第5話 転生者モトオ

 【スキルカード《収納袋 Lv.1》】からコートを取り出し着る。

 この地域の気候は特に寒いと言うわけではないが、夕暮れ時となると少し冷え込む。

 日中はポカポカと暖かいのだが、どんなに暑くてもこのマフラーだけは外せない。マフラーを巻く理由、それは僕の首にはまっている首輪にある。この首輪、この世界では<隷属の首輪>と呼ばれ奴隷に付けられるモノだそうで、いくらはずそうとしても取れない。

 主人の命令には絶対服従の代物だが、僕に命令する者などおらず、主人が誰だかもわからない。そういうことでいらぬトラブルを避けるためにマフラーで首輪を隠している。


 森の廃城で餓死寸前だった僕を拾って育ててくれたのが師匠だった。その時にはすでにこの首輪は付けられていた。どうして廃城に一人でいたのか、どうして僕の首に<隷属の首輪>がはめられていたのか、師匠と出会う前の記憶が全くないのでわからない……。

 これからの旅の目的は、自分の過去を知ること。自分自身が何者なのか、なぜ、<隷属の首輪>をはめられ廃城に一人でいたのかを知ることだ。

 あと、どうしても抑えきれない衝動がある。なぜか強いやつと戦いたい欲求が湧いてきて居ても立っても居られなくなっている。これは継承前の自分にはなかった気持ち……。突然こんな力を手に入れてしまって浮かれてるのか?


『それは、初代モトオのせいね。あのバカ、この世界に転生したときの望みが『チートはいらねえ! 強いやつと戦わせろ!』だったらしいから。

 女神様がモトオに与えたユニークスキルは、過酷な修行ほど能力が向上する《実る努力》。そして、戦う相手に困らないように、桁外れのバケモノがいる、このとんでもない世界にモトオを放り込んだらしいわ。きっと、その影響がでちゃってるのね』

「……。なんて迷惑な……」

『親指立てて、ニッコリ笑顔のモトオの顔が容易に想像できちゃうわ……』



 ◇



 石壁に囲まれた町の門の前に立っている。心臓の鼓動が速くなる。

 これは、ワクワクとかそんなんじゃない。

 緊張してる?

 いつも師匠の袖を掴んで後ろに隠れてたっけ。師匠以外の人と僕は会話できるのか!?

 まずい……、さらに鼓動が速くなってる。

 師匠に頼りきりだったことをいまさら後悔している。


 町の名はオゼンセ。

 門の前には、夕暮れ前の駆け込みだろう、人や荷馬車で行列ができている。行列の先頭では衛兵が積荷や荷物のチェック、いくつかの質問をして身辺調査的なことが行われている。

 しばらく行列に並んでいると僕の番が来た。


「こ、こんにちは……。よ、よろしく、おねがいします」


 衛兵の目が僕の容貌を確認するようにジロジロと見ている。

 まずい、おどおどしすぎた!


「見ない顔だな、身分を証明するものを見せろ」


 僕はコートの裏ポケットからギルドカードを取り出し提示する。


「この町には何用で?」

「はい。か、観光? です」

「……」

「あ、違います! ギルドでドロップアイテムを買い取ってもらおうと!」

「うむ、犯罪歴はないようだな。そう緊張するな坊主。犯罪者でなければ大歓迎だ」

「はい。ありがとうございます!」

「……。どうした? はいっていいぞ!」

「はい。ありがとうございます!」


 衛兵に深々と頭を下げて前進する。右足と右手が前に、ガチガチである……。


『あんた、大丈夫? 検査だけであんなオドオドしてて、食事の注文したり、宿取ったり、あとギルドで買い取りの話とかしなきゃならないのよ?』

「たぶん、無理。野宿しようかな……」

『もう! これから一人で生きて行くって決めたんでしょ、しっかりしなさい! まともに人と会話すらできない旅人とかいないわよ。洗濯も料理もできないのに、また廃城で膝を抱えて一人で生きることになるんじゃない? それとも、また誰かに拾われるの待つのかな? プークス』

「ぐぬっ……。廃城も孤独ももう嫌だ! やってやる! 人と話してやる! まずは宿を取ってやる!」

『お、おう……。頑張れ』

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