第56話 騒がしき女性
ディルスト地方南部方面。
レシュフェルト王国が侵入してくる可能性の高い地域であるここは、特に入念な下準備を必要とする場所なのである。
周辺の調査と合わせて、俺は今、迎撃戦のための用意をしなくてはならない。
それなのに……。
「ねぇねぇ、リツィとどこで知り合ったの?」
……あの時の女性と共にいるのは一体どうして?
何故、彼女が俺と同じ調査に駆り出されてるんだろうかと、首を捻る。なにこれ?
「あの、なんで君が?」
「君じゃなくて、私はブラッティ。リツィが『アルディア卿に付いてあげて〜』って言うから、ウキウキで来たんだよ!」
それはもう頼まれごとじゃなくて自発的に近くないだろうか。
ブラッティは未だにリツィアレイテとの関係を勘ぐってくる。
彼女とは共に戦う同志だと説明したのに。
「何度も言うが、彼女とそういう関係になる気はない」
「でも、今後なるかもしれないよ」
「ならない」
「なんでよ。リツィ可愛いのに」
「俺なんかじゃ釣り合わないし、俺は自分の務めを果たすまでは色恋沙汰にうつつを抜かしている暇がない」
戦場では一瞬の気の緩みが死に繋がる。
常に感覚を研ぎ澄まし、緊張感を持たなければならない。
浮ついた気持ちが僅かにでもあれば、作戦行動に支障をきたす恐れがある。
──リツィアレイテも同じこと考えてると思うけどな。
彼女もまた俺と同類なんじゃないかと思う。
任務に忠実で、生真面目。
責任感が強く、
努力家で、
他人に厳しく、自分にも厳しい。
それが俺のリツィアレイテに対する印象である。
「第一、そういう振る舞いをしていたらリツィアレイテ将軍にも迷惑がかかる」
「え〜、リツィはそんなこと思わないって!」
「そう見えたとしても、表面上なだけかもしれない。彼女は感情をあまり面に出さないような人だと思いますよ」
リツィアレイテが激情を秘めていたとしても、俺は不思議に思わない。
酔っ払った時に大きく変化した彼女を見て思った。
この人は普段から色々と溜め込んでそうだな、と。
「友人なら、あまり迷惑をかけない方がいいですよ」
「なんで私が図々しいやつみたいに言ってんの⁉︎」
「え?」
「え?」
この子、図々しくないと思ってたの?
図々しくない?
俺の向ける視線に耐えられなくなったのか、ブラッティは地団駄を踏む。そして、俺の胸ぐらを掴みグラグラ揺らしてくる。
「もう、そんな目で見ないでよ〜! リツィにイタズラばれて叱られる時と同じ視線なんだよ〜」
……しかもこの子、ちょっと自覚あるし。
自重という言葉を覚えたほうがいいと思う。
「はぁ、目が回るのでそろそろ手を離してください」
「やだ!」
「やだ! ……じゃなくて、仕事に来てるんですから、真面目にやってください」
本当に疲れるなぁ。
リツィアレイテとはまるで違う性格。
完璧主義者っぽいしっかり者のリツィアレイテと比較してしまうと、この自由奔放っぷりは余計に目立つ。
だからこそ、
「ぶーぶー、アルディアさんお堅いんだぁ!」
今から行う仕事がちゃんと終わるのかと一抹の不安を覚えることになった。
気分屋なブラッティに振り回されそうな一日になりそう。
自然とそんなことを考えたが、あながち間違いじゃなさそうなのが末恐ろしいものだ。
「はぁ……」
今日中に帰れるといいのだが。
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