第21話 破綻する意味




「えーと、ミア? どこら辺から聞いてた?」


「ん? いや、ほとんど聞こえなかったんだけど、『戦争』とか『守って』とかって単語が聞こえてきたからさぁ。えっ、何? これから戦争があるの⁉︎」


 ああ、良かった。

 特に重要な内容は聞かれていなかったようだ。

 ……多分、これから戦争が起きるってことは勘付かれちゃったみたいだけど。

 俺とヴァルトルーネ皇女が二度目の人生を送っているなんて知られたら大変ななことになってしまうだろう。発言には気をつけなければ。


「ねぇねぇ、アルっち? 戦争なの、ねぇ? 答えてよ〜」


 いけないいけない。

 焦ったあまりミアのことを放置して考え込んでしまっていた。

 途中の物騒な単語を聞かれてしまった以上、俺とヴァルトルーネ皇女の話していた内容を完全に濁しておくというのは不可能だ。

 けれども、俺からそれを告げるのは違う。だから俺は、ヴァルトルーネ皇女に視線を向けた。

 彼女も、俺が何を言いたいかということを理解したようでコホンと軽く咳払いをし、ミアの注意を自分に向けるようにしていた。


「ミアさん、私から簡単に説明させて頂きます」


「…………」


「まず、戦争が起こるのか起こらないのか、という件ですが……」


「うん」


「恐らく、数年以内にヴァルカン帝国とレシュフェルト王国の全面戦争が引き起こされるでしょう……あくまでこれは、仮説ですが、将来的にはほぼ確定で戦争になるかと」


 ヴァルトルーネ皇女はそうミアに説明をする。

 未来の戦争を知っている俺とヴァルトルーネ皇女からしたら、『仮説』なんて楽観視は一ミリたりともしていないが、断言するのはそれこそ怪しい。

 彼女の説明はとても合理的であった。


「そうなんだ……ひょっとして、アルっちと騎竜に乗らなかったのは、それに関することの話し合いをするため?」


「そうですね。アルディアにはこの内容を共有していたので、今後の動きについての擦り合わせをしようと思っていたところです」


 間違ったことは言っていないな。

 きっとヴァルトルーネ皇女は、レシュフェルト王国との戦争が起きる前に色々と先回りするための計略を練ろうとしていたのだと思う。

 前世の記憶を共有している者同士。

 失敗を知っている者同士だからこそ、対策を立て易いというわけだ。


「なるほど、えっとなんでヴァルカン帝国とレシュフェルト王国が戦争になるか聞いてもいいですか?」


 ミアはこれまでよりも真面目っぽい顔でヴァルトルーネ皇女に詰め寄った。ヴァルカン帝国出身の彼女にとっても、今話した内容は他人事ではないからだろう。

 ヴァルトルーネ皇女も隠す素振りを見せず、素直に口を開いた。


「私が、レシュフェルト王国の第二王子……ユーリス王子との婚約を解消されたからです。婚約解消に伴い、王国と帝国の友好関係は悪化することでしょう」


 瓦解する関係性をヴァルトルーネ皇女は示す。

 そのことを聞き、ミアの顔色が変化するのを俺は見逃さなかった。

 彼女が怒りの感情を抱いたのが瞬時に分かった。

 ──あのユーリス王子に対して、思うところがある人は少なくない。だから、ヴァルトルーネ皇女は続けて話す。


「そこから戦争に発展するか……それは私にも分かりませんが、破綻した関係が修復されることは難しいことです」


 壊れたものは簡単に治せない。

 失った信頼も。

 愚かな行動の代償も。

 それらは全て、災いを招いた者に返ってくるのだ。


 もう両国の関係悪化は始まりかけている。

 止めることなど、ほぼ不可能なこと。


 だからこそ、人を選択を迫られる。

 何を信じて、突き進むかということを──。

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