第59話 専属騎士の本気




 乱戦模様は遠目からでもはっきりと視認出来た。

 弓矢、魔術の飛び交う戦場が目の前に広がっていたことが驚きであった。


 何故、と。

 圧倒的に数的不利を背負っていたのはリツィアレイテ率いる調査隊。

 盗賊たちに囲まれながらも、リツィアレイテの奮戦によってなんとか均衡を保っているような状況だ。


 ──危ないな。到着が少しでも遅れたらどうなっていたことか。


「ブラッティ、降りるぞ」


 俺は騎竜に掴まる手を離して、そのまま飛び降りる体勢になる。

 そんな俺に対して、ブラッティは慌てた様子で俺の方に視線を向けて来た。


「ちょっ、アルディアさん⁉︎ この高さから飛び降りる気ですか! 死にますよ?」


「死なない。他の人よりも身体は頑丈だ」


「そういう問題じゃないでしょ!」


 鋭いツッコミが飛び込んでくるが、今すぐに援護をしてやりたいという気持ちが強かった。


 だから、普通の者なら無理なことであっても──。


「あっ、アルディアさん!」


 ──俺はやる。


 高さは十数メートル程。

 まともに着地したら、まず間違いなく骨が折れるだろう。

 剣を抜き、俺はそのまま降下する。

 盗賊の頭めがけて俺は一直線に進む。


「ぐぇぁっ!」


 そのまま盗賊の男を下敷きにしながら、斬り捨てる。

 突然目の前に俺が現れてさぞ、驚きだろう。


 ……俺も騎竜から飛び降りることがあるなんて思わなかったし、まさか無事に生還できるとは思わなかった。


「アルディア卿⁉︎ 何故、空から……!」


 案の定、リツィアレイテは驚いたような顔をこちらに向ける。

 ……盗賊に槍を刺しながら。

 意識はこちらに向いているが、手先は無意識に敵との戦いに向いている。


 兵士としての本能か……相変わらず、ちゃんとしてるな。


「リツィアレイテ将軍! 約束通りアルっち連れて来たよ〜!」


「リツィ〜、今から助けるよ〜!」


 少し遅れて、ミアとブラッティも降りてくる。

 数的不利ではあるが、こちらは騎竜兵が三人。

 ただの兵士とは比べ物にならないくらいに強者揃いだ。


「ミア、ブラッティ……」


 リツィアレイテの表情が少しばかり緩んだ。

 神経擦り減らして戦っていたんだろうなと思いつつ、俺は他の盗賊に視線を向ける。


「んだよ。援軍なんて聞いてねぇぞ!」


「黙って殺せ。相手は全然少ない。三人増えたところでこっちの有利は覆るわけがねぇ」


 盗賊団は有利を確信して、未だ余裕そうな面持ちである。

 確かに敵は多く、こちらは囲まれるような感じになっている。一見、こちらが絶体絶命の大ピンチみたいな場面。

 ……別にそんなことないんだが。


「リツィアレイテ将軍、全部斬り捨てても、問題ないですよね?」


「え、ええ……それはもちろんですが……この数をですか?」


 リツィアレイテは驚いている。

 いやいや、俺じゃなくて貴女もそのレベルまで戦えますよね?

 自分のことを棚に上げて俺のことを化け物みたいな感じで見ないで欲しい。


「おいおい、ガキが粋がるなって。ぶっ殺すぞ、ああ?」


 盗賊はこちらにゾロゾロと集まる。

 舐め腐った態度は一貫しており、一斉に襲いかかってくるのは目に見えて分かった。


「ケケッ、後ろにいる女と金目のものだけ置いてけば、命くらい助けてやるぞ?」


 その余裕がいつまで持つのだろうか。

 命乞いをするのはどちらか教えてやらなきゃならないらしい。


「ミア、ブラッティ、早速で申し訳ないのですが、前線に出て盗賊団の撃退をお願いします。怪我人が多く、そろそろ危なかったところなので──アルディア卿が挟まれないようにサポートに徹してください」


 リツィアレイテの指示が後ろから聞こえてくる。

 サポートに徹しろの意味合いは大体想像がつく。


「くれぐれも、アルディア卿の近くに寄らないでください。……巻き込まれたら、貴女たち自身の命があるか、分かりませんから」


 ──そう、俺が大暴れした時の被害を警戒したからである。


 ……うっ。やっぱり、ちょっとだけ心が痛い。

 敵味方、見境なく剣を振り回す気なんてない。

 近くにいたら危ないかもしれないが、味方を誤って殺しちゃうなんてことは絶対にしないと誓える!


「うん、分かったよリツィ。アルディアさんは危険だもんね」


「アルっち、触るな危険ってやつね! 把握したよー」


 残念ながら、俺の心からの言葉は誰にも届かないようだったが。

 やめろ、危険物みたいな扱い。


「はぁ……なんで、味方に背中刺されなきゃいけないんだ……」


 精神に直接届く攻撃。

 心がだいぶ抉られた。


 この心の痛みをどこで晴らそうか……まあ、決まっているけど。


「おい、ブツブツ喋ってんじゃねぇぞ。ガキが!」


 ──さて、早速始めようか。合間の大掃除を。


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