第81話 大きな責務(リツィアレイテ視点)
「ふぅ……」
緊張感が増してきた。
ここで戦うという大役を任されたのは、私のことを信じてくれたから。
ヴァルトルーネ皇女殿下。
そして、アルディア卿。
お二方が私が勝利を収めることを信じて疑わないというのなら、その期待に応えることこそ、私にやれる最大限の恩返しとなるでしょう。
「リツィアレイテ将軍。まだ接敵まではかなり先と思われますが、レシュフェルト王国軍を偵察の者が確認しました」
「そうですか……陣容は?」
「騎兵、歩兵を中心とした編成です。平原での白兵戦を行うつもりでしょう。あれだけの兵力を集めたレシュフェルト王国軍です。油断なりませんね」
──白兵戦ですか。報告通りであれは有効な手段であるのは間違いありませんね。
40000もの大軍。
こちらとしても、重過ぎるくらいの相手ではありますが……。
それを覆すような戦い方をこちらがすればいいだけ。
「なら、こちらは予定通り遠戦の用意を──ミア!」
「はいは〜い。こっちは準備大丈夫だよ。弓兵、魔術兵は移動兵種問わずに高台に集めたから、撃ち下ろすのは完璧! 斉射するなら合図ちょうだいね〜」
呼べばミアはすぐに陽気な声音で返答してくる。
おちゃらけた返事とは裏腹に用意周到でとても助かる。
真正面から衝突するとはいえ、素の状態では不利なのは明白。
人数差を埋めるためにも、最初にある程度敵戦力を削る必要がある。
その点、遠戦は有効。
相手がこちらに接近し切るまでにある程度の戦力を削げる。
「魔道具の方も抜かりありませんか?」
「そっちも大丈夫よ。私が起爆するのかをちゃんと確認してきたもの」
ミアに続き、魔術兵隊の隊長であるペトラがそう答える。
魔術関連の内容なら、彼女が適任だ。
「流石ペトラちゃん!」
「魔術師ならこれくらい当たり前にこなすわよ」
レシュフェルト王国が魔道具の仕掛けてある箇所を通過すると、自動的に起爆する。そんな魔道具がディルスト地方の至る所に配置されている。
他にもレシュフェルト王国を苦しめるような罠がさまざまあるが、破壊力の一番高い爆破魔道具が問題なく使えるのなら、心労も軽くなるというもの。
「ペトラ、事前確認ありがとうございます」
「ええ」
やれることはやってきた。
ここからは互いに手札を切り合い、どちらが上かを決めるだけ。
私は大きく息を吸った。
「いいですか! 敵戦力はこちらを上回ります。しかし、恐れることはありません。私たちにはヴァルトルーネ皇女殿下がついておられます。私たちを見つけてくださった……救ってくださったあの方に報いるために皆一層奮い、戦いなさい!」
鼓舞するように大声を上げれば、それ以上に大きな歓声が上がる。
「よっしゃ、やってやろうじゃねぇか! ここでまた武功を積めれば、エリート街道まっしぐらってもんだ!」
「そうだな。祖国である国と一戦交えるのは、少しばかり心が痛むが……今の我らはヴァルカン帝国の兵。全力で彼らを弾こう!」
スティアーノ、アンブロス共に空に腕を掲げ、堂々と宣言をする。
「各員、配置につきなさい。特設新鋭軍、出撃!」
天運は我らにあり。
勝手に神から与えられた運命……そんなものを信じるわけではありませんが、何故でしょう。この戦いは私たちに追い風が吹いているような気がします。
ヴァルトルーネ皇女殿下、そしてアルディア卿。
彼らの望むがままに世界が動いているような不思議な感覚。
これは気のせいなのか、それとも……。
「リツィアレイテ将軍、レシュフェルト王国軍の侵攻経路にやや変化あり。隊列を組み直しますか?」
「構いません。多少の路線変更は想定済み、全方位をカバーできるような陣形です。堂々と迎え撃ちましょう」
──今、考えることではありませんね。
とにかく、この場に必要なのは勝利のみ。
皆が喜んで祝杯を上げる未来をこの目で拝みたい。
私の望みはそれだけです。
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