第3話 ルナ

 倒した魔人の残骸はない。

 ただその場にはドロップアイテムと、なにやらカードがふわふわと浮いている。


「これは?」


 カードに書かれている文字を確認する。


「《魔眼》?」


 僕がそのカードをつまむと、カードはキラッと輝いて僕の中に取り込まれた。


『Exスキル《魔眼》を獲得したよ!』


 え?!

 先ほど耳元で囁かれた声が再び耳元で聞こえて、僕は大きく前へ跳んで距離を取る。

 子供の声? あたりを見回すが誰もいない――。

 

『Exスキル《神眼》、Exスキル《魔眼》、Exスキル《心眼》を合成して、ユニークスキルに昇華させるね!』


 また耳元で!? いや、僕の中に何かいる? 脳に直接語りかけてきているのか?

 

『ユニークスキル《星詠み》を獲得だよ! やったね!』


 誰だ? 僕に話しかけてくるのは……。

 再度、あたりを見回すがやはり誰もいない。


『こんにちは、ハルト。

 あはは。脅かしてごめんね。これはなんというか、新継承者への洗礼? いえ恒例行事みたいなものなの。紹介が遅れてしまったわね、あたしの名前はルナ。あなたが継承した師匠の師匠の師匠の師匠の師匠の師匠の師匠の……。つまり一番最初の人物モトオによって創造された可愛い案内人(ナビゲーター)だよ』

「ルナ。聞き覚えがある」

 

 師匠が時々寝言で言ってた人の名前だ。てっきり身内か恋人かと思っていたけど、まさか……。

 

『あたしの声は継承者にしか聞こえないわ。だから、声を出してあたしに話しかけるのはやめたほうがいいわね。傍からみると独りでブツブツ言ってるちょっとイカレタ奴に見えちゃうからね。あたしを頭で意識して心で話しかけるといいわ』

 

 そういえば、一度師匠に『ルナさんって誰ですか?』って聞いたとき、師匠はスープを吹き出して慌てながら、たしか、クソ生意気な幼馴染……って言ってた。まさか、そのルナさん?


『ふん! あたしから言わせれば、あいつこそ生意気よ! あたしのほうがあいつよりずっとずっと先輩なのに、呼び出すときには『おい』とか『ちょっといいか』とか名前で読んでくれなかったわ。まあ、初めての会話で『ルナ先輩と呼びなさい!』って調子に乗ってビシッと言ったのがマズかったのね。まあ、反省はミジンコもしてないけど! でもでも、夢の中ではちゃんと名前を呼んでくれてたし、嬉かったわねえ』


 嬉しかった……か。


『ごめんなさい! ちょっと不謹慎だったわ。

 でも慰めになるかわからないけど、あなたの師匠の想いはちゃんとあたしの中にあるから!』


 ……ありがとうございます。ルナ先輩。


『おっとお! ルナ先輩はやめてね! 親しみを込めてくれるなら、ルナって呼び捨てでいいわ。それに丁寧な言葉はあまり好きじゃないの』


 そっか。じゃあ、ありがとう、ルナ。

 

『エヘヘ。

 さて早速、新たなスキル《星詠み》を確認しましょうか!』


 

《星詠み》:ユニークスキル。《神眼》《魔眼》《心眼》を合成し昇華させた『目』に関するスキル。未来予測が可能となる。

〈神眼〉「診る」「看る」:病気や状態異常の診断と治療法がわかる。

〈魔眼〉「見る」「観る」:鑑定。呪いの診断。呪詛と解呪。暗視。

〈心眼〉「視る」:気配や建物の間取り、アイテムや宝の位置などを感じることができる。



『《星詠み》の獲得で、これまでの能力に加えて未来予測ができるようになったわね。未来予測と言っても少し先の未来、敵の攻撃を見極めたり、かわしたりする程度の未来予測ね。でも、レベルが上がればもっと先の未来も見えるようになるかもしれないわ』


 目に意識を集中して見る。周辺の敵や薬草、地形までが浮かんでくる。


『《星詠み》はその名の通り、視点を上空に飛ばすこともできるわ』

 

 僕は《星詠み》の視点を上空へと飛ばしてみる。

 本当だ! すごい! このあたりの地形が鮮明に見えるよ!

 でも、視界が揺れて酔いそうだ……、それに情報量が多すぎて頭が……。

 

『あはは。継承したスキルと目に慣れるまで魔物狩りでもしてみたら? 継承前のハルトなら生命のきけんさえあったこの森でも、もう脅威になる魔物なんていないし大丈夫。魔人の攻撃に耐えられなかったあなたの師匠の《スパティウムリーマ》が、ハルトへ継承されたとたんに鉄壁の壁になったのが証拠ね。

 ハルトがこの先何を目標に生きるかわからないけれど、先立つものがないと何も出来ないじゃない? 継承したアイテムボックスの中身はある意味宝物庫で、売れば一生遊んで暮らしても使い尽くせないくらいのお宝がゴロゴロ保管してあるわ。だけど、まずは自分の力で生きていけるようにならないとね。これは、あなたの師匠があたしに託した最後の願いでもあるの。

 それともハルトは、歴代の師匠たちが残した遺産を食い潰すつもりでいるのかな?』


 確かに。今まで生活面は師匠に頼りっぱなしだったからね。これからは自分で何でもできるようにならなくっちゃ。


「よし!」

『気合入ったみたいね!

 魔物を倒してドロップアイテムを回収しておくもよし、薬草や鉱石なんかを採取するのもありね。とりあえず、食事代と宿賃くらいはなんとかしましょう! ナビとサポートはルナに任せて!』

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