第57話 ブラッティは遊びたい
ディルスト地方での仕事は順調に進んだ。
本当に嘘みたいだ。
まだ昼前なのに、やるべきことは完全に終わったと言える。不思議なこともあるものだな。
そして、見るからにポンコツキャラっぽかったブラッティであったが、
「アルディアさーん! 魔道具の設置終わりました!」
意外にも……というか、物凄く優秀だった。
リツィアレイテに鍛えられたのか……それとも、元からなのか。
そんなことを考えていると、ブラッティから訝しげな視線を向けられる。
「むぅ……なんですか、その目……私に何か思うところでもあると?」
「いや、そういうんじゃないが」
「嘘だ嘘だ。今の目は……『えっ、なんかこの子解釈違いなんだけど。イメージ崩れるわ〜』みたいな感じでした!」
鋭いな。
それとも、俺が分かりやすいだけなのか。
どっちでもいいか。やるべきことが終わったという事実に変わりないのだから。
「はぁ、そろそろ帰りましょうか」
「えっ、スルー? もっとリアクションとか欲しい場面なんだけど」
「魔道具は用意していた全てを配置し終えました。今日のところはこれ以上やることがないので、帰るだけなんですが」
切り上げたい俺と、まだこの場所でお話がしたいブラッティ。
対立するというわけではないが、やんわりと話し合いが始まりそうな雰囲気である。
「アルディアさん、観光しましょ!」
「観光しません。俺はこの後も仕事が詰まっているんです」
「いいじゃないですか。たまの息抜きくらい、優しい皇女様なら許してくれますよ」
「あの方がお許しくださったとしても、却下です」
無益な言い争いだな。
どうせ一年後にはこの周辺も火の海に変わるというのに。
この場所の景色は目に焼き付けた。
時間はいくらあっても足りない。
「ほら、観光はまた来れますから──今日はもう、アルダンに帰りますよ」
「え〜、折角こんなとこまで来たのに〜。お土産とか買いたかったのに!」
さては、この子仕事とプライベートをごちゃ混ぜに考えてるな。
まあ、やるべきことやってくれたから文句を言うつもりはないけど。
だから俺は彼女に背を向け離れる。
「はぁ……分かりました。俺は帰りますが……ブラッティさんは別途の要件でディルスト地方に残ったと言い含めておきますので、今日一日は自由にしていただいて構いません」
彼女に息抜きの時間を提供。
これで満足するだろうと、思いつつ、チラリとブラッティの方に視線を向ける。
しかし、ブラッティは不満そうな顔をする。
「え〜、アルディアさんも一緒に観光しましょうよ! 一人より二人の方が絶対楽しいですって!」
──いやいや、俺まだ仕事が残ってるって言ったよね?
「じゃあ、他に連れてきた兵たちと一緒なら……」
「私、アルディアさんとがいいです!」
何故、俺にそこまで拘る。
リツィアレイテとの関係性に関する誤解は解いたはずだ。
ブラッティとの付き合いも、まだ出会ったばかりで短いもの。
「理解に苦しみますよ……俺と出掛けて楽しいのですか?」
「うん、私的にはきっと楽しいものになるって感じがする!」
ああ、本当に。
理解に苦しむな。
前提として、
一つだけ言っておきたいことがある。
──俺は誰かとお出かけをしたりする習慣はなく、それらの類に入る経験もほぼ皆無であると。
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