第101話 人員補充




 ヴァルトルーネ皇女の提案は現実的かつ、早期に人材不足を賄えるものであった。

 俺も彼女に言われて、やっと気付かされた。


「なるほど……」


「どうかしら?」


「良いと思います。確かに、両国の関係性が破綻した分、時期的に早まったと思いますし」


 ヴァルトルーネ皇女の出した案に賛同の声を上げると、彼女はパンと手を叩いて微笑む。


「では、フィルノーツ士官学校から人材を引っ張ってくれば問題は解決ね」


 そう、ヴァルトルーネ皇女の考えは、俺たちがかつて在学していたフィルノーツ士官学校の生徒を特設新鋭軍に組み込むことであった。



▼▼▼



 考えてから、行動に移るまではあっという間の出来事であった。


 フィルノーツ士官学校はレシュフェルト王国とヴァルカン帝国の間に位置している。

 そして現在、この二国間の関係は誰もが分かるくらいに冷え込んでいる。冷え込み過ぎて、逆に大炎上してしまうまであり得るのだ。


 そんな国々に挟まれたあの中立区域。

 さぞ、居心地が悪いことだろう。

 戦争が始まれば、あの場所は真っ先に戦地となる。

 それこそ、互いの国を攻めるために重要な場所となるフィルノーツは、どちらの国も必死に取り合うことになるはずだ。


 戦乱の時代が訪れるのは遠くない未来。

 それを肌身に感じるような出来事もあった。

 レシュフェルト王国軍による、ディルスト地方への侵攻。

 この一件から、両国間の緊張感は最高潮に達することとなった。

 世界情勢が安定しない今、フィルノーツ士官学校の運営は続けるのが困難になっている。


 つまり、休校となることが目に見えているのだ。


 ──過去の世界でも、フィルノーツ士官学校はその運営を停止させた。生徒を引き抜くタイミングとしては、ベストであると思える。


 懸念点もある。

 士官学校上がりの生徒をいきなり軍部に組み込むのはリスクではないのか。

 そういう考えも、俺の脳内ではちゃんとあった。

 だが、その点に関してもヴァルトルーネ皇女は抜かりなく対処してみせた。


「特設新鋭軍への加入を決めてくれて、ありがとう。貴方たちのことを歓迎するわ」


 ヴァルトルーネ皇女の前に並ぶのは、フィルノーツ士官学校の生徒たち。予想よりも多く、驚きが隠せなかった。

 

「ルーネ様」


「どうしたのアル?」


「多くないですか?」


「そうね。想像以上の収穫だったわ」


 笑顔を絶やさないヴァルトルーネ皇女も、目の前に集まった大人数の生徒たちに戸惑っている。決して顔には出していないが。


「どう見ても、ヴァルカン帝国出身の生徒だけではありませんよね」


 フィルノーツ士官学校の人数分布は、レシュフェルト王国出身が六割、ヴァルカン帝国出身が二割、その他の国出身が二割というような配分である。

 しかし、この場に集まった生徒の数は、ヴァルカン帝国出身の生徒だけとは思えないくらいに多い。


「どうやら、レシュフェルト王国出身の生徒も多いようね」


「貴族は流石にいないでしょうけど……まさか、自国と対立しているこの国に来るとは……」


 祖国を捨てた俺が言える立場ではないが、この結果は本当に意外だ。


「人材不足は、これで解決ですね……」


 いとも簡単に特設新鋭軍、並びにヴァルカン帝国中枢部の人手不足は解消された。

 それに、


「帝国軍からも、人材を引っ張って来たんですね」


 活動量が大幅に縮小している帝国軍からも優秀な人材を連れてきたことには感服した。

 視線の先には、帝国軍の第一線で活躍していた猛者たちが数多く揃っている。


「経験者は必要だもの。それに、腐らせておくには勿体ないでしょ?」


「おっしゃる通りです」


 これでリツィアレイテに回っていた負担も分散する。

 肩の荷が一気に降りた感覚である。

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