第82話 スヴェル教団戦
爆音が響く。
レシュフェルト王国軍の一部が爆散した音であった。
仕掛けていた魔道具に気が付かずに、レシュフェルト王国軍がその場を通過した証拠だ。
熱風が遅れて飛んでくる。
「アルディア卿、今のは!」
驚くことはないだろう。
こちらの仕掛けた魔道具が発動しただけのこと。
まさか、ここまで余波が及ぶとは考えてなかったという者が大半だろうが、俺にしてみれば効果がどの程度の規模かは把握していた。
「ああ、仕掛けた魔道具が起動したんだろうな」
「あれほどまでの威力とは……」
「帝国の技術力を惜しみなく使ったんだ。これくらい容易いことだ」
誘爆しやすいように付近に粉状のものを詰め込んだ袋を大量に置いておいたのが大きいんだがな。
袋に火の手が回れば、そこから粉末が漏れ出て、また大きな爆発を招く。
魔道具の数が多少足りなくとも、補えるだけの大爆発を演出するのは意外と簡単だ。
「今ので、スヴェル教団もこちらが罠を張り巡らしていると勘付いただろう。迎え撃つ態勢と覚悟を決めろ!」
あれが開戦の合図でもある。
ここからは、両軍入り乱れる争いがディルスト地方で巻き起こる。
「こちらは数が少ない。少数であることを悟られれば、スヴェル教団の軍は一斉にこちらへ攻撃を開始するだろう。だから、絶対に姿を現すな!」
未知の敵ほど怖いものはない。
それは数であっても、実力であっても同じこと。
こちらがどれほどの数で、どれほどの実力を有しているのかを理解できない間、敵は不用意に攻め込んできたりはしない。
攻め込む前に、こちらに探りを入れてくる。
そして、情報を得ようとする。
「偵察に来た兵は、全力で潰せ。こちらの情報を極力相手に渡さないようにしろ!」
「はっ!」
スヴェル教団……この地に踏み入ったことを後悔させてやる。
ヴァルトルーネ皇女の前に立つのなら、国も宗教も関係ない。
「各々の奮闘を期待する。行け!」
ゾロゾロと動き出す特設新鋭軍の者たち。
さて、俺も前に出るとするか。
▼▼▼
横に並ぶ者はない。
ただ一人。
草木を掻き分けひたすらに進む。
目的地は死地。
俺のではなく、相手の死地だ。
「おい、今の爆発はなんだ!」
「聞いてないぞ。ということは、帝国軍か?」
「だが、帝国にはこちらを迎え撃つだけの期間が十分にはなかったはずだぞ?」
──ふっ、やかましいな。
期間が長かろうと、短かろうと。
お前たちを皆殺しにするのは俺の中で決定事項。
軍全体のことを考えるのはご立派なことだが、
「……ん? 今何か、音、がっ……!」
「おい、どうした⁉︎ ぎゃっ!」
──もっと周囲を警戒しないとな?
首を刈る時、骨をバッサリと断つ感覚が一番手に残る。
刃先から滴り落ちる血肉が、命を奪い取ったという事実をより明確に示してくる。
「貴様、帝国兵だな!」
「ああ、その通り。俺は帝国軍の者だ……」
「たった一人で何をしに来た?」
──何をしに来たとは、聞いて呆れる。そんなこと分かりきっているだろうに。
刃に付着した血肉を勢いよく払い落とす。
そして、その刃先をスヴェル教団の兵へと向ける。
「お前らを殺すためにここに来た。それ以外にどんな理由がある?」
偵察なんて生ぬるいことはしない。
敵陣のど真ん中。
乗り込んだのであれば、誠心誠意皆殺しに。
──それが俺なりのやり方だ。
「馬鹿か? 味方もなしに勝手な突撃か……帝国のレベルの低さが…………あがっ!」
──それにしても、スヴェル教団の兵というものはよく喋る。口を動かす前に手を動かせば、死なずに済んだのにな。
「口がよく回る……最近の鼠はキーキーと鳴くのだな」
教団兵は地に倒れる。
べちゃりと不愉快な音がその場に響いた。
敵兵を馬鹿にする前に、その愚か者を冥土に送ってやるのが先なはず。この兵士はその判断をしなかった。
──だから死んだのだ。
「こっ……この人でなしがぁ!」
「この帝国兵を殺せ! 命乞いなど聞くなよ」
ようやく、相手もやる気になったようだ。
こちらに剣やら槍やらを向けてくる。
まさか、数多くの兵たちを前に俺が泣いて『命だけは助けてください』……とでも言うと思ったのか?
──馬鹿はどっちなんだろうな。
「ふっ、命乞いなんかしないさ。それはこの戦いを愚弄するような行い。どちらかが滅ぶまで存分に死合おうじゃないか!」
俺は前に一歩踏み込む。
ほんの少しだが、顔は綻び、笑っていると思う。
「ひっ……!」
「び、ビビるな。相手は一人だ。伏兵もいない!」
「同時に仕掛けろ。対処できまい」
まあ、確かに伏兵なんていない。
友軍は俺のいる場所のずっと後方でこいつらを待ち構えている。
だが、この場所は安全圏であると、決めつけるような物言いは命取りになるということを教えてやるか。
……カチリ。
無機質な音が響くと共に、スヴェル教団の兵が布陣している至る場所から爆発音が響く。
「なっ、どういうことだ!」
「まだ言っていなかったが……」
「────!」
「ここは、我らが帝国領内。侵略者に情けをかけるほど、甘い処罰は下さないぞ」
当然、こちら側にも魔道具は仕掛けてある。
レシュフェルト王国軍の場所に仕掛けてあるものとは違い、こちらは手動でそれを発動させるようにしてある。
俺がそのトリガーを引くだけで、彼らは見えない脅威によって死に絶える。
「俺を殺せば、この惨状は収まるかもな?」
カチリ。
「どうする?」
轟音は響き続け、悲鳴も付近一帯で聞こえ続ける。
大虐殺。
しかし、こちらは侵入者にただ黙々と対処しているだけ。
悪いことはしていない。だってそうだろ?
──そちらが先にこちらの領地を脅かそうとしてきたんだから。
その報いは受けて当然だ。
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