第75話 度重なる邪魔者




 あの日……そう、俺が絡んできた反皇女派の連中にお灸を据えてやったあの出来事のあった日からおよそ二週間。

 未だにヴァルトルーネ皇女や特設新鋭軍に対する反発は大きい。

 これまで皇位継承に前向きでなかったヴァルトルーネ皇女。

 しかし、今になって彼女が大きな功績を上げつつある。

 それが気に入らない者は探せばいくらでもいる。


「はぁ……またか」


 背後に気配を感じた。

 最近は連日そう。

 隠しきれない殺気を浴びせられ、その鋭い刃が俺の命を狙う。


「ふっ!」


「んなっ……!」


 暗殺者だ。

 帝城の中だろうとお構いなし。

 俺を殺そうとする輩が後を立たない。


 差し向けられたナイフの刃先を振り返ってから蹴飛ばす。

 剣を抜いている暇なんてないから、こっちの方が対処としては適切だ。


「俺に何の用だ?」


「ちっ」


「まあいい……どうせ、生きて帰してやる気はないからな」


 一人いれば百人はいると思った方がいい。

 それが害虫が出た時の考え方。

 この手の連中、毎度俺を殺しにきては返り討ちに合うばかり。


 のこのこ一人で俺を襲おうとしているとは考えにくい。

 視線だけを周囲に配る。


「なるほど……」


 ──囲まれてるな。


 ざっと十数人……気配の隠し方も、今ままで襲ってきていた準素人暗殺者とは違う。

 本気で息の根止めに来たか。

 周囲には暗殺者以外に誰もいない。


 この状況を切り抜けるには、俺が一人で暗殺者全員を殲滅する必要がある。


「はぁ、嫌われたもんだな……」


 専属騎士だから。

 ヴァルトルーネ皇女に選ばれた者だから。

 邪魔者だから──。


 あの時、俺を潰さなかったのが相当堪えたのだろうな。

 ヴァルトルーネ皇女を失墜させられなかった反皇女派の貴族たちは更に肩身の狭い思いをしている。

 俺はフッと息を吐いてから、暗殺者をキッと睨んだ。


「……依頼主は、ヨナ子爵かアミル男爵……辺りか?」


 適当に反皇女派貴族の名前を挙げれば、暗殺者はピクリと反応を示す。


「な、何故……!」


「まあ、そこらが妥当だからな。予想もしやすい」


 辿られても問題ない下級貴族が依頼主。

 卑怯だが、常套手段ではある。

 反皇女派は勢いを削がれている。

 故にこれ以上大きな損害を出すわけにはいかない。

 主要貴族はこの件に関与せず、仮に下級貴族が罰せられたとしても、知らぬ存ぜぬを押し通せば良いわけだ。


 ──まあ、そんなこと許すわけないが。


「言っておくが、依頼主が割れた瞬間からお前らの破滅は確定するぞ」


「な、何のことだ!」


「当たり前だろ。お前たちが相手にしているのは専属騎士の俺なんかじゃない。次期皇帝となるべきお方……ヴァルトルーネ皇女殿下だ。下級貴族に言われてやったと言えば、上の処罰は避けられる……なんて甘いことが通じる相手とでも?」


 ──反皇女派筆頭の貴族は諸共潰す。

 その大義名分をこうして持ってきたんだから、俺は全力を以て、彼らを迎撃するのみ。



 暗殺者は目に見えて焦っている。

 今回失敗すれば、依頼主……ひいては自らの終わりが決まると察したようだ。

 貴族を排斥するくらいのいちゃもんはいくらでも付けられる。

 それだけの地位を俺の主人である彼女は手にしている。


 短刀を構える暗殺者。

 周囲にいる同業者たちもこぞって姿を現す。


「貴様を殺す……」


 明確な殺意と決意表明を聞き、俺も剣を抜く。

 決死の覚悟をした敵に対して、生半可な対応をしてはいけない。


 これは純粋な殺し合い。

 全力で相手をしなければ、失礼というものだ。


「いいだろう。俺に敵対するこの場の全員をあの世に送ると約束する」


「調子に乗るなよ……若輩者」


「その若輩者の始末に手間取っているお前らは、暗殺者として半人前にも満たないな」


「────!」


 下手な挑発をしたものだ。

 けど、効果覿面。


 殺しのプロとの戦闘が始まった。

 相手は殺しのプロだが、俺は元大量殺人鬼。

 果たして、どちらの方が上だろうか?


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