第7話 召喚獣カード
いまだに腹を抱えて笑う一団の中心に、食獣植物を倒したときに手に入れた【召喚獣カード《セファロタス・フォリキュラリス》】のカードをスッと投げ入れる。カードを中心に魔法陣が描かれ、鮮やかな緑の光を伴いながら魔法陣がグングン大きくなる。やがて、魔法陣から浮かび上がるように巨大な植物が、ギルドに並んだテーブルやイスをなぎ倒しながら現れる。
ギルド内に突如現れた巨大植物の魔物。逃げ場のない閉鎖されたギルド内にいる連中には、もう笑ってる余裕なんてない。何が起こっっているのかを受け入れるまでに時間がかかるだろう。
巨大植物は、太い茎を中心に円を描くように6個の壷型の捕虫袋を並べ持ち、それぞれが意志を持っているように単独で行動する。捕虫袋の根元にある伸縮自在のバネのようになったツルを伸ばし、そこそこ大きい魔物でも丸呑みする事ができる捕虫袋のフタを口のように開閉し人々を一人また一人、時折誤ってテーブルやイスまでも丸呑みしていく。その射程は完全にギルド内全体に及んでいる。魔力を持つ生物を好んで捕食するが、アルコールを帯びた魔力に特に目がないらしく、酔っ払いが真っ先に狙われていく。
あれ? これダメなやつだ……。
一応ギルド内の人間が外へ逃げられないように結界を張っている。扉やガラス窓を蹴破り外へ出ようとするが見えない壁に阻まれ戸惑う者、腰を抜かして動けない者、剣を抜いて捕食されないように牽制する者、発狂し泣き出す者、ギルド内は予想外の大パニックです。
「えっと、すみません。これ僕の召喚獣です……」
混乱が続くギルド内の中でも僕がいる受付前は平穏。召喚獣をなんとか止めようと立ち向かおうとするアリーサの背後から声をかけて、苦笑いを浮かべながら謝ってみる。
「こいつ捕食した者の魔力を吸収するだけで、食べられた人たちの生命に別状はありませんから心配しないでください」
少しやりすぎた感は否めないが、美少女を泣かせた罰である。許されるよね。
クスッ。アリーサは両手で顔を覆いこみあがる笑いを懸命に堪えている。彼女の家の事情や置かれた立場はわからないけれど、これが彼女なりの精一杯の生き方だったのだろう。肩を震わせこみ上げる笑いを必死にこらえようとする彼女の気が少しでも晴れたのならギルドなどどうなってもかまわない。阿鼻叫喚のギルド内だけど、後悔はない!
召還した『セファロタス・フォリキュラリス』を引っ込める手段も分からないので、暴れたいだけ暴れさせてみる。お腹いっぱいになったら消えることを信じて……。
「あの、これは一体?」
戻ってきた受付のお姉さんがボソッとつぶやく。
僕は、これが自分のやったことで、アリーサさんが酔っ払いたちに絡まれていたので、その酔っぱらいたちにお仕置きをしてやろとしたら、こんな大惨事になったことを正直に説明する。
説明中にアリーサさんがひどい目に合ってるのを見て見ぬふりしてたギルドにも責任があることをチクリと言ってやった。
そうこうしているうちに『セファロタス・フォリキュラリス』もお腹いっぱいになったようで、げふっとフタの隙間からガスを噴出し満足気な様子で魔法陣の中へとゆっくりと消えていった。
「おい坊主、これ本当に大丈夫なのか?」
受付のお姉さんが連れてきた筋骨隆々の男が僕に確認する。
異常な光景がギルド内に広がっています。孵化したての両生類のようなヌルヌルテカテカになった男女が死屍累々です。訂正、死んではいません。目が死んでいるだけです。
「ええ、大丈夫ですよ? それで《コングベアの毛皮》は買い取ってもらえますか?」
「おお、そうだ! 《コングベアの毛皮》を買い取りに出したのは、おまえか坊主!」
「はい。僕ですけど何かマズかったですか?」
「そうか! おっと紹介が遅れたな。俺は、このギルドのマスターだ」
言って、眼前に広がる光景に言葉を失っている受付のお姉さんを心配しながら、もう
「こいつは……、マジもんの《コングベアの毛皮》じゃねえか。
しかも斬撃のあとも槍で突き刺した穴もねえ。状態は最高の一級品……。
マジで坊主が倒したのか? 見たところソロのようだが? どうやって?」
「蹴りですけど」
「はぁ!? どうやったらこんな大物を蹴りで倒せるんだよ!?」
「首に一撃? 骨をバキッと……?」
「マジか?」
「マジです」
「ま、まあいい。いや坊主、こいつは高く買い取らせてもらうぜ。こんな状態のいいモノ、中央に持っていけばきっと王族や貴族どもの奪い合いになるからな」
「そうなんですか? あと2つありますけど?」
「はぁ?! マジで?」
「マジです」
「とりあえず裏で話そうか」
◆ヘルプ
【召喚獣カード《 セファロタス・フォリキュラリス》】
世界最大級の食獣植物。近くを通る獣を捕食し魔力を吸収して栄養分にしている。吸収した魔力は、ハルトにも分配される。魔力を吸収し尽くした獲物は吐き出す。吐き出された生物はヌルヌルのドロドロの謎の液体まみれになっているが命に別状はない。ただ一時的ショックでしばらく動けなくなる。時間が経つと普段通り活動できるようになるが、数日の間テンションは低い。
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