第9話 クラン結成
「えええええっ!? アリーサ様がクラン申請ですか!?」
驚きを隠せなかった、というほどの迫真の驚きっぷりで、ギルド受付のお姉さんの大きな声がギルド内に響いた。
「ハッ! す、すみません。あまりにも予想外の、いえ、待ち望んだ出来事に取り乱してしまいました。本当におめでとうございます! やっと……、やっとフィッツローズ家にクランができるんですね!」
今度は感極まって涙ながらに言う。
「クラン登録は初めてですよね。あっ、当たり前ですね! あ、えっと、失礼しました!」
「落ち着いて」
「はい。で、では簡単にギルドについてと、冒険者とクランの違いに付いて説明させていただきます」
「お願いします」
基本的に依頼者の仕事を紹介してその仲介料を取るのがギルドの役割だ。そして、その仕事を請ける冒険者はギルドへの登録が必要になる。
冒険者がパーティーを組んでもただの集団だが、領主がプラエトリアニを含めてパーティーを組む場合、<クラン>と呼ばれる組織となる。
冒険者の仕事はその難易度によってランク分けされていて、下級ランクの者が上級ランクの仕事を受けることはできない。命を落とす危険を極力回避するためだ。逆に、上級ランクの者は下級ランクの仕事を受けることはできない。これは、下級ランクの者の仕事を一定数保つためだ。しかし、同行者の半数が上位ランクに達していれば、下位ランクの者がいても、上位ランクの仕事を受けることができる。下級ランクの者が上級ランクの仕事に分類されたクエストを達成したときには当然報酬が支払われるが、その逆はない。
上位ランクの依頼ほど達成すれば報酬も増えるが、依頼に失敗した場合、違約金が発生する。上位ランクの依頼ほど違約金も大きくなるので注意するようにと。さらに依頼の失敗が多かったり、規約違反で依頼を達成したり、仕事が雑でクレームが入ったりなど悪質だと判断された場合、一定期間の活動停止処分が課される。最悪の場合、ギルド登録名簿からブラックリスト名簿へと登録変更というペナルティを課せられ、もうどの領地のどこのギルドでも再登録はできなくなり、クエストを達成しても報酬は受け取れなくなる。
ランクにもクエストの規模にもよるが1年から5年の間に依頼をひとつも受けないと登録失効になることや、期限が被る達成不可能な依頼を同時に受けないこと、ギルドに不利益をもたらすようなことをしないことなど、細かく説明を受けた。
対してクランの場合、ランクに関係なくどんな依頼でも受けることができる。領民の依頼を主にこなしていかなければならないためだが、とりあえずは初級クエストからこなしていくことをおすすめされた。
領地を持たない当主は未攻略のダンジョンを攻略することで、その地域一帯の統治とダンジョンの恩恵を受ける領主となることができる。領主は隣接する地域のダンジョン攻略でさらに領地を広げていくこととなるのだが、いつまでもダンジョン攻略ができなければ、地位は下がり続け、家名持ちの平民貴族という地位などではない蔑称で呼ばれる。
「以上で説明は終わりです。ハルトさんは冒険者登録をお済ませですよね」
「はい」
「では、こちらのプラエトリアニカードに登録者であるハルトさんとアリーサ様との血液を一滴ずつ落としてください。冒険者登録と今まで使っていたカードは破棄され、これからはプラエトリアニとしてこちらのカードがハルトさんの身分証明書となります。」
冒険者のときとは違う登録法だ。プラエトリアニになるということは血の契を結ぶということなのだろうか?
僕とアリーサは差し出されたピンで指を刺し、カードに血を一滴垂らす。カードにフィッツローズ家の紋章と文字が刻まれていく……が、暗号化されているようでなにが書かれているのかさっぱりわからない……。
「では、カードが生成されましたので、カードにハルト様の指紋をつけてください。生成されるプラエトリアニカードは、同じ者はいないと言われる指紋と魔力の2段階の認証で保有者を分別します。偽造防止や不正利用を防ぐためですね。ご本人以外がカードに触れても情報は暗号化されていて、さらにロックがかかっているので個人情報を見られることはありません。最後に、紛失された場合はギルドへ申し出て下さい。ギルドで最後に更新されたデータを引き継いでの再発行が可能です。ただし、再発行には手数料がかかりますことはご留意ください」
「はい」
「それではカードをお受け取りください。以上で説明を終わらせていただきますが、わからないことや相談事があれば担当者のこの私レベッカにお尋ねください。クラン担当は初めてで夢のようですが精一杯サポートします!」
「ありがとう。よろしく、レベッカ」
「はい! こちらこそです!!」
えっと……。
おお! カードを受け取った瞬間、カードに魔力が流れ込むのを感じた。暗号化された文字が読める!
名前はハルト<ハルト・プラエトリアニ・フィッツローズ>、15歳男、職業は、
スキルカードで使用するスキルはカードには表示されないのか。それは助かる。万が一鑑定なんかされて、手持ちカード分の全スキルを見られたら、厄介事に巻き込まれること請け合いだからね。
「アリーサさん、これからお家再興のため頑張っていきましょうね! いや、アリーサ様と呼んだほうがいいのかな?」
「アリーサでいい。家族みたいなクランにするのが夢、だから堅苦しいのはなし」
「わかったよ、アリーサ。これからよろしく!」
「うん。力を貸してくれてありがとう、ハルトくん!」
「それじゃあ、まだ日も高いからクエストにでも行ってみましょう!」
僕とアリーサはレベッカの案内でクエスト(任務や依頼)が貼り出されているボードの前に案内される。
「それでは次にクエストについて説明しますね」
「お願いします」
僕らのギルドカードは白地に金縁のクランカード。クランランクが上がればカードの白地部の色が変わっていくらしいが、クランは、領民の苦情の処理が優先なので色はそれほど気にすることはないらしい。逆に言えば、どんな高難易度クエストでも受けることができるということだ。
説明を終えた受付のお姉さん、守備職のガーディアンと得体の知れない
まずは、魔物討伐のクエストをやりたいというアリーサにクエストを選んでもらうことにした。薬草採取以外のクエストを受けられるのだ。アリーサは、右の方から順に白い依頼書だけを一枚一枚よく吟味しながら読んでいる。僕が付いていれば、初心者討伐クエストでアリーサを危険に晒すことはないだろうが、親衛隊員となったからには、どんな攻撃からもアリーサを守る盾になってやると意気込んでいる。なんてかっこつけたが、ガーディアンの盾になってどうすんだ! と自分にツッコミをいれてみた。
「ハルトくん、これはどう? 報酬もそこそこだし、手始めにしてはいいと思う」
「えっと、オゼンセの町の東、ニーボルグの森で魔物の駆除。畑を荒らすイベリアボアを7日間で5匹以上討伐か」
「どう?」
イベリアボアか、師匠との修行を思い出すなあ。あの突進力に何度弾き飛ばされたか……。でもまあ、そんなに強くないし、駆け出し冒険者の獲物としては歯ごたえもあってもってこいかな。それに領民が丹精こめて作っている作物を餌にするなんて絶対許せない! てのもあるけど、イベリアボアの肉は脂がジューシーで旨味も最高なんだよね。師匠との旅では見つけたら追い回して狩ってたからなあ。
「うん、それにしよう」
「じゃあ、受付に申請してくる」
アリーサが依頼の貼り紙を依頼ボードからはがし、依頼受付に申請をしに行った。
受付のレベッカの安堵の表情が見られる。
今日の夕食は、塩振っただけではないイベリアボアの肉を使ったアリーサの手料理に決まりということだ。俄然やる気が湧いてきた!
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