって投げる。

 カードはアリーサの身体に吸い込まれた。これで僕の【攻撃スキル《片手剣》】がアリーサにもあるはず。


「なに!? 急に身体が熱く……」

「アリーサ、自分のステータスを確認してみて」


 うなずくアリーサがしばらくして、こちらを振り返り驚愕の顔を見せる。


「これで、アリーサはその剣を扱えるはずだよ。さあ、イベリアボアとの戦いに決着をつけよう!」

 

 力強くうなずくアリーサが、イベリアボアの方に向き直り、右手に持つ剣を引き、大地と平行に左半身で構える。

 

「我が剣に炎を! 貫け、《フラムマスパーダ》!」


 アリーサが突き出した剣が炎をまとい、動きの鈍ったイベリアボアの脳天から突き刺さる。【攻撃スキル《片手剣》】に呼応して現れた、<宝剣フラムマ>に付与されている特殊技スキル《フラムマスパーダ》。

 炎はイベリアボアの体内を焼き尽くし、一瞬にしてその体を火達磨にした。

 イベリアボアは、その巨体を地に叩きつけるように横たわり絶命した。油分の多い体だったのか、死体はしばらく燃え続けたあと、ブォーン! と破裂するように黒い霧を撒き散らし消滅する。消滅したあとには、艶のある黒い拳大の石がボトッと音を立てて転がった。

 攻撃を盾で弾き返してからの一撃。これが【攻撃スキル《片手剣》】という攻撃手段を手にしたガーディアン・アリーサの戦い方だ。


 アリーサの戦いに感心している僕の隙を狙い、対峙していたイベリアボアが再び牙を剥いてものすごい勢いで突進してくる。


「《バリキュラム・ルージェ》!」


 アリーサが発動したヘイトを自らに向けるスキルに僕へと向っていたイベリアボアが急な方向転換を強いられ、滑る床を走る犬のように空回りする足で泥土を跳ね上げながら標的をアリーサに変える。アリーサに狙いを定めたイベリアボアの足が土を捉え、鼻息を荒らげ猛然と駆け出し、構えた盾にその巨体をぶちかます。


「ゴキーン!」


 再び盾と牙との衝突音があたりに響いた。アリーサは多少のノックバックを受けるが、やはりあの突進を小柄な少女が受け止めるのには見惚れてしまう。


「……。ハルト、《フラムマスパーダ》には60秒のリキャストタイムがあります。攻撃をお願いします!」

「わかった! 《スパティウムリーマ》!」

 

 脳震盪を起こしふらつくイベリアボアに向け、攻撃スキル《スパティウムリーマ》を放つ。

 見えない球体に閉じ込められ身動きできないイベリアボア。


「さあ、アリーサ。止めを!」


 頷いたアリーサの振り下ろされた剣が《スパティウムリーマ》の球体を右上から一閃する。イベリアボアの体に剣筋の光が通ると、球体はイベリアボアの体ごと真っ二つとなり、ドサッという音とともに地に落ち黒い霧となって消えた。

 

「お見事です。アリーサ」


 アリーサはかまえていた剣盾を背中へと戻すと、自身が最初に倒したイベリアボアから落ちたアイテムへと歩みを進め<イベリアボアの魔石>を拾う。


「これ、私が倒したのですね……」

「剣を振るうアリーサはとても素敵でした」


 僕はもう一匹の方の<イベリアボアの魔石>と<イベリアボアの肉>を拾いながら、アリーサに声を掛ける。魔石をまじまじと見ながら感慨にふけるアリーサの頬が赤く染まる。

 

 この【魔石】をギルドへ提出すると討伐した証拠になる。イベリアボアをあと3体倒し、魔石を3つギルドに届ければ依頼完了だ。


 2人での戦闘は初めてにしては、上出来だったと思う。アリーサにはタンク役として、防御、ヘイト操作、そして、後衛役の僕の身の安全を確保しながら立ち回ってもらうのが森の入口で立てた作戦だった。【攻撃スキル《片手剣》】付与は、サプライズでプレゼントしようと思っていたので、立てていた作戦ではアリーサが盾で受け止め、僕が攻撃することになっていた。


 アリーサは、特殊技スキル《フラムマスパーダ》に60秒のリキャストタイムがあったことに少し焦ってしまって、もう普通に剣で攻撃できる自分になっていることを失念したみたいだが、ぶっつけながら連携は取れたし良しとするかな。

 二体以上の敵と戦うときには、まず一体目をアリーサの《フラムマスパーダ》で仕留め、二匹目は僕のスキルで倒すのが約束事になるだろう。しかし、アリーサの成長のためにもできるだけ多くの敵と戦って経験を積ませてあげたい。【攻撃スキル《片手剣》】のランクをあげるのも大事だが、彼女の職業は、守護騎士ガーディアン。タンクとしてヘイト管理に特化したほうがこの先いいだろう。


 近接攻撃と挑発によるヘイトのコントロールを高めるため今度は一匹増やし、3体のイベリアボアを誘導し、アリーサにぶつける。

 アリーサは多少梃子摺ったが、攻撃とヘイト管理をうまく使い、各スキルのリキャストタイムを計算に入れ3匹のイベリアボアを見事に処理してみせた。3個の魔石を拾い、これでイベリアボア5体の討伐依頼は達成である。

 残念なのは、《フラムマスパーダ》で焼き倒したイベリアボアからは、<イベリアボアの肉>がドロップしないことが明らかになったことだ――。


 森を抜けると張り詰めていたものが一気に抜けていく感じがした。マイナスイオンで溢れる森から出たほうがリラックスできるなんて不思議な感じだ。

 帰り道をゆっくり歩いていると運良くオゼンセの町へ向かう商人の馬車が通ったので、町まで積み荷とともに運んでもらうことにした。かなりのタスクをこなし、アリーサは心身ともにヘトヘトだったのでありがたかった。


 5体討伐後もイベリアボアだけではなく、ホブゴブリンをリーダーとする13体のゴブリンの群れや、しなる複数の枝で多方面から攻撃を仕掛けてくる格上のエルダートレント1体と戦ってもらった。苦戦することも、僕のサポートを受けることもあったが、アリーサは戦うたびに自身の成長を感じていたようでとても満足そうだった。

 帰りの馬車の中、町までの時間を使って今後の活動のことをアリーサと相談しようと思ったが、疲れて眠るアリーサの寝顔を見ていると無理に起こすなんてできるはずもなく、夕食時にでもいっか、と揺れる馬車の中で僕も目を閉じた――。

 


◆ヘルプ

【フラムマスパーダ】

 フィッツローズ家の家宝「宝剣フラムマ」の固有スキル。刃は炎を纏ったように見えるが電気も帯びている。刺突攻撃技で1000度以上の超高温にまで高まった刃先はどんなものでも貫く。

 

【バリキュラム・ルージェ】

 ヘイト操作技・防御技:挑発的な雄たけびの意。敵に自分が脅威であることを認知させ、効果範囲内の敵のナワバリ意識を増大させる守護騎士ガーディアンの強力な挑発技。ナワバリ意識の高い獣の類に特に有効で、短時間ではあるが自身の防御力を上昇させる。

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