第27話 幽霊王子の心変わり(イクシオン王子視点)
レシュフェルト王国の王子として生を受けてから、この人生に期待したことなど一度たりともない。
血を分けた兄弟たちは自分勝手なやつばかり。
王子だからという理由だけで、城内での横柄な振る舞いを繰り返す。
父上や母上は、上二人の兄にしか興味がなく、第四王子の俺なんかは久しく会話すらしていない。
「……はぁ、退屈だ」
窮屈な部屋でただ時の経過を待つばかりの日々。
剣術や教養の勉強などはそこそこの結果が出るようにやり、誰からも期待されず、見向きもされないようにした。
こんな人生にどんな意味を見出せば良いのだろうか。
そんな疑問を胸の内に抱いた日から、俺はずっと王子の立場なんてものを捨ててしまいたいと思うようになっていた。
国王にはなれない第四王子。
されども、王子という身分を背負ったがために、活動範囲は制限され、接する人間も限定的。
「いっそ、ヴァルカン帝国に亡命して……平民として生きるのも悪くないな」
呟いた言葉はほんの冗談。
本気でそんなことを望んでいたわけではないが、少なくとも現状を維持し続けるよりは魅力的な生き方ではあった。
自由に外の世界を見て、歩いて……人目を気にすることなく自分のために生涯を生きてみたい。俺は本気でそう思っていた。
「殿下。お客様がお見えになりました」
部屋の外から侍女の声が聞こえてきた。
俺の元を訪ねてくるような人は決まって奇人変人だ。
こんな落ちこぼれ王子に媚びを売るだけ無駄だからである。
普通なら、俺なんかよりも上二人の兄との親交を深めようとする。
「誰だ?」
「それがその……えっと。誰かと申し上げますと、ちょっと説明が難しいのですが」
扉越しにも分かるくらいに侍女の動揺が伝わってくる。
要領を得ないまま、ゴモゴモと口籠る。侍女がその人物の名を中々告げることが出来ないのは、相当に珍しい人なのか。
──少しだけ興味が湧いた。
「いや、いい。その客人はどこにいるんだ?」
侍女の回答を聞く前に俺は、スッパリ決断を下した。
「お客様は、すぐ隣の客間にいらっしゃいますが……えっと、殿下」
「会おう」
「へ?」
「だから、その客人に会うと言ったんだ」
俺は部屋の扉を開いた。
驚いたような顔の侍女が真前で固まっているが、俺はそれを特に気に留めることなく、周囲を見渡した。
廊下はシンと静まり返り、隣の部屋にいるであろうお客人の声すら聞こえてこない。使用人の姿も見えず、普段通りの閑散とした場所である。
「殿下、本当にお客様にお会いになるのですか?」
侍女の投げかけた疑問に俺はすぐに言葉を返す。
「ああ、俺に会いに来る物好きな顔をこの目でしっかりと見てやりたくなった」
「そう、ですか……いえ、でも! そのお客様はですね、ちょっとその……殿下との関係性が複雑と言いますか……」
なんだろう。
この侍女は客人と俺を会わせたくないような顔をしている。
「俺がその人に会うと不都合でもあるのか?」
「い、いいえ。そのようなことは特にない……と私個人としては思いますけど」
「なら、いいだろう」
──久しぶりに、少し楽しい気分だ。
ほんの興味本位。
俺なんかにわざわざ会いに来た物好きは誰なのかと。
俺は隣の部屋の扉の前に立つ。
そして、その扉を開いた。
「…………貴女は」
見覚えのある人物であった。
当然だろう。
何故なら、彼女は──。
「ご機嫌よう。イクシオン王子」
「ヴァルトルーネお義姉様……?」
兄の婚約者であるヴァルカン帝国の皇女、ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフ皇女だったのだから。
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