第41話 強引な突入劇





 市街地入り口。

 攻防戦というには、あまりに一方的であった。

 ただ無防備に斬られる敵兵は、恐怖に震えながらその息の根を止めた。


「に、逃げろっ!」


「もう、終わりだ。ここはもう守れないぞ!」


「ふざけんな、ここを突破されたら俺たちは終わっ…………タハッ……!」


 容赦などない。

 敵は討つだけ。 

 情けなど必要ない。

 ヴァルトルーネ皇女が皇帝になるための糧となれ──。


 一心不乱に振るう剣は肉を切り裂き、骨を断つ。

 恐怖に染まる敵兵の顔を見ながら、俺は静かに黙々と敵を斬る。

 少数な騎兵隊で乗り込んでみたものの、練度の違いか……敵が烏合の衆で助かった。


「アルディア卿、突き当たりの通路まで我々が掌握しました。即席で陣を構築しますか?」


「ああ、アンブロスの重装兵隊が到着するまでに取り返されたくない。最初はできるだけ広く、突破され始めたら範囲を狭めて、厚く深く陣を張ってくれ」


「はっ!」


 簡単に指示を出すと、騎兵隊は黙々と陣を形成し始める。

 その間にも、遠方からペトラの魔術兵隊が火球を市街地に撃ち込んでいた。

 この分なら、こちらに割ける兵力もあまりないだろう。


「持ち堪えろ。侵入を許すな!」


「我が軍の名声を世に轟かせるぞぉ!!」


 騎兵隊は縦横無尽に動き回り、通路を取り返そうとする敵兵をことごとく打ち砕く。

 やがて、敵の勢いも落ち着き、ほぼ確実にエリア内を制圧した頃、


「アルディア、待たせたか?」


「いや、いいタイミングだ。騎兵隊、陣の形成は重装兵隊に引き継げ、隊列を整えろ! 市街地内部に入り込むぞ!」


 アンブロス率いる重装兵隊が到着。

 これにより、市街地の一部分を俺たち右翼の軍が完全制圧した。

 ペトラの魔術兵隊も前線を押し上げ、市街地のより内部への攻撃を開始する。


「撃ち続けて、敵に休む隙を与えてはならないわ!」


 鬼だと思った……。

 いや、まあそんなことを言ったら、俺も大概か。


「アンブロス、引き続き魔術兵隊を守りつつ前線を上げてくれ。先に行って、内部を荒らしてくる」


「了解した」


 この場はアンブロスに任せるとしよう。

 彼は前世でも、要塞を守る守備隊長を務めていた。

 難攻不落の要塞に君臨する地獄の門番。それがアンブロスという男だ。

 敵の攻勢が強くなろうとも、彼なら長い時間耐えてくれる。


「そっちの様子も逐次確認させる。危なくなったら、すぐに呼んでくれ」


 そう言い残し、俺は数少ない騎兵隊の先頭に躍り出る。

 専属騎士としてこの場面でも先陣を切って走る。

 電撃戦だ。

 騎兵隊の高い機動力が生きる時。


「いいか? 絶対に止まるな。駆け抜けろ。常に動きながら武器を振え! 訓練通りにやれば、迅速な陣地占領が可能になる」


 ここ短期間で叩き込んだ策を再度伝える。

 馬に跨る騎兵隊の面々はコクリと頷き、剣、槍、斧などそれぞれの武器を構えた。


「アルディア卿、突撃隊形整いました。いつでも行けます!」


 騎兵隊の一人がそう告げた。

 それから俺は深く息を吸い込む。

 そして、天に剣を掲げて大声で叫ぶ。


「騎兵隊、突撃っ!」


 慌ただしく鳴り響く蹄鉄の音。

 地ならしのように揺れる地面は俺たちの進行を相手に知らせる危険信号となって焦りを与えた。


「敵襲!」


「おい、もう入って来やがったぞ! 押し戻せ」


 今更遅い!

 馬で駆ける騎兵隊の勢いを止めることは簡単じゃない。

 

「討ち倒せっ!」


「「「「はっ!」」」」


 強引な突撃。

 それでも、相手に成す術はない。

 崩壊する敵陣をただ荒らし回る。

 

「次、向こうに進行するぞ!」


 リゲル侯爵軍の敗北はもうすぐそこだ──。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あとがき



本作は2023年2月25日にオーバーラップ文庫より書籍発売予定となりました。

応援ありがとうございます!

引き続きよろしくお願い致します。

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