第46話 どんな強敵でも二人なら
「敵……増えた? 女なのに、強い」
──リツィアレイテとの共闘。
まさか、こんなに早くに叶ってしまうとは思わなかった。
彼女の率いる左翼側の軍勢は既に役目を終えたようで、本軍に群がっている敵の残党兵の殲滅に乗り出しているようだ。
リツィアレイテは俺が苦戦していると分かったからだろう……こちらの援軍に来てくれた。
他の者たちに任せられないことも分かっているから、彼女自身で来てくれたのだと思う。
……本当に助かる。
「ありがとう。リツィアレイテ将軍」
「いえ、戦いは数という言葉もあります。一人では難しくとも、二人でなら──必ず目の前の強敵にも打ち勝てるはずです」
リツィアレイテがそんなことを言うのには心底驚いた。
てっきり、一騎討ちとかが好きそうだなと思っていたから。
暫く黙っていると、リツィアレイテは不思議そうに首を傾げた。
「……えっと、なんですか?」
「いや、戦いは数とか……そういうのは嫌いだと思っていたから」
「戦場において好きも嫌いもありません。生きるか死ぬか……その一点だけを考えるべきなのですから」
──それもそうだな。
意味のない質問であった。
俺たちは誰一人として欠けていい者などいない。
全員が生きて帰るべきなのだ。
現実的にそれが不可能だとしても、全員生存を目指すのは、当たり前のことであろう。
「リツィアレイテ将軍の騎竜は疲れていませんか? 中々激しい戦闘があったと思いますが」
「はい。まだまだ元気です。目の前にいるこの男を屠るくらいの戦いはこなしてくれるはずですよ」
「それは頼もしい。頑張りましょう」
「はい!」
リツィアレイテが愛してやまない騎竜は大きく立ち上がる。
大男よりも大きく、その姿はまさに圧巻の一言に尽きる。
漆黒の翼を大きく広げ、大男を威嚇するようにグルグル唸っている。
「騎竜……肉、美味い! 殺すっ!」
対して、大男はその騎竜に怯えることがない。
逆に目の色が輝いているような……。
というか、騎竜を食用にしようなんて……趣味が悪過ぎる。
呂律の回らない男の様子を散々観察してきたが、この男……精神状態が明らかに正常ではない。
リツィアレイテも眉を顰め、不快そうな顔をする。
「……はぁ、話の通じなそうな相手ですね。薬物中毒者か、あるいは──とにかく、この男は殺す他ないでしょう。生け捕りなんて無理そうですし」
「はい。そのつもりです。リツィアレイテ将軍、援護をお願いします。正面から斬るつもりですが、中々間合いを詰められません」
精神に異常をきたしていたとしても、敵の実力はかなり高い。
下手な動きをすれば一瞬で首が飛ぶ。
リツィアレイテの騎竜がいるから、相手は簡単に距離を詰められなくなった。
騎竜に乗り、長い槍を扱うリツィアレイテの方が迎撃範囲が広いからだ。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
──まあ、となれば狙いは俺だよな。
馬にはもう乗っておらず、剣は相手の棍棒よりは短い。
倒しやすいのは俺の方……とか思っているんだろうな。
俺が相手の立場でも同じ選択をすることだろう。
──倒せそうな方を狙うのは、戦いの鉄則。
でもな、
生憎、お前の動きはある程度見切ったんだよ!
「はぁっ!」
「んぐごっ……!」
男の棍棒は地面にめり込み、俺の蹴りが男の腹部に当たっていた。
剣で軌道を変える。
それだけだと足りないが、攻撃手段は剣だけじゃない。
両手は剣で塞がっていても、足は自由に扱える。
「リツィアレイテ将軍っ!」
彼女の名を呼べば、すぐさま彼女の槍が俺の真横を通り過ぎる。
「──覚悟っ!」
男は冷や汗をかきながらも、リツィアレイテの追撃を辛うじて回避した……いや、致命傷を受けなかったというのが正しいか。
リツィアレイテの槍の刃先は男の腕を擦り、切り傷の箇所からは真っ赤な液体がポタポタと流れ落ちている。
「外しましたか」
「いや、掠ってたよ」
距離はまた開き、仕切り直し。
「…………許さない。俺に傷を付けた。殺す、殺すっ!!」
弱らせるどころか、逆効果って感じだな。
アドレナリン全開なのか、痛みもあまり感じてなさそうだ。
「すみません。仕留め損ねました。次は必ず!」
「いえ、俺の方こそ。やつに有効打を与えられませんでしたから」
凶暴化したのは厄介だ。
けどまあ、どちらにせよ相手を少しずつでも削らなきゃいけなかった。遅かれ早かれというところである。
「アルディア卿、一気に決めましょう!」
リツィアレイテも長引かせるのは得策でないと感じているようで、俺にそう告げ槍を前方に構えていた。
俺も再度剣を男に向かって差し向けた。
俺とリツィアレイテの騎竜、そして対面に立つ大男はほぼ同時に走り出す。
両者の距離がぐんぐんと近付く。
──ガキンッ!!
決着の音が鈍く響いた。
これほどまでの激戦、本当に予想外のことであった。
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